人工股関節全置換術施行のタイミング~早く手術した方がいいの?遅く手術した方がいいの?~

人工股関節全置換術
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前回は人工股関節全置換術の原因となる疾病と術後経過の相違についてご紹介いたしました.人工股関節全置換術の原因疾患の中で最も多い変形性股関節症の中でも,寛骨臼形成不全を基盤とする二次性股関節症は40歳代・50歳代と比較的若い中年の女性にも多いことが知られております.特に若い方にとっては,人工股関節の耐久性を考慮すると,安易に早い段階で手術を行うわけにもいきませんし,そうは言っても疼痛が強く日常生活に制限が出ている状況であれば手術をせざるをえませんし,いったいいつ手術を行うのがよいのかと悩むことも多いと思います.そんな方にわれわれ理学療法士はどんな声掛けをしたらよいでしょうか?今回は人工股関節全置換術を行うべきタイミングについて理学療法士の視点で考えてみたいと思います.

目次

人工股関節全置換術施行のタイミング

人工股関節の耐久年数に関しては,10年前には15~20年と言われておりましたが,ここ最近は耐久年数が30年にも及ぶと明言している整形外科医師もいらっしゃるくらいで,インプラントの技術革新によって,以前に比べて耐久年数が長くなってきました.当然ながら人工股関節の耐久年数は体重,活動性,術後の人工関節のlooseningの程度によっても影響を受けるわけですが,40歳代・50歳代と比較的若いうちに人工股関節全置換術を施行されれば,再置換が必要となる確率というのはかなり高くなるわけです.

このデータは人工股関節再置換術を受けた症例が,初回手術を受けた年齢をグラフにしたものです.50~70歳と比較的若い年齢では女性よりも男性の方が再置換率が高いわけですが,これは仕事や活動性によるところが大きいとされております.また50歳代では20-30%の方が将来的に再置換が必要となるわけですが,70歳を超えると再置換率は低くなることが明らかにされております.逆に高齢になると心機能等が原因で全身麻酔が行えなくなることもありますので,あまり高齢になると手術が行えないといった場合もあります.したがって70歳代というのは人工股関節全置換術を行う上では最適な年齢と考えることができます.

 

タイミングが遅いと予後が悪い

手術のタイミングを考える上では,年齢だけでなく関節症の病期も考慮する必要があります.

このグラフは変形性股関節症の前期・初期に人工股関節全置換術を施行された方と,変形性股関節症の進行期・末期に手術を施行された方の術後10年におけるQOLを比較したものですが,術後10年と非常に長い期間が経過しても,進行期・末期の段階で手術をされた方は前期・初期の段階で手術をされた方のQOLまで追いつくことができないのだといったことがわかります.

臨床上も前期・初期の段階で手術を施行された方と,進行期・末期の段階で手術を施行された方では明らかに術後の機能が異なることを経験します.進行期・末期に移行した変形性股関節症例では関節変形も著しく,軟部組織の短縮による関節拘縮が高度である上に,代償的な隣接関節の運動が顕著となっていることが少なくありません.また罹患期間が長期に及び,慢性痛が遷延化すると大脳辺縁系にも基質的な変化が生じていることが多く,術後も疼痛が改善しにくくなります.

このように手術を行うタイミングを逃すと人工股関節全置換術後も十分な機能改善が得られにくくなるのです.われわれ理学療法士にできることは医師の治療方針を十分に把握した上で,このような疫学的データを患者様に伝えて上げることだと思います.場合によっては手術に向けて背中を一押ししてあげられるような一言をかけてあげられるのも普段から信頼関係を築いている理学療法士だからこそできることかもしれません.

 

 

 

 

参考文献

1)Bayliss LE, et al: The effect of patient age at intervention on risk of implant revision after total replacement of the hip or knee: a population-based cohort study. Lancet 389: 1424-1430, 2017

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