大腿骨転子部骨折における小転子骨片転位の重要性

大腿骨近位部骨折
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目次

大腿骨転子部骨折における小転子骨片転位の重要性

前回は大腿骨転子部骨折例の骨折型について紹介させていただきました.

大腿骨転子部骨折の分類~内側骨皮質の連続性に着目せよ~
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骨折型を判定する際には内側骨皮質の連続性に着目する必要があることは前回の記事でも述べたとおりです.

大腿骨転子部骨折例のリハビリテーション(理学療法)を行う上では,小転子骨片転位の有無と腸腰筋の機能低下に関して理解しておくことが重要です.

今回は大腿骨転子部骨折例における小転子骨片転位の有無について紹介させていただきます.

 

極める大腿骨骨折の理学療法 医師と理学療法士の協働による術式別アプローチ (臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス) [ 斉藤秀之 ]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大腿骨転子部骨折例における小転子骨片転位

前回ご紹介いたしましたEvans分類のtype1-group3やtype1-group4,つまり不安定型の骨折では大腿骨小転子の骨折を合併しやすいのが特徴的です.

小転子は整復が困難であり,骨片が組織内に遊離したままとなることがほとんどです.

ちなみになぜ小転子を整復しないかというと,整復が難しい(解剖学的に小転子は内側の奥深くにあり,固定が難しい)ということに加えて,仮に整復をしたとしても,対象者にかなり長期間免荷(3週以上)を強いる必要があるからです.

大腿骨転子部骨折例というのは大半が高齢者ですので,長期間の免荷を強いるとそのために廃用性の機能低下が進行し,歩行・日常生活動作の獲得が難しくなってしまいます.

昨今の医療機関における在院期間はかなり短縮されておりますし,小転子を整復して免荷期間を設けるというのは今の医療情勢にも合ってないんですよね.

やはり社会的には早期離床・早期荷重・早期退院が求められてますから.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小転子骨片転位による腸腰筋の機能低下

さて小転子骨片転位を合併すると,どんな機能低下が生じるでしょうか?

ここで重要なのは小転子に骨折があるかどうかだけでなく転位があるかどうかといった点です.骨折があっても転位が少なければ仮骨が形成され,骨癒合が得られる可能性も考えられますが,転位している場合には整復されないことがほとんどなので,小転子に付着を持つ腸腰筋の機能低下が生じてしまいます.

近年の報告では,骨折後半年後の腹部CTで腸腰筋の筋断面積をみると,小転子骨片転位例は非転位例に比較して,腸腰筋の萎縮が大きいことが明らかにされております.

 

腸腰筋の機能低下によって何が起こるかというと,以下の2点が非常に重要です.

 

①股関節深屈曲位における股関節屈曲運動が難しくなる

②歩行立脚終期における骨盤前傾運動が難しくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

①深屈曲位での股関節屈曲

股関節屈曲作用のある筋と言えば腸腰筋の他にも大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋・恥骨筋などが挙げられますが,実は大腿直筋と腸腰筋の活動量というのは股関節屈曲角度によって変わります.

 

 

 

 

 

 

 

大腿直筋は股関節軽度屈曲位で活動量が高くなるのですが,腸腰筋は深屈曲位で活動量が高くなることが明らかにされております.

股関節深屈曲位では大腿直筋の活動が減少しますので,腸腰筋の果たす役割が重要となります.

股関節深屈曲位での屈曲がどんな日常生活動作で必要になるかを考えてみますと,坐位での靴や靴下の着脱動作などがその代表的な日常生活動作になります.

臨床上も小転子骨片転位を有する大腿骨転子部骨折例では靴や靴下の着脱動作,フットレストへ下肢をのせる動作が難しくなることが多いです.

これはトレーニングを行う時にも非常に重要な知見になります.

下肢の筋力トレーニングとしてよく行われるSLRでは大腿直筋の活動が高まる一方で,座位での股関節屈曲運動では腸腰筋の活動が高くなるのです(骨盤を前傾位で股関節が深屈曲するように行うことが重要ですが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

②歩行立脚終期における骨盤前傾運動が難しくなる

腸腰筋といえば股関節屈曲作用のある筋として知られておりますが,open kinetic chainでは股関節を屈曲させる作用があるのですが,closed kinetic chainでは骨盤を前傾し腰椎を伸展,股関節・膝関節を伸展する作用を持つといった点に注意が必要です.

この抗重力筋としての腸腰筋の機能は非常に重要です.

 

 

 

 

 

 

 

 

特にこの腸腰筋の抗重力筋としての作用は立脚終期に股関節を大きく伸展させる上で重要です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高齢者になると歩行立脚終期における股関節伸展範囲が減少しますが,立脚終期に股関節が十分伸展していない場合に,股関節伸展筋群の筋力が不足していると考える理学療法士が多いのです.

しかしながらこれは大きな誤りで,実は立脚終期にはもともと股関節伸展筋群(大殿筋)はほとんど活動していないのです(大殿筋は初期接地時に最も活動しています).

腸腰筋は筋の走行から大腿骨頭を臼蓋の後内力へ押し込む作用を有し,一種の擬似臼蓋として股関節の安定性に寄与しているのです.

小転子骨片転位例においては腸腰筋の機能低下により,この股関節安定化機構が破綻するため,歩行能力が低下してしまいます.

腸腰筋が機能すると骨盤が前傾し前方への推進力が増すのに対し,腸腰筋が機能しないと骨盤が後傾し立脚終期に強くけりだすことができません.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は小転子骨片転位による機能低下について紹介させていただきました.次回は大腿骨転子部骨折に対する手術療法の違いがどのような機能低下を引き起こすかといった点について考えてみたいと思います.

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参考文献

1)小栢進也:関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮筋力の変化,,理学療法学,2011
2)Aprato A, Lo Baido R, et al.: Does lesser trochanter implication affect hip flexion strength in proximal femur fracture?. Eur J Trauma Emerg Surg.2015; 41: 523-529.
3)Shinoda S, Mutsuzaki H, et al: Factors influencing period from surgery to discharge in patients with femoral trochanteric fractures. J Phys Ther Sci. 2017; 29: 1976-1980.

コメント

  1. […] 大腿骨転子部骨折における小転子骨片転位の重要性骨折型を判定する際には内側骨皮質の連続性に着目する必要があることは前回の記事でも述べたとおりです. 大腿骨転子部骨折例のリ […]

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