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理学療法士・作業療法士の転倒に関する注意を喚起する声かけは有効なのか?
理学療法士・作業療法士が担当しているクライアントに対して転倒に関する注意を喚起する目的で「転ばないように注意してください」なんて声をかけることって多いと思います.
退院時なんかにもこういった声かけをすることって多いですよね.
でもこの転ばないように注意を喚起する声かけって有効なのでしょうか?
もしかしたら転倒恐怖感を高めてしまう場合もあるのでしょうか?
今回は理学療法士・作業療法士の転倒に関する注意を喚起する声かけは有効なのかを考えるうえで参考にできる研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Age Ageing. 2022 Apr 1;51(4):afac067. doi: 10.1093/ageing/afac067.
Protective or harmful? A qualitative exploration of older people’s perceptions of worries about falling
Toby J Ellmers 1 2 3, Mark R Wilson 1, Meriel Norris 2, William R Young 1 2
Affiliations expand
PMID: 35363253 PMCID: PMC8972997 DOI: 10.1093/ageing/afac067
今回ご紹介する論文は2022年に掲載された論文です.
研究の目的
Background: worries about falling are common in older people. It has been suggested that these worries can reduce balance safety by acting as a distracting dual-task. However, it is also possible that worries may serve a protective purpose. The present work adopted a qualitative approach to conduct an in-depth exploration of older people’s experiences of worries about falling.
転倒に対する不安は高齢者によく見られます.
これらの不安は注意を分配する二重課題として作用することによって,バランスの安全性を低下させる可能性が示唆されております.
しかしながら転倒に対する不安が予防的な目的を果たす可能性もあります.
この研究では質的なアプローチを採用し,高齢者の転倒に関する不安の経験について深く掘り下げた調査を行うことを目的としております.
研究の方法
Methods: semi-structured interviews were conducted with 17 community-dwelling older people (mean age = 79 years; males = 5/17) who reported experiencing worries about falling. Reflexive thematic analysis was used to analyse the data.
転倒の不安を経験していると報告した地域在住高齢者17例(平均年齢79歳,男性5名/17名)に対して半構造化面接を実施し手おります.
データの分析には再帰的主題分析を用いております.
研究の結果
Results: experiencing a fall-or otherwise recognising one’s balance limitations-brought the physical realities of participants’ ageing bodies to the forefront of their awareness. This led to the recognition of their susceptibility for an injurious fall, which triggered worries about falling in situations that threatened their balance. When preventing the subject of their worries (i.e. an injurious fall) was perceived to be within the individual’s locus of control, worries led to protective adaptations to behaviour. In contrast, when the subject of their worries was perceived to be outside their control, worries triggered feelings of panic-leading to unhelpful changes in behaviour.
転倒を経験すること,あるいは自分のバランスの限界を認識することは,対象者の加齢という身体的現実を前面に押し出すことになりました.
その結果,転倒して怪我をする可能性があることを認識し,バランスを崩すような状況での転倒に関して不安を抱くようになりました.
不安の対象である転倒を防ぐことが自分のコントロールの範囲内であると認識されている場合には,不安は行動への予防的適応につながりました.
一方で不安の対象が自分ではコントロール不能であると認識されている場合には,不安はパニック感情を引き起こし,行動に有益でない変化をもたらすことが明らかとなりました.
研究の結論
Conclusion: these findings provide novel insight into the development and consequences of worries about falling in older people. They highlight the importance of considering an individual’s perception of control before deciding to clinically intervene to reduce worries about falling.
今回の結果は,高齢者における転倒不安の発生とその影響について,新たな洞察を与えるものであります.
転倒の不安を軽減するために臨床的な介入を決定する前に,個人によって転倒をコントロールすることが可能かどうかを考慮することの重要性を強調するものであります.
今回は理学療法士・作業療法士の転倒に関する注意を喚起する声かけは有効なのかを考えるうえで参考にできる研究論文をご紹介させていただきました.
この結果から考えると転倒に対する注意喚起も場合によってはクライアントにとって有益でない可能性がありますね.
クライアントが転倒を自己にてコントロール可能かどうかについてどう考えているかによって,理学療法士・作業療法士の「転ばないように気をつけてくださいね」といった声掛けが良く働く場合もあれば悪く働く場合もあるということですね.
非常に興味深い結果だと思います.