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人工膝関節全置換術後のリハビリテーションに漸進的筋弛緩法が有効?
人工膝関節全置換術後例の特徴として他動運動時の防御性収縮が挙げられます.
疼痛のためになかなか力が抜けない方って多いですよね.
今回は人工膝関節全置換術後のリハビリテーションに漸進的筋弛緩法が有効であることを示唆する論文をご紹介させていただきます.
漸進的筋弛緩法とは?
まず漸進的筋弛緩法とは何か,その定義を見てみたいと思います.
人の不安が高まったときの反応にを表す”fight, flight, or freeze“という言葉があります.
日本語では「闘争逃走反応」と言います.
つまり不安が高まった時には戦うか逃げるか固まるかといった反応を示すわけです.
これらの状態はどの状態であっても,筋緊張が高まっている,つまり身体に力が入っている状態です.
漸進的筋弛緩法が目指すのはからだの力を抜くことです.
しかしながらただただ「力を抜いてください」と言われても難しいものです.
なので一度力を入れてから抜くというのが漸進的筋弛緩法の工夫です.
漸進的筋弛緩法というのはストレッチとは別物です.
筋肉をのばすのではなく縮めて(力を入れて)戻す(抜く)のが基本となります.
筋緊張を解いてリラックスすることが直接の目的ですが,練習して上達すると緊張を感じ取れるようになります.
今回ご紹介する論文
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021 Jul 6. doi: 10.1007/s00167-021-06657-x. Online ahead of print.
Relaxation exercise therapy improves pain, muscle strength, and kinesiophobia following total knee arthroplasty in the short term: a randomized controlled trial
Musa Eymir 1, Bayram Unver 2, Vasfi Karatosun 3
Affiliations expand
PMID: 34230983 DOI: 10.1007/s00167-021-06657-x
今回ご紹介する論文は2021年に掲載された論文です.
研究の目的
Purpose: This study aimed to compare progressive muscle relaxation (PMR) + standard physiotherapy (PT) to standard PT during inpatient rehabilitation of total knee arthroplasty (TKA) patients in terms of post-operative outcomes. The hypothesis was that PMR + standard PT would lead to better pain, function, and neuromuscular outcomes than standard PT.
この研究では人工膝関節全置換術(TKA)例の入院中のリハビリテーションにおいて,漸進的筋弛緩法+標準的理学療法と標準的な理学療法を,術後アウトカムから比較することを目的としております.
仮説としては漸進的筋弛緩法+標準的理学療法が標準的理学療法よりも疼痛,身体機能,神経筋のアウトカムを改善するというものでありました.
研究の方法
Methods: A total of 106 patients were randomly allocated into PMR or standard rehabilitation (SR) groups. Both groups received standard PT during their hospital stay. PMR group additionally performed PMR exercise on post-operative days 1, 2, and 3. Patients were evaluated regarding pain intensity, functional outcomes, muscle strength, active range of motion, knee edema, anxiety, depression, and kinesiophobia.
対象は106例の人工膝関節全置換術例として,対象者を漸進的筋弛緩法群と標準的理学療法群に無作為に割り付けております.
両群とも入院中は標準的な理学療法を受けております.
漸進的筋弛緩法群はさらに術後1日目,2日目,3日目に漸進的筋弛緩法を用いた運動療法を実施しております.
対象者の疼痛,身体機能,筋力,可動域,腫張,不安,抑うつ,運動恐怖症について評価を行っております.
研究の結果
Results: There were no differences between groups at baseline (n.s.). During the inpatient period and at discharge, the PMR group had better results in terms of pain relief (p < 0.05), quadriceps strength (p = 0.001), kinesiophobia level (p = 0.011) compared to the SR group. No difference was detected between groups regarding other evaluation parameters during the inpatient period, at discharge, and third post-operative month (n.s.). The within-group analysis showed statistically significant differences over time in both groups in each variable (p < 0.05).
ベースラインでは両群間に差はありませんでした.
入院期間中および退院時に漸進的筋弛緩法群は標準的理学療法群と比較して,疼痛の緩和(p < 0.05),大腿四頭筋の筋力(p = 0.001),運動恐怖症のレベル(p = 0.011)の点で良好な結果を示しました.
その他の評価項目については入院期間中,退院時,術後3カ月目(n.s.)に群間差は認められませんでした.
グループ内の分析では,各変数において両群で経時的に統計的な有意な差が認められました.
研究の結論
Conclusion: Our findings support that PMR therapy offers beneficial results in subjective and objective measures of TKA patients during the inpatient period. Therefore, PMR therapy could be implemented into the rehabilitation program of TKA patients to enhance their early recovery from various symptoms following TKA.
この調査結果から漸進的筋弛緩法が入院期間中の人工膝関節全置換術例の主観的・客観的アウトカムに有益な結果をもたらすことが裏付けられました.
したがって漸進的筋弛緩法を人工膝関節全置換術例のリハビリテーションプログラムに導入することで,TKA後の様々な症状からの早期回復を促すことができると考えられます.
今回は人工膝関節全置換術後のリハビリテーションに漸進的筋弛緩法が有効であることを示唆する論文をご紹介させていただきました.
私も漸進的筋弛緩法というのは耳にしたことはあるものの具体的な方法を学んだことはありませんので何とも言えませんが,人工膝関節全置換術後のリハビリテーションの1つのアプローチとして有効かもしれませんね.