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第9回日本運動器理学療法士学会開催前にチェックしておきたい演題紹介②
第8回日本運動器理学療法学会は残念ながら中止となってしまいましたので,2年ぶりの学会開催となります.
第9回日本運動器理学療法学会はオンラインでの開催となります.
今回はこの第9回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から興味深い研究をいくつかご紹介させていただきます.
変形性股関節症患者の小殿筋体積と股関節外転筋力の関係および筋断面積の測定部位の検討
【はじめに,目的】
小殿筋は深層に存在するため,変形性股関節症(変股症)患者らのように股関節の変形が生じる疾患では,変形による影響を強く受けることが考えられる.
変股症患者の小殿筋体積を調査した報告があるが,体重比にて正規化しており(Zacharias,2016;Aderson,2018),特異的な股関節周囲筋の萎縮を十分に反映できていないと考える.
また,小殿筋は外転に作用するが,大殿筋,中殿筋も同様に作用するため,小殿筋の体積と主機能である外転筋力との関係を検討する場合においては,外転筋力に対して小殿筋体積が大殿筋,中殿筋とは独立した関連因子であることを証明する必要がある.
また,リハビリテーションにおいて介入するためには客観的な評価が必要である.
Ogawaら(2019)はコンピューター断層撮影にて得られた画像より得られた筋断面積,体積の関係を検討し,筋断面積の有効な測定部位について検討しているが,測定した筋断面積と筋力の関係は明らかではなく,筋断面積と筋力の関係を検討する必要がある.
よって,本研究の目的は変形性股関節症患者の外転筋力に対して小殿筋が独立した関連因子か検討し,小殿筋の有効な筋断面積の測定部位を明らかにすることとした.
【方法】
対象は変形性股関節症患者31名(年齢62.2±7.1歳)であった.
測定項目は大殿筋,中殿筋,小殿筋の体積および断面積(最大,仙腸関節最下端,大腿骨頭直上),脂肪変性の程度(Goutallierclassification),外転筋力とした.
体積,断面積,脂肪変性の程度は核磁気共鳴画像法を用いて測定したデータからZedHipを用いて分析した.
核磁気共鳴画像法はHommaらの方法に準じ測定した(2019,2021).
筋体積は各筋体積の総和にて除し正規化した.
脂肪変性の程度はGoutallierclassificationを用いて,最大筋断面積から算出した.
外転筋力はThorborgら(2010)の方法に準じた測定肢位にて,徒手筋力計を用いて5秒間の最大随意等尺性収縮を2回実施し,最大値を体重で除した.
統計に関して,小殿筋が外転筋力に関与する独立した因子であるか検討するため,外転筋力を独立変数,各筋体積を従属変数とした重回帰分析を用い検討した.
脂肪変性の差はfisherのx2乗検定を用いた.
有効な筋断面積の測定部位を検討するため,各筋断面積の差および筋力との相関を検討した.
それぞれ有意水準はp<0.05とした.
【結果】
重回帰分析の結果,外転筋力に対して小殿筋が採択された.
小殿筋は中殿筋よりも脂肪変性が有意に進んでいた.
筋断面積に関して,最大筋断面積(1.37±0.30cm2)は仙腸関節最下端筋断面積(1.33±0.34cm2)と差がなく,最大筋断面積は筋力(r0.404)と体積(r0.514)と有意な相関があった.
【結論】
小殿筋は外転筋力に関与する独立した因子として選択された.
小殿筋は大殿筋,中殿筋と異なり,唯一関節包に付着する筋である.
変形の進行により関節包は影響を受ける可能性が高い.
そのため,小殿筋も影響を受け,十分な収縮が困難となった結果,脂肪変性が進行し,外転筋力に関与する筋として選択されたと考えた.
また,最大筋断面積が体積、筋力と唯一相関のある筋断面積であったことから,最大筋断面積の測定が有効な可能性が示唆された.
感想
小殿筋の重要性はこれまでも多く報告されておりましたが,今回の結果は筋断面積の測定部位もいくつかポイントを変えて測定しておりますのでこれは参考になりますね.
やはり関節包に直接付着するといった点が大きなポイントになりそうですね.
三次元動作解析装置を用いて測定した大腿骨近位部骨折患者の歩行中における股関節運動域と歩行速度の関連
【はじめに,目的】
股関節術後の歩行能力を規定する因子の一つとして一歩行周期中における矢状面での股関節運動域が報告されている.
股関節運動域を正確に測定するには三次元動作解析を用いた精密な歩行動作分析が必要になるが被検者が自力で歩行できる能力だけでなく検査に対する理解力も必要となるため簡便でない.
そのため,高齢大腿骨近位部骨折例では股関節運動域を三次元動作解析によって測定した報告件数は少ない上に何れの報告も対象者数が少なく,その実態や歩行能力との関連は精査されていない.
しかしながら高齢大腿骨近位部骨折患者に対して合理的な理学療法戦略を立案する為には三次元動作解析を用いて測定した股関節運動域の実態と歩行能力との関連を明らかにすることが不可欠である.
本研究の目的は,高齢大腿骨近位部骨折患者の一歩行周期中における股関節運動域の実態とその歩行速度との関連を精査することである.
【方法】
研究デザインは横断研究である.
対象は2019年2月から2021年1月の間に回復期リハビリテーション病棟に入院した大腿骨近位部骨折患者166名の内,全身状態不良である者,理解不良である者,神経系疾患を有する者,下肢の著明な疼痛を有する者,同意の得られない者,病棟内歩行が自立していない者を除外した28名とした.
一歩行周期における矢状面での股関節運動域の測定は三次元動作解析装置(VICON社)を用いて行い,全身39点に赤外線反射マーカーを貼付してサンプリング周波数は100Hzとした.
8mの歩行路にて最大速度での歩行を連続した三歩行周期分測定した.
股関節運動域は一歩行周期における股関節最大屈曲角度,最大伸展角度,最大屈曲角度と最大伸展角度の範囲(股関節可動範囲)を測定し,連続した三歩行周期分の各平均値を算出した.
本研究では歩行能力の指標として歩行速度を用いており,10m歩行試験を最大速度で行った際の歩行時間(10m歩行時間)を採用した.
統計解析は10m歩行時間を目的変数,各股関節運動域の平均値,標準偏差,変動係数を説明変数とした単変量解析を用いて,非標準化偏回帰係数と95%信頼区間を算出した.
また年齢,性,BMI,術式(関節形成術,骨接合術,保存療法)を調整変数として追加投入した多変量分析も同様に行った.
有意水準は5%とし,統計解析にはEZR version1.38を使用した.
【結果】
対象者28名は,年齢79.5±5.1歳,女性24名(85.7%),BMI22.1±3.0kg/m2,術式は関節形成術10名(35.7%),骨接合術17名(60.7%),保存療法1名(3.6%)であった.
股関節最大屈曲角度は35.6°±8.0,股関節最大伸展角度は-1.3±8.9°,股関節可動範囲は34.4±5.9°であり,10m歩行時間は9.5±3.1秒であった.
各股関節運動域と10m歩行時間の関連を,単変量解析を用いて調べた結果,股関節可動範囲が小さいほど歩行速度が低かった(β=-0.32,95%CI=-0.49~-0.16).
さらに多変量解析においてもその関連性は維持された(β=-0.27,95%CI=-0.43~-0.11).
【結論】
三次元動作解析装置によって測定した大腿骨頚部骨折患者の歩行中の股関節可動範囲が小さいほど歩行速度が遅かった.
さらに股関節可動範囲はリスク因子に独立して関連していた.
感想
やはり歩行時の股関節伸展角度が重要だという結果ですね.
今回は第9回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から興味深い研究をいくつかご紹介させていただきました.
明日からもしばらく第9回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から興味深い研究をご紹介させていただきます.