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人工股関節全置換術(THA)後にジョギングしても問題ないの?
人工股関節全置換術例に対して理学療法士・作業療法士が日常生活指導を行うことは多いと思います.
一昔前までは人工股関節全置換術例におけるリハビリテーションの中では関節保護を図るための日常生活指導が当たり前でした.
ジョギングなんかもっての他で,身体活動量を増やすことすら制限されていた時代もありました.
昨今は人工股関節全置換術の耐用性も向上し,人工股関節全置換術(THA)後にスポーツ復帰を果たすアスリートも少なくありません.
今回は人工股関節全置換術(THA)後にジョギングしても問題ないか否かについて検討した研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Am J Sports Med. 2014 Jan;42(1):131-7. doi: 10.1177/0363546513506866. Epub 2013 Oct 10.
Jogging after total hip arthroplasty
Hirohito Abe 1, Takashi Sakai, Takashi Nishii, Masaki Takao, Nobuo Nakamura, Nobuhiko Sugano
Affiliations expand
PMID: 24114754 DOI: 10.1177/0363546513506866
今回ご紹介する論文は2014年に掲載された論文です.
研究の背景
Background: Jogging has been classified as a high-impact sport, and jogging after total hip arthroplasty (THA) has not been well documented.
ジョギングは高負荷スポーツに分類されておりますが,人工股関節全置換術(THA)後のジョギングについては報告が少ない状況です.
研究の目的
Purpose: To investigate the participation rate for postoperative jogging as well as jogging parameters and the influence of jogging on implant stability and bearing wear.
この研究では,術後のジョギングへの参加率,ジョギングのパラメータ,およびジョギングがインプラントの安定性とベアリングの摩耗に及ぼす影響を調査することを目的としております.
研究デザイン
Study design: Case-control study; Level of evidence, 3.
研究デザインはケースコントロール研究(エビデンスレベル3)となっております.
研究の方法
Methods: Included in this study were 804 hips in 608 patients (85 men, 523 women) who underwent THA between 2005 and 2011 with follow-up longer than 1 year. The mean patient age was 62 years (range, 26-98 years), and mean follow-up duration was 4.8 years (range, 2.3-7.8 years). Hip resurfacing arthroplasty (HRA) was performed in 81 patients and conventional THA in 527 patients. During routine postsurgical visits, patients were given a questionnaire concerning preoperative and postoperative jogging routines. For joggers, frequency, distance, duration, and velocity of jogging were recorded. Patients who did not jog postoperatively were asked to provide reasons for not jogging. Radiographs concerning implant migration and polyethylene wear were evaluated with specialized software, and serum cobalt and chromium ion concentrations were investigated for patients with metal-on-metal articulation.
この研究では,2005年から2011年の間にTHAを受け,1年以上の追跡調査が可能であった608例(男性85人、女性523人)の804股関節が含まれております.
対象者の平均年齢は62歳(範囲26~98歳),平均追跡期間は4.8年(範囲2.3~7.8年)となっております.
股関節表面置換術(HRA)は81例に,従来のTHAは527例に施行されております.
術後の定期的な訪問時に,対象者には術前および術後のジョギングのルーチンに関する質問紙を手渡しております.
ジョギングを行ったクライアントについては,ジョギングの頻度,距離,持続時間,速度を記録しております.
術後にジョギングをしなかったクライアントには,ジョギングをしなかった理由を記入してもらっております.
インプラントの安定性とポリエチレンの摩耗に関しては,X線写真で専用ソフトを用いて評価が行われております.
なおメタルオンメタルTHA例については血清コバルトとクロムイオン濃度についても調査が行われております.
研究の結果
Results: A total of 33 patients (5.4%) performed jogging preoperatively, and 23 patients (3.8%) performed jogging postoperatively. Of the 23 who jogged postoperatively, conventional THA was performed in 13 patients and HRA in 10 patients. Postoperatively, joggers trained a mean of 4 times (range, 1-7 times) per week, covering a mean distance of 3.6 km (range, 0.5-15 km) in a mean time of 29 minutes (range, 5-90 minutes) per session and at a mean speed of 7.7 km/h (range, 3-18 km/h). No patient complained of pain or showed serum cobalt and chromium ion elevation greater than 7 ppb. No hip showed loosening, abnormal component migration, or excessive wear at a mean 5-year follow-up. There were 74 postoperative non-joggers with an interest in jogging. The reasons given for avoiding jogging included anxiety (45 patients; 61%); impossible because of several reasons, including pain, decreased range of motion, and muscle weakness (18 patients; 24%); and lumbar or knee pain (11 patients; 15%). Multivariate analysis revealed that male sex and a history of preoperative jogging demonstrated significant relationships with postoperative jogging.
術前にジョギングを行ったのは33例(5.4%),術後にジョギングを行ったのは23例(3.8%)でありました.
術後にジョギングを行った23例のうち,従来のTHAは13名,HRA(表面置換型)は10例でありました.
術後にジョギングを行ったクライアントは,1週間に平均4回(範囲1~7回)のトレーニングを行い,平均距離3.6km(範囲0.5~15km)を1回あたりの平均時間29分(範囲5~90分),平均速度7.7km/h(範囲3~18km/h)で実施しておりました.
疼痛を訴えたり,血清コバルト・クロムイオン上昇が7ppbを超える対象者は存在しませんでした.
平均5年後の追跡調査で,股関節の緩み,異常なコンポーネントの転位,過度の摩耗を示したクライアントは存在しませんでした.
ジョギングに関心があるにもかかわらず,ジョギングを実施していない対象者は74例でありました.
ジョギングを避ける理由としては,不安(45人,61%),疼痛,可動域低下,筋力低下などの理由でジョギングができない(18人、24%),腰痛や膝痛(11人、15%)などが挙げられました.
多変量解析の結果,性別(男性ほど実施率が高い)と術前のジョギング歴が術後のジョギングと有意な関係を示しました.
研究の結論
Conclusion: A total of 3.8% of THA patients participated in postoperative jogging. Short-term postoperative follow-up did not identify any negative influence of jogging on implant survival.
THA例の3.8%が術後にジョギングを行っておりました.
術後の短期追跡調査では,ジョギングがインプラントの耐久性に負の影響を及ぼす事象はは確認されませんでした.
今回は人工股関節全置換術(THA)後にジョギングしても問題ないか否かについて検討した研究論文をご紹介させていただきました.
THA後の長期成績に与える影響としては,ステムのルーズニングと摺動面の摩耗が挙げられます.
今回の結果からジョギングが安全だと結論付けるのは難しいと思いますが,理学療法士・作業療法士として気になるのはステムのルーズニングと摺動面の摩耗というのが活動性の高さと関連性があるのかといった点です.
少なくとも短期的には有害事象が無かったといった結果でありますので,THAでもジョギングしても問題無いといった話ではないので解釈に注意が必要でしょうね.