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理学療法士・作業療法士も知っておきたいMCID(minimal clinically important difference)とは?
先日開催された第18回日本神経理学療法学会の中で話題の1つとなったのがMCIDといった概念です.
理学療法士・作業療法士は介入前後で何かしらのアウトカムを元に治療効果を判定するわけですが,その時に考慮すべきがこのMCIDです.
MCIDが考慮されていないと統計学的な有意差があって改善しているように見えても,臨床的には意味のない変化(改善)であるといった場合も少なくありません.
そのため理学療法・作業療法による効果判定を行うにあたってはこのMCIDを考慮する必要があるわけです.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたいMCID(minimal clinically important difference)についてご紹介させていただきます.
MCIDとは?
MCIDというのは臨床的に考えて重要な変化の最小量を指します.
MCID(minimal clinically important difference)は,1989年にJaeschkeらが提唱した概念です.
ある介入を行った際のアウトカムの変化が有益であると解釈できる最小の変化値を表すのがこのMCID(minimal clinically important difference)という概念です.
例えばTUGのMCIDが3.0秒であれば,治療後にTUGが5.0秒改善していれば,その値がMCIDより大きいため,治療により臨床的に意味を持った改善がなされたと判断できます.
このようにMCIDを用いることで,治療前後のアウトカムに統計学的な差があるかどうか検討するだけでなく,個々の症例がMCIDに達しているかどうかを判断することで臨床により即した解釈ができるわけです.
MCIDの算出方法
MCIDの算出方法には大きく分けて2つの方法が存在します.
1つ目はアンカーとなる質問票に基づいて算出する方法(Anchor-based Method)です.
このAnchor-based Methodでは患者立脚型質問票に似た概念の質問をアンカーとして利用することが多いです.
例えばアンカーとして以下のような質問表を用います.
この改善・改善なしといった質問表における採点はクライアントの主観的な改善度によって評点します.
「改善」群と「改善なし」群に注目し,それぞれの群で治療前後におけるアウトカム(例えばTUG)の変化値を求めます.
そして,最も感度と特異度が高くなるようなカットオフ値をROC曲線を用いて分析した値がMCID値となるわけです.
MCIDの算出方法の2つ目として用いられることが多いのが,統計学的手法を用いて算出する方法(Distribution-based method)です.
Distribution-based methodにはさまざまな方法がありますが,測定の標準誤差(Standard Error of Measurement(SEM))を用いる方法があります.
以下の数式で算出することが多いですが,詳細はここでは割愛します.
SEM=SD×√(1-r)(r 信頼性係数)
MDC=1.96×√2 ×SEM
実際にMCIDを使用するには?
臨床で勤務する理学療法士・作業療法士であれば,MCIDを算出するよりも利用することの方が多いと思いますが,基本的には文献検索を行って対象とするクライアントの疾病や障害像と合致するMCIDに関する報告を探すことになります.
ただこの検索作業も非常に骨が折れます.
この際に利用するとよいのが以下のサイトです.
以下のサイトではMCIDのみならず,標準値やカットオフ値等さまざまな数値がまとめられておりますので,非常に便利です.
まずはこのサイトで検索し,MCIDを含む評価表の概要を調べたうえで,原著論文を読みMCIDの対象者の特徴を調べて担当しているクライアントに当てはめるのが適当かどうかを判断します.
ここで重要なのは,ただただMCIDを参照するのではなく,原著論文をきちんと読むことです.
場合によっては原著論文における対象者が自身が担当しているクライアントには当てはまらない可能性も考えられます.
TUGのMCIDが3.0秒だからと鵜呑みにせずに,原著論文の対象群を確認することが重要なわけです.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたいMCID(minimal clinically important difference)についてご紹介させていただきました.
概念としてはやや複雑なMCIDですが,症例報告や研究論文の中でMCIDまで考慮されていれば,症例報告および研究論文としての質が上がることは間違いありません.
皆様も症例報告や論文作成に際してはMCIDを考慮することをお勧めします.
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