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腰を曲げての持ち上げ動作が腰痛の原因になるというのは幻想
理学療法士・作業療法士が行うことの多い動作指導の中で重量物の持ち上げ動作が挙げられます.
重量物の持ち上げ動作といえば腰痛の原因になりやすい動作の1つです.
この持ち上げ動作ですが昔から腰を曲げすぎると腰痛の原因になるので腰を曲げすぎないようになんて指導がなされることが多いと思います.
理学療法士・作業療法士の間では常識ですよね.
ただこの常識って本当なのでしょうか?
今回は腰を曲げての持ち上げ動作が腰痛の原因になるというのは幻想である可能性を示唆させる研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Meta-Analysis J Orthop Sports Phys Ther. 2020 Mar;50(3):121-130. doi: 10.2519/jospt.2020.9218. Epub 2019 Nov 28.
To Flex or Not to Flex? Is There a Relationship Between Lumbar Spine Flexion During Lifting and Low Back Pain? A Systematic Review With Meta-analysis
Nic Saraceni, Peter Kent, Leo Ng, Amity Campbell, Leon Straker, Peter O’Sullivan
PMID: 31775556 DOI: 10.2519/jospt.2020.9218
今回ご紹介する論文は2020年に掲載された新しい論文です.
研究の目的
Objective: To evaluate whether lumbar spine flexion during lifting is a risk factor for low back pain (LBP) onset/persistence or a differentiator of people with and without LBP.
この研究では持ち上げ動作時のの腰椎の屈曲姿勢が腰痛の発症・持続の危険因子となるのか,また腰痛を有する対象と腰痛を有しない対象を分類する要因になり得るのかどうかを明らかにすることを目的としております.
研究デザイン
Design: Etiology systematic review with meta-analysis.
Literature search: Database search of ProQuest, CINAHL, MEDLINE, and Embase up to August 21, 2018.
研究デザインはメタアナリシスによるシステマティックレビューとなっております.
文献検索は,2018年8月21日までのProQuest・CINAHL・MEDLINE・Embaseのデータベースを用いておこなわれております.
研究の選択基準
Study selection criteria: We included peer-reviewed articles that investigated whether lumbar spine position during lifting was a risk factor for LBP onset or persistence or a differentiator of people with and without LBP.
持ち上げ動作時の腰椎の肢位が腰痛の発症・持続の危険因子であるか,また腰痛を有する対象と腰痛を有しない対象を分類する要因になり得るのかを調査した査読付き論文を対象としております.
データ合成
Data synthesis: Lifting-task comparison data were tabulated and summarized. The meta-analysis calculated an n-weighted pooled mean ± SD of the results in the LBP and no-LBP groups. If a study contained multiple comparisons (ie, different lifting tasks that used various weights or directions), then only 1 result from that study was included in the meta-analysis.
持ち上げ動作ととタスクの比較データを集計し要約しております.
メタアナリシスは腰痛を有する対象と腰痛を有しない対象の結果の加重プール平均±SDを算出しております.
研究の結果
Results: Four studies (1 longitudinal study and 3 cross-sectional studies across 5 articles) included in meta-analysis measured lumbar flexion with intralumbar angles and found no difference in peak lumbar spine flexion when lifting (1.5°; 95% confidence interval [CI]: -0.7°, 3.7°; P = .19 for the longitudinal study and -0.9°; 95% CI: -2.5°, 0.7°; P = .29 for the cross-sectional studies). Seven cross-sectional studies measured lumbar flexion with thoracopelvic angles and found that people with LBP lifted with 6.0° less lumbar flexion than people without LBP (95% CI: -11.2°, -0.9°; P = .02). Most (9/11) studies reported no significant between-group differences in lumbar flexion during lifting. The included studies were of low quality.
最終的にメタアナリシスの対象となったのは4つの研究(縦断的研究1件,横断的研究3件)でありました.
腰椎屈曲角度を測定した結果,持ち上げ動作時の腰椎のピーク屈曲角度に有意差は認められませんでした.
また7件の横断的研究では腰痛を有する対象は腰痛を有しない対象に比較して腰椎屈曲が6.0°少ないことが明らかとなりました.
ほとんどの研究(9/11)では,持ち上げ動作中の腰椎屈曲におけるグループ間の有意差は報告されておりませんでした.
研究の結論
Conclusion: There was low-quality evidence that greater lumbar spine flexion during lifting was not a risk factor for LBP onset/persistence or a differentiator of people with and without LBP.
持ち上げ動作の腰椎屈曲の増加は腰痛発症・持続の危険因子ではないことが明らかとなりました.
また腰痛のある対象と腰痛の無い対象を分別する要因でもないことが明らかとなりました.
今回は腰を曲げての持ち上げ動作が腰痛の原因になるというのは幻想である可能性を示唆させる研究論文をご紹介させていただきました.
これは驚きの結果ですね.
ただこのメタアナリシスで用いられた重量物の重量は12kg未満であるといった点にも注意が必要です.
少なくとも持ち上げ動作に関しては腰を曲げて持ち上げ動作を行うことが腰痛のリスクを高めるといったエビデンスは無いわけですね.
理学療法士・作業療法士がいたずらに腰を曲げてはいけないといった姿勢を強調すると,腰椎屈曲に対する運動恐怖感を強めてしまうことになりかねませんね.
屈曲姿勢で本当に疼痛が誘発されるのかどうかを含めて評価を行った上で姿勢・動作指導を行う必要がありそうですね.
何でもかんでも曲げちゃダメというのはあまりにも短絡的ということでしょうね.
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