なぜPushing(Pusher現象)はPusher syndrome(Pusher症候群)と呼ばれなくなったのか?

脳卒中
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なぜPushing(Pusher現象)はPusher syndrome(Pusher症候群)と呼ばれなくなったのか?

Pusehr症候群といえば昔から理学療法士・作業療法士の間で脳卒中後に特異的な異常姿勢を示す現象に対して用いられてきた用語の1つですが,今や死語に近くなってますよね.

最近はPusher syndromeと表現されることはほとんどなくなっており,ipsilateral pushingとかpusher signとかpushing behaviourといった表現が用いられるのが一般的で,日本語でもpusher現象といった表現が用いられるようになってきております.

しかしながらなぜPusher症候群といった表現が用いられなくなったのでしょうか?

今回はなぜPusher症候群といった表現が用いられなくなったのかについて考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症候群とは?

まず症候群の定義から整理してみたいと思います.

症候群(syndrome)というのは,同時に起きる一連の症候のことを指します.

ここで重要なのは「同時に」といった点です.

症候群というのは,原因不明ながら共通の病態(自他覚症状・検査所見・画像所見など)を示すクライアントが多い場合に,症状の集まりに名前を付けて扱いやすくしたものなわけです.

元々は「○○症候群」という用語は,原因不明ながらも共通の症候をまとめた概念でありましたが,最近は原因が明らかなものにも使われております.

医療の世界では長い歴史の中で,不健康な状態を病気と呼び,その原因,症状,経過などの特徴によって,様々な「病名」をつけて呼んできました.

病気の認識と命名の仕方は,その時代の社会状況や医学的知識によっても異なります.

昔は頭痛や嘔気といった症状名が病名に用いられることが多かったわけです.

めまい症とか腰痛症なんかはまさにその代表です.

その後,原因,病態生理,経過が同一と推定されるものが,単一疾患として認知され,単一の病名が付けられるようになったわけです.

現在でも「病気」と「症候群」の使いわけには明確な基準は存在しない状況です.

国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)には4桁のコード番号の付けられている病的状態の名称が1万2000以上存在しますが,このICDの中にも疾患,症候群,症状が混在している状況です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症候群の代表といえばパーキンソン症候群

理学療法士・作業療法士界隈で代表的な○○症候群といえば,やはり「パーキンソン症候群」ではないでしょうか?

このパーキンソン病はJames Parkinsonによって,1817年に筋強剛,振戦,寡動などを示す神経疾患を「paralysis agitans(振戦麻痺)」と名付けて報告したのが始まりで, 1888年にフランスの有名な神経学者Charcotによって,「パーキンソン病(maladie de parkinson)」と名付けられました.

しかしながらパーキンソン病に見られる症状の組み合わせは多くの病因によって起こることがわかり,現在では「パーキンソン症候群」(パーキンソニズム)と呼ばれ,普通名詞としてparkinsonismといった形式で用いられるようになっております.

つまり同一の状態が,単一疾患になったり症候群になったりしているのが,パーキンソン病とパーキンソン症候群なわけです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pusher症候群はなぜPusher現象に変わったのか?

さてここからが本題ですが,Pusher症候群はなぜPusher現象と呼ばれるようになったのでしょうか?

Pusher現象というのは元々,半側空間無視,病態失認,感覚障害と同時に起こる症候と考えられてきました.

Pusher現象は,座位や立位といった姿勢で,麻痺側へ身体が倒れるように自らの非麻痺側上下肢を使って床や座面を押してしまう現象であり,この現象によって生じた姿勢傾斜を他者が修正しようとすると,その介助に抵抗するように,さらに非麻痺側の上下肢を使って押すといった特徴があります.

この現象そのものは,1985 年にDaviesの著書によってはじめて報告され,重度の左片麻痺,重度の感覚障害,左半側空間無視や病体失認といった複数の症候を伴うことから,Pusher症候群(pusher syndrome)と症候群として記述されたわけです.

日本の理学療法士・作業療法士も一昔前まではSteps to followを皆がこぞって読んでましたよね.

おそらく日本でいえばSteps to followがPusher症候群をはじめて定義した文献である可能性が高いです.

しかしながらその後に600 名を超える脳卒中者を対象とした疫学調査において,Pusher現象自体は半側空間無視,病態失認,感覚障害とは独立した徴候であることが明らかとなり,責任病巣も半側空間無視,病態失認,感覚障害とは異なることが明らかにされたわけです.

すまり症候群とする明確な根拠がないということになったわけですね.

そのためPusher現象,ipsilateral pushing,contraversive pushingと呼称されるようになったわけです.

 

今回はなぜPusher症候群といった表現が用いられなくなったのかについて考えてみました.

いまだにPusher症候群という用語を使用していたら理学療法士・作業療法士としてはちょっと恥ずかしいと思いますので,Pusher現象とPusher症候群の相違を明確にしておきたいですね.

 

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