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腸骨関節包筋の機能向上が股関節の求心性を向上させるって根拠って本当にあるの?
昨今,腸骨関節包筋の重要性を示唆させる報告って多いですよね.
腸骨関節包筋が擬似臼蓋を形成するとか,腸骨関節包筋の機能向上が股関節の求心性を向上させるといった報告も多く見られます.
ただ腸骨関節包筋の機能向上が股関節の求心性を向上させるといった話はあくまで解剖学的な話であって,その論拠となるデータは存在するのでしょうか?
今回は腸骨関節包筋の機能向上が股関節の求心性を向上させる可能性を示唆する論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Clin Orthop Relat Res. 2011 Jun; 469(6): 1728–1734.
Published online 2010 Dec 3. doi: 10.1007/s11999-010-1705-x
The Iliocapsularis Muscle: An Important Stabilizer in the Dysplastic Hip
- Babst, MD, S. D. Steppacher, MD,corresponding author R. Ganz, MD, K. A. Siebenrock, MD, and M. Tannast, MD
今回ご紹介する論文は2011年に掲載された論文です.
研究の背景
The iliocapsularis muscle is a little known muscle overlying the anterior hip capsule postulated to function as a stabilizer of dysplastic hips. Theoretically, this muscle would be hypertrophied in dysplastic hips and, conversely, atrophied in stable and well-constrained hips. However, these observations have not been confirmed and the true function of this muscle remains unknown.
腸骨関節包筋は寛骨臼形成不全におけるスタビライザーとしての機能が重要と考えられておりますが,股関節臼蓋前部の上方に存在するあまり知られていない筋です.
理論的には腸骨関節包筋は寛骨臼形成不全例では肥大し,逆に安定性の高い股関節では萎縮すると考えられています.
しかしここで述べた腸骨関節包筋の肥大・委縮というのはあくまで推測であり,腸骨関節包筋の真の機能は不明であります.
研究の目的
We quantified the anatomic dimensions and degree of fatty infiltration of the iliocapsularis muscle and compared the results for 45 hips with deficient acetabular coverage (Group I) with 40 hips with excessive acetabular coverage (Group II).
この研究では腸骨関節包筋の解剖学的サイズと脂肪浸潤の程度を定量化し,寛骨臼形成不全が存在する45股関節(グループI)と寛骨臼形成不全の存在しない40股関節(グループII)の結果を比較しております.
対象と方法
We used MR arthrography to evaluate anatomic dimensions (thickness, width, circumference, cross-sectional area [CSA], and partial volume) and the amount of fatty infiltration.
MR関節鏡を用いて解剖学的サイズ(厚さ・幅・周径・断面積・体積)と脂肪浸潤量を評価しております.
研究の結果
We observed increased thickness, width, circumference, CSA, and partial volume of the iliocapsularis muscle in Group I when compared with Group II. Additionally, hips in Group I had a lower prevalence of fatty infiltration compared with those in Group II. The iliocapsularis muscle typically was hypertrophied, and there was less fatty infiltration in dysplastic hips compared with hips with excessive acetabular coverage.
グループI群(寛骨臼形成不全あり)では,II群(寛骨臼形成不全無し)と比較して腸骨筋の厚さ・幅・周径・横断面積・体積の増加が観察されました.
またグループI群(寛骨臼形成不全あり)の臀部は,II群(寛骨臼形成不全無し)に比較して,脂肪浸潤の有病率が低い結果でありました.
研究の結論
These observations suggest the iliocapsularis muscle is important for stabilizing the femoral head in a deficient acetabulum. This muscle serves as an anatomic landmark when performing a periacetabular osteotomy. Additionally, preoperative evaluation of morphologic features of the muscle can be used as an adjunct for decision making when treating patients with borderline hip dysplasia or femoroacetabular impingement.
今回の結果から,腸骨関節包筋は寛骨臼形成不全例において大腿骨頭を安定させるために重要であることが示唆されます.
腸骨関節包筋は,寛骨臼周囲の骨切り術を行う際に解剖学的なランドマークとして機能します.
さらに術前の筋の形態学的特徴の評価は,寛骨臼形成不全の境界型や大腿骨寛骨臼インピンジメントを有する症例を治療する際に,意思決定の補助として使用することができます.
今回は腸骨関節包筋の機能向上が股関節の求心性を向上させる可能性を示唆する論文をご紹介させていただきました.
あくまで寛骨臼形成不全を有する症例における腸骨関節包筋において筋肥大が大きく,脂肪浸潤が少ないといった結果ではありますが,腸骨関節包筋が擬似臼蓋として股関節前方安定性を担う可能性を示唆させる結果ですね.
コメント
いつもFacebookからブログを見させていただいています。
原宿リハビリテーション病院で理学療法士をしている白川涼太と申します。
さはら先生のブログは有益な情報が多く、毎回楽しみに見させていただいています。
私自身、まだ6年目で未熟なため、臨床の話だけでなくPT業界、医療業界の知らなかったことまで知れるので大変勉強になっています。
さて、この記事ではIliocapsularisについての文献を紹介してあり、以前この文献を読んだことがあったため、復習も兼ねて読ませていただきました。
大変恐縮ではありますが、気になった点がありましたので質問させてください。
この記事内ではIliocapsularisのことを「腸骨筋」と翻訳されていますが、腸骨筋は「Iliacus」ではありませんでしょうか?
私が以前調べたもの、伺ったものが正しければ、Iliocapsularisに正式な日本語の解剖学名は付いていないとのことで、一部では「腸骨関節包筋」や「小腰筋」と呼ばれていると伺ったことがあります。
私自身、非常に有益な文献であると感じており、経験年数が浅くIliocapsularisを知らないセラピストが読むと間違った解釈をしてしまうのではと思いましたので質問させていただきました。
もし失礼でなければさはら先生の見解をお聞かせいただければと思います。
よろしくお願いします。
申しわけございません!私のミスです,ご指摘ありがとうございました!