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理学療法士・作業療法士も知っておきたいオシレーション角
人工股関節全置換術は手術手技の発展とインプラントの改良により,早期の歩行獲得や社会復帰が可能となっており,最近は術後の関節可動域の改善にも目覚ましいものがあります.
その中で理学療法士・作業療法士が知っておきたいのはオシレーション角といった概念です.
学会や研修会等ではよく耳にするオシレーション角ですが,十分に理解されていない理学療法士・作業療法士が多いのも実際です.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたいオシレーション角について考えてみたいと思います.
オシレーション角とは?
人工股関節全置換術後の合併症として脱臼が挙げられます.
人工股関節というのは骨盤に設置されるカップ,大腿骨に設置される大腿骨ステム,ステムに取り付けられるヘッドから構成され,カップの内部のライナーとヘッドの間に可動性があります.
人工股関節はデザインにより固有の可動域があります.
つまりステムのネックとカップがインピンジメントするまでの範囲がその人工関節が持つ許容可動域範囲(オシレーション角)となります.
オシレーション角というのは人工関節そのものが持つ許容可動範囲を指します.
理学療法士・作業療法士が,オシレーション角を超えて関節を可動させると, neck-socket impingementが生じて,ヘッドがカップから脱臼してしまうというわけです.
骨頭径が大きくなるとオシレーション角は大きくなりますので,近年は脱臼予防のため大径骨頭の人工関節が用いられることが増えてきております.
しかしながら骨頭径がある大きさを超えると,オシレーション角に達する前に大腿と骨盤の骨が衝突する(bony impingement)してしまいますので,ある一定の大きさを超えると骨頭径を大きくしオシレーション角を拡大する利点がなくなります.
このように人工股関節全置換術後の関節可動域を考える上では,オシレーション角というのは重要となりますが,オシレーション角は骨頭径やネック径などのさまざまな要因の影響を受けます.
今回はシミュレーションによって骨頭径やネック径がオシレーション角に与える影響を明らかにした研究をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
J Orthop. 2019 Sep 11;18:104-109. doi: 10.1016/j.jor.2019.09.015. eCollection 2020 Mar-Apr.
Effects of ball head diameter and stem neck shape in range of motion after total hip arthroplasty: A simulation study.
Higashi T1, Kaku N2, Noda S2, Tabata T2, Tagomori H2, Tsumura H2.
今回ご紹介する論文は2019年に掲載された比較的新しい論文です.
本邦で行われた研究ですね.
抄録
Simulations using three-dimensional computer-aided design were performed with the various conditions to research the movement distance of the ball head and total range of motion until impingement and dislocation (ROM(t)) which involved in joint stability. Although a large ball head increases the entire ROM(t) and oscillation angle, it decreases stability transitioning from impingement to dislocation. Conversely, though large neck diameter increases the simulated stability from impingement to dislocation, it reduces the ROM(t) and oscillation angle. ROM(t) decreases with change in neck shape and is greatly affected by the presence of osteophytes, even if the head-neck ratio remains the same.
抄録
この研究では関節の安定性に関わるボールヘッドの移動距離とインピンジメントから脱臼までの関節可動域を明らかにするために,様々な条件で3次元コンピュータ支援設計によるシミュレーションを行っております.
ボールヘッドを大きくすると,関節可動域やオシレーション角は大きくなりますが,インピンジメントから脱臼に至るまでの安定性は低下しました.
またネック径が大きいとインピンジメントから脱臼までの安定性は向上しますが,関節可動域ややオシレーション角は減少しました.
関節可動域は大腿骨頸部形状の変化に伴っても減少し,ヘッドネック比が同じであっても,骨棘の存在の影響を大きく受けることが明らかとなりました.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたいオシレーション角について考えてみました.
人工股関節全置換術後の脱臼を考える上では骨頭径やネック形状についても考慮する必要がありそうですね.
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