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変形性膝関節症例に対する股関節周囲筋群のトレーニングの有効性に関するシステマティックレビュー
変形性膝関節症例に対する筋力トレーニングとしては古くから大腿四頭筋トレーニングが行われてきました.
変形性膝関節症例に対する理学療法では膝関節内反モーメントを軽減させることが重要となりますが,大腿四頭筋トレーニングの実の介入では膝関節内反モーメントを軽減させることは困難であります.
膝関節のみへの介入では内反方向のモーメントを制御することは力学的に考えても困難でありますので,股関節・足部さらには骨盤や胸郭も含めた介入が必要となります.
そんな中で2000年代以降多く報告されているのが,変形性膝関節症例に対する股関節周囲筋の筋力トレーニングの効果です.
今回は変形性膝関節症例に対する股関節周囲筋群のトレーニングの有効性に関するシステマティックレビューをご紹介させていただきます.
この研究では股関節周囲筋のトレーニングの有効性のみならず,有効な運動の種類についても検討が行われておりますので,理学療法士・作業療法士の皆様も必見です.
今回ご紹介する論文
Br J Sports Med. 2020 Mar;54(5):263-271. doi: 10.1136/bjsports-2018-099683. Epub 2019 Feb 6.
Does adding hip exercises to quadriceps exercises result in superior outcomes in pain, function and quality of life for people with knee osteoarthritis? A systematic review and meta-analysis.
Hislop AC1,2, Collins NJ2, Tucker K3, Deasy M2, Semciw AI2,4,5,6.
今回ご紹介する論文は2020年3月に公開されたばかりの非常に新しいシステマティックレビューです.
研究の目的
To determine, in people with knee osteoarthritis (KOA): i) the effectiveness of adding hip strengthening exercises to quadriceps exercises and ii) the type of hip strengthening exercise with the greatest evidence for improving pain, function and quality of life.
この研究では変形性膝関節症例に対して大腿四頭筋トレーニングに加えて股関節周囲筋の筋力トレーニングを追加的に行うことの有用性を明らかにするとともに,疼痛・機能・QOL改善に有効な股関節周囲筋トレーニングの種類を明らかにすることとなっております.
研究デザイン
Systematic review with meta-analysis.
研究デザインはメタアナリシスによるシステマティックレビューです.
データソース
Medline, Embase, Cochrane, CINAHL and SportDiscus databases were searched from inception to January 2018.
2018年1月にMedline, Embase, Cochrane, CINAHL and SportDiscus databasesから関連文献を抽出しております.
抽出論文の取込基準
Randomised controlled trials investigating the effect of adding hip exercises to quadriceps exercises in people with KOA on pain, function and/or quality of life were included. Three subgroups of hip exercises were included: resistance, functional neuromuscular or multimodal exercise.
抽出論文の取込基準ですが,変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニングに追加して行われる股関節周囲筋群の筋力トレーニングの効果を疼痛・機能・QOLをアウトカムとして検討した無作為化比較試験としております.
股関節周囲筋のトレーニングについてはレジスタンストレーニング・機能的神経筋トレーニング・多角的トレーニングに分類しております.
研究の結果
Eight studies were included. Pooled data provide evidence that combined hip and quadriceps exercise is significantly more effective than quadriceps exercise alone for improving walking function (standardised mean difference -1.06, 95% CI -2.01 to -0.12), but not for outcomes of pain (-0.09, 95% CI -0.96 to 0.79), patient-reported function (-0.74, 95% CI -1.56 to 0.08) or stair function (-0.7, 95% CI -1.67 to 0.26). Subgroup analyses reveal that hip resistance exercises are more effective than functional neuromuscular exercises for improving pain (p<0.0001) and patient-reported function (p<0.0001). Multimodal exercise is no more effective than quadriceps strengthening alone for pain (0.13, 95% CI -0.31 to 0.56), patient-reported function (-0.15, 95% CI -0.58 to 0.29) or stair function (0.13, 95% CI -0.3 to 0.57).
最終的に8つの研究が取り込み対象となりました.
蓄積されたデータから大腿四頭筋に加えて股関節周囲筋群のトレーニングを行うことで大腿四頭筋単独よりも有意に歩行機能が改善することが明らかにされておりますが,疼痛や患者立脚型機能,階段昇降能力には有意な効果は得られておりません.
サブ解析では機能的神経筋トレーニングよりもレジスタンストレーニングで疼痛の改善や患者立脚型機能の改善が有意に高く,多面的な運動は大腿四頭筋単独と同等の効果しか認めておりません.
研究の結論
Walking improved after the addition of hip strengthening to quadriceps strengthening in people with KOA. The addition of resistance hip exercises to quadriceps resulted in greater improvements in patient-reported pain and function.
変形性膝関節症例に対して大腿四頭筋トレーニングに追加して股関節周囲筋群のトレーニングを行うと歩行能力が有意に向上することが明らかとなりました.
またトレーニングの種類としてレジスタンストレーニングが有用であることが明らかにされております.
今回は変形性膝関節症例に対する股関節周囲筋群のトレーニングの有効性に関するシステマティックレビューをご紹介させていただきました.
歩行能力には改善が得られるものの疼痛や患者立脚型評価指標には有意な改善は得られておりませんので,股関節周囲筋のトレーニングによる内反モーメントの軽減はあやしいものかもしれませんね.
もちろん症例によっては明らかに疼痛の軽減するケースも経験します.
股関節以外の足部や胸郭も含めて内反モーメントを軽減させるためのアプローチが必要だということを示唆させる結果ですね.
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