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理学療法士・作業療法士も知っておきたい出版バイアス
理学療法士・作業療法士が原著論文や診療ガイドラインを参照して理学療法・作業療法を行うことは多いと思います.
2020年度には第2版の理学療法ガイドラインが策定される予定であり,現在も第1版よりもより多くの疾患を対象としたガイドラインの策定作業が進められているところです.
特に診療ガイドラインを参照する際に,知っておきたい概念として出版バイアス(Publication bias)が挙げられます.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたい出版バイアスについて考えてみたいと思います.
出版バイアスとは?
出版バイアスというのは,研究結果の方向や,統計的に有意か否かによって,研究が出版されるかどうかが決まる場合に発生するバイアスのことを指します.
有意差の無い結果となった場合には,negative dataとしてみなされ論文として公表されない可能性が高くなります.
そのため公表される論文は有意差のある結果ばかりとなってしまうわけですが,そうなると偏った情報しか入ってこないことになってしまいます.
例えば考えてみましょう
大腿筋膜張筋と外側広筋間の組織間リリースが大腿骨転子部骨折例の疼痛軽減や歩行獲得に有用かといった疑問を解決するために介入研究を行ったとします.
この研究で組織間リリースが有意に疼痛を軽減させ,歩行能力を向上させるといった結果が得られた場合には,すぐにでも学会でまたは論文として公表したいと考えるでしょう.
ただ組織間リリースによる疼痛軽減効果や歩行能力改善効果が有意ではなかった場合というのはどうでしょうか?
学会で発表したり論文として公表しようと考えるでしょうか?
きちんと倫理審査委員会で承認を得て,研究を行っているからには,倫理的に考えても研究結果を公表することが研究者である理学療法士・作業療法士の責務になるわけですが,残念ながらnegative dataというのは公表されず,お蔵入りになってしまうことが多いといったのも実際です.
理学療法士・作業療法士が書籍や雑誌を購入するときのことを考えてみましょう
例えば皆様が書店へ出向いて書籍や雑誌を購入する時のことを考えてみましょう.
組織間リリースが疼痛軽減や歩行能力向上に有効だといった論文や書籍の内容が掲載されていれば,これはクライアントの治療に役立つかもしれないので,読んでみたいな,購入したいと考えるでしょう.
ただ仮に組織間リリースが疼痛の軽減や歩行能力の向上に効果が無いといった結論が書籍や雑誌に記載されていたとしたら,この書籍や論文を購入したいと思うでしょうか?
ほとんどの方は購入したいとは思わないでしょう.
なぜなら効果が無いということはクライアントの治療には役立てられないと考えてしまうからです.
そうなると書籍や論文を出版する出版社もその論文の掲載をやめたいと考えるでしょう.
書籍や雑誌が売れなければ出版社としては問題なわけですから当然です.
特に理学療法ジャーナルやメディカルプレスの理学療法のような商業誌の場合はなおさらですね.
このようにnegative dataというのは出版社から避けられる傾向にあります.
出版バイアスはどのように判断するのか?
それでは出版バイアスというのはどのように判断するのでしょうか?
通常,システマティックレビューやメタ分析ではファンネルプロットといった分析を用いて,出版バイアスの有無を視覚的に判断します.
ファンネルプロットというのは横軸は効果の大きさ(オッズ比や相対リスクなど)を,縦軸は精度(サンプルサイズや分散など)をプロットしていくことになります.
出版バイアスがない場合には,左右対称にプロットされますが,効果が小さい側のプロットが少ない場合には出版バイアスがあることが考えられます.
世に出ていないネガティブデータが多くあることを考慮する必要あり
われわれ理学療法士・作業療法士は世の中に出ているデータの大部分には偏りがあると考えることが重要です.
つまりpositiveなものばかりが公表されて,negativeなデータは公表されていない可能性があるということです.
もちろん質の高いシステマティックレビューでは今回ご紹介した出版バイアスを考慮した上で結論が導かれているわけですが,われわれ理学療法士・作業療法士は常に出版バイアスを頭の片隅に置いた上で情報を得る必要があると思います.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたい出版バイアスについて考えてみたいと思います.
ここ最近のコロナウイルス肺炎に関する情報に振り回されているわれわれですが,情報を正しくキャッチし,日々の理学療法・作業療法に生かしていきたいですね.
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