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理学療法士・作業療法士が意外と知らない肋骨骨折
肋骨骨折といえば理学療法のオーダーが出されることは少ない骨折の1つです.
バストバンドで固定して,そのまま退院といったケースも少なくないと思います.
しかしながら高齢者の肋骨骨折の場合,数日安静にしていると廃用性の機能低下が起こり,比較的短期間で動けなくなってしまうといったケースは少なくありません.
そのようなケースでは肋骨骨折例でも理学療法の処方が出されることが増えてきております.
ちなみに肋骨骨折は運動器リハビリテーション料では算定できませんが,呼吸器リハビリテーション料で算定できます.
呼吸器リハビリテーション料を算定できない場合は,廃用症候群か運動器不安定症での算定になるでしょうか?
今回は肋骨骨折について考えてみたいと思います.
肋骨骨折の受傷機転
高齢者における肋骨骨折の受傷機転として多いのが転倒です.
実はあまり知られていないことですが,高齢者の転倒による骨折の中で大腿骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折,橈骨遠位端骨折に次いで多いのがこの肋骨骨折なのです.
若年者の場合には転倒というよりは交通事故や高いところからの転落などの外傷による受傷が多いです.
肋骨骨折の好発部位
肋骨骨折の好発部位は第4~第10肋骨が挙げられます.
第1~3肋骨は鎖骨・肩甲骨が周囲に存在するため,また第11~12肋骨は胸骨から浮遊した状態となっておりますので可動性があり骨折が起こることは少ないです.
肋骨骨折の合併症
転位の少ない肋骨骨折は特に問題にはなりませんが,強い外傷にて転位が大きい場合には合併症に注意する必要があります.
第1~3肋骨骨折の場合には,縦隔・大動脈・肺挫傷・気胸などの胸腔内損傷の可能性を考慮する必要がありますし,第9~12肋骨骨折の場合には,肝臓・脾臓・腎臓損傷などの内臓損傷の可能性も疑われます.
さらに3本以上の肋骨が2カ所以上で骨折してしまうと,動揺胸郭となり奇異呼吸となることもあります.
このような場合には,胸腔ドレナージ・間欠的陽圧呼吸管理・肋骨固定術などの緊急治療を要することもあります.
肋骨骨折の症状
肋骨骨折の代表的な症状といえば疼痛です.
特に肋骨は呼吸運動の際に動かす胸郭を構成しておりますので,呼吸運動をする際に痛みが出現するケースが多いです.
その他にも前鋸筋等の肋骨に付着する上肢の筋群を活動させた際に疼痛が出現することも多いです.
また咳嗽やくしゃみ,体幹を回旋する動作の際に疼痛が出現することも多いといった点が特徴です.
肋骨骨折の治療
肋骨骨折の治療の基本は保存療法となります.
胸腔内損傷等が疑われる場合を除いて,手術療法が行われることはまれです.
完全な骨癒合には8週間は必要ですので,その間は外固定を行って保存的に加療するケースがほとんどです.
若年者であれば肋骨骨折で入院が必要となる方は少ないですが,高齢者の場合には日常生活動作能力低下が著しく入院を要する場合もあります.
また若年者であっても3本以上の骨折であれば入院となる場合もあります.
肋骨骨折後のバストバンド
肋骨骨折といえばバストバンドを使用して外固定が行われることが多いと思います.
バストバンドを使用することで,骨折部が安定し痛みが軽減されるのであれば急性期にはバストバンドを使用することが望ましいです.
しかしながらバストバンドで圧迫することで,かえって疼痛が出現する場合もあります.
場合によってはバストバンドをまかない方が楽に過ごせるとか,呼吸が楽であると感じる方も少なくありません.
バストバンドで強く胸郭を圧迫すると,1回換気量が減少してしまいますので,呼吸が浅くなってしまいます.
特に高齢者の場合には痰詰まりや肺炎を起こしてしまう可能性もあります.
したがってバストバンドを使用することで,呼吸に問題が出現する場合にはバストバンドをあえて使用しないこともあります.
肋骨骨折後の理学療法
肋骨骨折の場合には上述したように呼吸機能が低下するだけでなく,連結する胸椎の運動性が低下してしまうことにも注意が必要です.
特に胸椎の側屈・回旋方向の可動域が低下しやすいので,骨折部に負担をかけない範囲で胸椎の可動性を維持することもポイントです.
またバイオメカニクスを考慮した上で骨折部に負担のかからない寝返りや起き上がりの方法を指導することも理学療法士の役割として重要です.
今回は肋骨骨折について考えてみたいと思います.
理学療法士・作業療法士が意外と知ってるようで知らない肋骨骨折ですが,高齢化に伴い理学療法士が肋骨骨折例を担当する機会というのも増えていると思われますので,皆様も改めて肋骨骨折に関して理解を深めて下さい.
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