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術後に自分の足が自分の足じゃないみたいって訴える症状を説明できますか?
理学療法士・作業療法士であれば誰しも整形外科の術後のクライアントが自分の足が自分の足じゃないみたいなんて訴えを耳にしたことがあると思います.
私自身は最近までこの訴えがなぜ起こるのかをうまく説明できませんでした.
実はこういった自分の足が自分の足じゃないみたいといった訴えは下行性疼痛抑制系と関連した感覚機能の低下によって起こっているのです.
今回は理学療法士・作業療法士がよく遭遇する自分の足が自分の足じゃないみたいって訴える症状について考えてみたいと思います.
下行性疼痛抑制系とは?
下行性疼痛抑制系っていうのはどういったものでしょうか?
人間の痛覚伝達経路には痛みを脳に伝える「上行性疼痛伝導系」とその痛みを抑制する「下行性疼痛抑制系」があります.
疼痛刺激が脳に伝達されると,脳から快楽を司るドーパミンが出て,痛みを抑制する神経の働きを活性化させるセロトニンやノルアドレナリンが分泌されます.
それにより脊髄にある脊髄後角という部分で痛み信号が打ち消されるため,通常,人間は必要以上に痛みを感じることがなくてすむわけです.
有害な疼痛情報の伝達にブレーキがかかるしくみが備わっているわけですね.
この疼痛のブレーキの役割を果たしているのが「下行性疼痛抑制系」というわけです.
自己鎮痛メカニズムが働いているわけです.
慢性疼痛の場合は?
少し話がそれますが,慢性疼痛の場合には上述したセロトニンやノルアドレナリンが分泌されてもそれを再びからだに取り込んでしまう「再取り込み」が起こってしまうために,疼痛に対するブレーキが働かず脳に痛みが伝わってしまうわけです.
そのために疼痛が遷延してしまうわけですね.
最近は慢性的な不安やストレスというのは,下行性疼痛抑制系の働きを弱めることが明らかにされており,疼痛に認知や情動といった要因が関連しているというのは理学療法士・作業療法士の皆様も既知の情報だと思います.
なぜ術後に自分の足が自分の足じゃないみたいと訴えるのか?
それでは自分の足が自分の足じゃないみたいと訴える現象と下行性疼痛抑制系にどのような関連があるのでしょうか?
疼痛というのも感覚の1つです.
実は術後に下行性疼痛抑制系が強く働くと,疼痛だけでなく体性感覚情報までも抑制されてしまうのです.
そのため術後には体性感覚情報が少なくなって自分の足が自分の足じゃないみたいとか,力の入れ方が分かりませんなんていった症状が出現するわけです.
つまり術後に現れる自分の足が足じゃないみたいとか,力の入れ方が分かりませんといったような症状は下行性疼痛抑制系の副作用とも言えるでしょう.
自分の足が自分の足じゃないみたいといった訴えに対する理学療法士・作業療法士の対応は?
では術後のクライアントが自分の足が自分の足じゃないみたいと訴えた場合に理学療法士・作業療法士はどのように対応したら良いでしょうか?
基本的には術後の疼痛が軽減され,下行性疼痛抑制系が弱まれば体性感覚情報というのも増加していきますので,こういった訴えは自然に改善が得られることがほとんどです.
しかしながら長期にわたって下行性疼痛抑制系によって体性感覚情報が遮断されてしまうと,脳の体性感覚野も変容を起こす可能性があります.
したがってこういった場合には,体性感覚入力を入れるアプローチが重要となります.
体性感覚入力を入れて,感覚野に働きかけるようなアプローチですね.
具体的には硬さの異なるものを認知させるタスクを行わせたり,とにかく感覚情報を認知させるために体性感覚情報を意識に上らせることが重要です.
今回は理学療法士・作業療法士がよく遭遇する自分の足が自分の足じゃないみたいって訴える症状について考えてみました.
私はこれまで理学療法士の学生になんで自分の足が自分の足じゃないみたいな訴えが出現するのかと聞かれてもうまく回答できませんでしたが,下行性疼痛抑制系との関連で理解しておくと話がわかりやすいですね.
皆様の参考になればうれしいです.
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