目次
人工膝関節全置換術後にラテラルスラストが軽減しても,膝関節内反モーメントは軽減するとは限らない
人工膝関節全置換術といえば変形性膝関節症に対して行われる手術療法ですが,人工膝関節全置換術を行ったにもかかわらず,歩行立脚期にラテラルスラストが残存する症例は少なくありません.
また膝関節内反モーメントの増大は,人工膝関節の耐久性を低下させる要因となりますので,早期に改善を図ることが重要となります.
今回は人工膝関節全置換術後に膝関節内反モーメント・ラテラルスラストはどのように経過するのかについて調査した研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Knee Surg Sports TraumatolArthrosc. 2016 Aug;24(8):2506-11. doi: 10.1007/s00167-015-3688-3. Epub 2015 Jul 17.
Courses of change in knee adduction moment and lateral thrust differ up to 1 year after TKA.
Shimada N1, Deie M2, Hirata K1, Hiate Y1, Orita N1, Iwaki D1, Ito Y1, Kimura H3, Pappas E4, Ochi M5.
今回ご紹介する論文は2016年に掲載された比較的新しい論文です.
研究の目的
In total knee arthroplasty (TKA), dynamic knee loading may loosen the artificial joint and bone or cause polyethylene wear after prolonged use. TKA decreases knee adduction moment at 6 months, but this effect is lost by 1 year post-operatively. However, lateral thrust after TKA has not been clarified. We hypothesized that like knee adduction moment, lateral thrust would return to baseline levels by 1 year post-operatively.
人工膝関節全置換術例においては,膝関節の動的安定性が人工膝関節の緩みやポリエチレンインサートの摩耗につながります.
人工膝関節全置換術によって膝関節内反モーメントは減少し,この内反モーメントの減少は術後1年続くとされております.
しかしながら人工膝関節全置換術後にラテラルスラストがどのように経過するのかについては不明であります.
この研究では膝関節内反モーメントとラテラルスラストは術後1年をかけて同様の経過で軽減するといった仮説を立案した上で研究を行っております.
研究の方法
Participants were 15 patients who underwent TKA for medial knee OA. Japanese Orthopaedic Association (JOA) score, numeric rating scale, and gait analysis (measurement of peak knee adduction moment, knee varus angle at peak knee adduction moment, lateral thrust, and gait speed) were performed preoperatively (baseline) and 3 weeks, 3 and 6 months, and 1 year post-operatively.
対象は内側型変形性膝関節症に対して人工膝関節全置換術を施行した15例となっております.
この15例に対してJOAスコア,NRS,歩行分析(膝関節内反モーメントピーク,膝関節内反モーメントピーク時の膝関節内反角度,ラテラルスラスト,歩行速度)を術前のベースライン,術後3週,術後3ヶ月,術後6カ月,術後1年で評価しております.
研究の結果
JOA score improved from 55 ± 9.8 to 78 ± 12.1 at 1 year post-operatively, and pain decreased significantly from baseline at each follow-up (p < 0.001). Significant increases in gait speed were observed at 6 months and 1 year (p < 0.001). Peak knee adduction moment during stance phase was significantly lower at 3 weeks, 3 months, and 6 months compared to baseline (p < 0.05), but no significant changes were seen at 1 year. Knee varus at peak knee adduction moment did not differ significantly between any measurement points, while lateral thrust was decreased at 6 months and 1 year compared to baseline (p < 0.05).
JOAスコアは55点から78点へと術後1年で有意に改善し,疼痛についても有意に減少しております.
歩行速度については術後6か月と術後1年で有意に改善しております.
立脚期における膝関節内反モーメントピークは術後3週,術後3ヶ月,術後5カ月でベースラインに比較して有意に低くなっておりますが,膝関節内反モーメントピークにおける膝関節内反角度については,いずれの測定ポイントでも有意な変化は認めておりません.
一方でラテラルスラストに関しては術後6カ月および1年でベースラインに比較して有意に減少しております.
研究の結論
Temporal courses of changes up to 1 year after TKA differed between knee adduction moment and lateral thrust, so our hypothesis was rejected.
この研究結果から膝関節内反モーメントとラテラルスラストの経過は異なることが明らかとなりました.
今回は人工膝関節全置換術後に膝関節内反モーメント・ラテラルスラストはどのように経過するのかについて調査した研究論文をご紹介させていただきました.
この研究からわかるのは,ラテラルスラストの軽減が直接的に内反モーメント軽減につながるわけではないということです.
この結果は膝関節内反モーメントはラテラルスラスト以外の股関節・足部の影響を多分に受けることによるものだと考えられます.
したがって理学療法士が人工膝関節全置換術後の内反モーメントの軽減を図る場合にはラテラルスラスト以外に着目した介入が必要であると考えられます.
コメント