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8年ぶりに米国リウマチ学会(ACR)の変形性関節症ガイドラインが改訂される
昨今はガイドラインに基づいた医療の実践が求められておりますので,本邦の理学療法士も診療ガイドラインを目にされる機会は多くなってきていると思います.
本邦でも日本整形外科学会や日本理学療法士学会がガイドラインの策定を行っておりますが,海外のガイドラインというのも非常に参考になります.
今回は米国リウマチ学会(ACR)が関節炎財団と共同で改訂した手・股関節・膝の変形性関節症(OA)診療ガイドライン(GL)2019年改訂版がArthritis Rheumatol(2020年1月6日オンライン版)およびArth Care Res(2020年1月6日オンライン版)に発表されましたので,この新しいガイドラインの内容について見ていきたいと思います.
今回のガイドラインの特徴
理学療法士が最も気になるのはガイドラインにおける運動の効果でしょう.
改訂された今回のガイドラインでは,運動は引き続き強く推奨されており薬物療法の選択肢は限定的とされております.
広範な文献レビューと患者の意見を総合して,前版GLから数項目が変更されておりますが,治療法を「理学療法・心理療法・心身医療」と「薬物療法」の2種に大別し,色分けした表を用いて変更点が一目で分かるようにまとめられております.
気になる運動の効果は?
運動は前版から継続して重要な介入法として記載され,改訂版では手・膝・股関節の変形性関節症いずれにおいても強く推奨されております.
運動の効用は,ほぼ全ての変形性関節症のクライアントにおいて多数の文献により支持されております.
前版で条件付き推奨にとどまっておりました変形性膝関節症や変形性股関節症に対する自己管理プログラム,そして太極拳が強い推奨に変更になったのも注目すべきです.
さらに変形性膝関節症および変形性股関節症に対する新たな条件付き推奨としてバランスエクササイズが加えられております.
これは本邦における昨今の変形性関節症を有する対象者の高齢化にも合致する内容ではないかと思います.
未治療の手根中手骨変形性関節症および変形性膝関節症に対する新たな条件付き推奨として,ヨガ・認知行動療法・高周波アブレーション・キネシオテーピングが追加されております.
ちなみにわれわれ理学療法士にとって関心が高いと思われる,徒手療法については変形性膝関節症および変形性股関節症ともに条件付き非推奨に変更されております.
また理学療法士にも関連の深い物理療法であるTENSについても,前版では条件付き推奨でありましたが,変形性膝関節症および変形性股関節症に対するTENSは強い非推奨に変更されております.
自己管理,太極拳,ヨガ,認知行動療法といったあたりの推奨度が上がった点は,最近の慢性疼痛治療に対する考え方にいっちするところですね.
一方で従来から行われてきた徒手療法や物理療法の推奨度が下がっておりますので,われわれ理学療法士の変形性関節症例に対する理学療法内容も改める必要がありそうな結果ですね.
薬物療法については?
前版で条件付き推奨であった変形性膝関節症に対する局所非ステロイド抗炎症薬(NSAID)使用,変形性膝関節症および変形性股関節症に対する経口NSAIDと関節内ステロイドの使用が強く推奨されております.
また新たな条件付き推奨として膝OAに対するデュロキセチン投与が加えられております.
さらに前版で条件付き非推奨であった局所カプサイシン投与が,変形性膝関節症に対して条件付き推奨となっております.
気になるヒアルロン酸注射ですが,変形性手関節症や変形性膝関節症に対しては関節内ヒアルロン酸注射が条件付き非推奨として新たに加えられております.
漫然とヒアルロン酸注射を行っても効果が無いのは明らかですもんね.
今回は米国リウマチ学会(ACR)が関節炎財団と共同で改訂した手・股関節・膝の変形性関節症(OA)診療ガイドライン(GL)2019年改訂版がArthritis Rheumatol(2020年1月6日オンライン版)およびArth Care Res(2020年1月6日オンライン版)をご紹介させていただきました.
本邦とは変形性関節症例の特徴も異なるわけですが,本邦の変形性膝関節症例に対しても適応できる内容も多いと思いますので,理学療法士・作業療法士の皆様が変形性関節症例を対象に理学療法・作業療法を行う上での参考になればうれしいです.
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