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人工膝関節全置換術例におけるコミュニケーション
チェックリストは患者満足度を向上させるか?
人工膝関節全置換術や人工股関節全置換術の術後アウトカムの1つとして患者満足度が挙げられます.
理学療法士・作業療法士の方であれば,誰もが経験されていることだと思いますが,機能や能力が大きく回復しても満足度が低い方もおられれば,機能や能力の改善が乏しくとも非常に満足されているクライアントがいらっしゃるのも実際です.
このあたりは理学療法士・作業療法士とクライアントとの関係性やリハビリテーションに関する説明が重要なカギを握っていると個人的には考えております.
今回は人工膝関節全置換術例におけるコミュニケーションチェックリストといったツールの利用が患者満足度を向上させるか否かを明らかにした研究論文をご紹介させていただきます.
ご紹介する論文
J Arthroplasty. 2019 Mar;34(3):456-461. doi: 10.1016/j.arth.2018.11.032. Epub 2018 Dec 1.
Total Knee Arthroplasty Communication Checklist Increases Patient Satisfaction.
Gautreau SJ, Gould ON, Allanach WW, Clark AE, Massoeurs SJ, Forsythe ME.
今回ご紹介いたします論文は2019年に掲載された新しい論文です.
研究の背景・目的
Satisfaction with total knee arthroplasty (TKA) is correlated with the fulfillment of expectations. Good surgeon-patient communication impacts how expectations are formed and managed. The TKA communication checklist was developed to help surgeons better understand and manage patients’ postoperative expectations in order to increase satisfaction with TKA.
人工膝関節全置換術例における満足度は期待感の充足と関連しております.
良好な術者と患者間のコミュニケーションがクライアントの期待感に影響を与えます.
人工膝関節全置換術におけるコミュニケーションチェックリストは人工膝関節全置換術後のクライアントの術後の期待感を充足させ,満足度を向上させる可能性が考えられます.
この研究では人工膝関節全置換術例におけるコミュニケーションチェックリストといったツールの利用がは患者満足度を向上させるか否かを明らかにすることを研究目的としております.
研究の方法
In this prospective cohort study, mean satisfaction scores of a standard of care communication group and a checklist intervention group were compared. The duration of postoperative follow-up appointments was also assessed to determine whether the checklist took significantly more time in practice.
この研究は前向きコホート研究となっております.
通常のコミュニケーションでケアを行う対照群とコミュニケーションチェックリストを用いてケアを行う介入群に分類して研究が行われております.
満足度と合わせてコミュニケーションチェックリストの使用に要する時間についても比較を行っております.
研究の結果
Sixty patients received the checklist in TKA appointments with surgeons between 6 weeks and 6 months postoperatively and their satisfaction ratings were compared with 67 patients who had received the standard of care communication. The checklist group reported higher satisfaction on overall TKA satisfaction and expectations met (P = .02), care and concern shown by the surgeon (P = .01), surgeons’ communication ability (P = .01), and satisfaction with time spent in follow-ups (P < .001). Satisfaction with relief from pain and return to function was not significant (P = .06). More time was spent in the checklist groups’ follow-ups, with a mean difference of 1 minute, 51 seconds (P = .001).
介入群である60例の人工膝関節全置換術例に術後6週~6カ月の間にチェックリストを用いた介入を行い,対照群である67例は通常の介入を行った上で満足度を比較しております.
チェックリストを使用した群は人工膝関節全置換術後の全体的な満足度が高く,期待感とも合致しておりました.
また満足度と有意な関連を認めたのは術者のクライアントへの関心,術者のコミュニケーション能力でありました.
満足度と疼痛の軽減の程度や機能改善の程度には有意な関連は認めませんでした.
チェックリストの使用による介入は通常の介入に比較して1分51秒の時間を要するといった結果でありました.
研究の結論
The TKA communication checklist significantly improved patients’ satisfaction across multiple dimensions. This has practical significance because patient satisfaction is increasingly used as a key performance indicator for surgeons and healthcare institutions alike. Increased TKA satisfaction will benefit patients, surgeons, and the healthcare system overall.
人工膝関節全置換術例におけるコミュニケーションチェックリストはクライアントの満足度を向上させることが明らかとなりました.
この結果は術者や病院スタッフがクライアントの満足度を向上させる上で非常に良いツールになる可能性があります.
今回は人工膝関節全置換術例におけるコミュニケーションチェックリストといったツールの利用が患者満足度を向上させるか否かを明らかにした研究論文をご紹介させていただきました.
コミュニケーション・チェックリストというのが具体的にどのようなものか分かりませんが,個人的にはこの時期にはクライアントに対してこういった説明をしましょうとか,この合併症に対してはこういった説明をしましょうといったようなところが統一されるとコミュニケーション能力の低い理学療法士にあたった際でも,クライアントも高い満足感を得られるのではないかと思います.
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