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これは危険!筋トレ不要論を唱える理学療法士が急増
筋力トレーニングと言えば理学療法士がクライアントに行うことの多い運動療法プログラムの1つだと思います.
ここ最近,筋力トレーニングを行うと筋の緊張や硬度が増し疼痛の原因となるとか,筋の量よりも筋の質が重要であって筋力トレーニングは不要であるといった意見をもつ理学療法士が増えてきております.
私自身はこのような状況を非常に危険だと考えております.
今回は筋トレ不要論を唱える理学療法士が急増している件について考えてみたいと思います.
筋の量より筋の質
昨今の科学的研究論文でも筋の量よりも筋の質が重要であることが多く明らかにされてきております.
筋力の中でも量的な要素よりも空間的・時間的要素が重要であることは,臨床で勤務する理学療法士であれば誰しもが感じるところだと思います.
例えば筋力発揮のタイミングであったり,主動作筋と拮抗筋のバランスであったり,同一作用を有する筋群の中でもアウターとインナーのどちらが活動しているかといった視点が確かに必要です.
しかしながら筋の質というのは,筋の量がある程度獲得されている上で求められるものだと思います.
絶対的な筋の量が不足している状況で,筋の質ばかりに重点を置いて理学療法を行っても,パフォーマンスの改善は乏しいでしょう.
また筋力トレーニングを継続することで本当に筋緊張が上がるのでしょうか?
筋力トレーニングを継続することでγ運動ニューロンの興奮性が増すといった論文というのは現在のところ無いと思います.
最低水準を考えよう
私自身も既に歩行が自立している高齢者にウェイトを用いた高強度な積極的筋力トレーニングが必要だとは考えておりません.
ただ平行棒を歩行するのがやっとの状態である大腿骨近位部骨折を受傷した高齢者にとって本当に筋力トレーニングは不要でしょうか?
ここで重要なのは,あるパフォーマンスを達成するために必要な(歩行が自立するために必要な)筋力を十分に獲得できているかどうかといった視点です.
例えば,高齢者が歩行補助具を必要とすること無く歩行が可能となるためには,0.75Nm/kgの膝関節伸展筋力が必要であるといったデータがあれば,少なくとも最低水準である0.75Nm/kgの筋力を獲得するまでは膝関節伸展筋力が行われるべきだと思います.
このように対象者の状況を考慮すること無く,全ての対象者に筋力トレーニングは不要であると論じることは非常に危険だと思います.
対象者の状況によっては積極的な筋力トレーニングは不要でしょうし,量よりも質に着目したトレーニングが必要かもしれませんし,最低水準に達していなければ積極的に筋力を向上させる必要があると考えられます.
そもそも筋力評価が適切に行われていない
上述したように,理学療法士は対象者の状況によって量的な筋力を向上させるプログラムを行うべきかどうかを考える必要がありますが,そもそも筋力評価ってきちんと行われているでしょうか?
昨今は筋力を軽視する理学療法士が増えており,ハンドヘルドダイナモメーター等の機器を用いた筋力トレーニングが系統立てて行われていることはほとんどないのではないでしょうか?
筋力評価は必要ない,動作から筋力を推定するというのも1つの考え方かもしれませんが,このような状況では,筋力を向上させるためのプログラムが必要かどうかも判断できません.
筋力低下=筋力トレーニングではない
また筋力低下=筋力トレーニングといった方程式は,専門家である理学療法士としてあまりにも短絡的すぎます.
例えば膝関節伸展筋力低下があれば,大腿四頭筋トレーニングを行うというのはあまりにも短絡的すぎます.
まずは膝関節伸展筋力低下の原因を考える必要があります.
もしかしたら膝蓋骨高位によって筋力低下が生じている可能性も考えられますし,拮抗筋であるハムストリングスの同時収縮が膝関節伸展運動を妨げている可能性もあります.
さらに薄筋や大腿筋膜張筋の過緊張や短縮が膝蓋骨のマルトラッキングを引き起こしている可能性も考えられますし,もしかしたら量的な筋力低下の大きな原因は食事摂取が十分でないところにあるかもしれません.
挙げればきりがありませんが,こういった側面を考えると膝関節伸展筋力低下=大腿四頭筋トレーニングといった方程式は成り立たないわけです.
ここで重要なのは膝関節伸展筋力を評価した上で,膝関節伸展筋力低下の原因を熟考することです.
その上でまずは目標とするパフォーマンス獲得に必要な最低水準の筋力獲得を目標としたプログラムを立案する必要があります.
今回は筋トレ不要論を唱える理学療法士が急増している件について考えてみました.
皆様が対象者の筋力水準に応じて筋力を向上させるプログラムの必要性を,改めて考えていただく機会になればうれしいです.
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