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人工股関節全置換術後にクライアントからよくされる質問
人工膝関節全置換術や人工股関節全置換術も以前に比較すれば一般的になってきておりますが,クライアントからすれば人工物を体に挿入したということでさまざまな不安を訴えられることが多いです.
理学療法士・作業療法士であればクライアントのこういった不安に対して適切な指導を行って不安を取り去ってあげたいところです.
今回は人工股関節全置換術後にクライアントからよくされる質問を取り上げどういった回答をするべきかを考えてみたいと思います.
マッサージや電気治療を受けてもいいですか?
こういった質問を受けることは非常に多いです.
基本的には低周波は問題ありません.
ただしマイクロ波に関しては患部に照射することは避ける必要があります.
物理療法機器を扱う施設では各機器の禁忌事項を考慮した上で,機器を使用しているはずですので,まずはこういった人工関節全置換術を施行した旨をきちんと伝えることが重要です.
マッサージについては,整形外科や整骨院など人工股関節の手術をしたと伝えて理解してもらえる施設でのマッサージ・指圧・オイルマッサージなど動きのない(寝ているだけでよい)ものであれば大きな問題はありません.
アクロバテイックなタイ古式マッサージやヨガ,言葉の通じにくい国で施術内容もよくわからないマッサージなどは避けたほうが無難だと思います.
また急激な動きを強要される可能性のあるカイロプラクティック(整体)もあまり勧められません.
術後MRI検査(脳や頸・腰など)を撮影してもいいですか?
人工股関節の材料に一部弱磁性のもの(コバルトクロムなど)も含まれている場合があり,術後早期(自骨と人工股関節がまだ癒合していない時期)は,強いMRIの磁場によって回旋力などがかかることで,初期固定に悪影響を及ぼす可能性は否定できません.
したがってMRI検査の可否や時期については主治医に直接確認する必要があります.
一般的には術後6カ月以上が検査できれば安全に検査を受けることができるといった説明がなされる場合が多いと思います.
車に乗ってもいいですか?
まずアクセルとブレーキがしっかり踏めること,さらにレッグコントロールが利いて,患肢(手術側)を自力で持ち上げて乗り降りできるのであれば,運転自体は特に問題ありません.
基本的に運転中に股関節を大きく動かすはありませんので,運転そのものに股関節機能が与える影響は大きいものではありませんが,問題は入院中に数週間の間,車に乗っていないといった点です.
長く車に乗っていないと,ハンドル操作やアクセル操作が難しくなる方もおられますので,まずはご家族に同乗していただき,車の通りの少ないところで運転操作の確認を行うことが勧められます.
また脱臼予防の観点から,シートが自分の膝より低い車に乗る場合には,クッションを使用する等の工夫も必要でしょう.
車内は狭い空間のため,乗り込む際に無理な姿勢をとってしまう危険性があります.
まずシートに腰をかけ,両足をそろえてそのまま90°回転するようにすれば安全です.
自転車やバイクに乗ってもいいですか?
自転車やバイクに関しても質問を受けることが多いです.
自転車やバイクに乗る際にまたぐ動作が必要になるため,軸足となる足が手術側の場合は,十分に筋力やバランス能力が回復すれば自転車やバイクに乗ることも可能です.
多くの方が左足を軸にして自転車やバイクに乗ることが多いので,自転車やバイクに乗ってもよい目安としては「左側での片脚立ちが可能」な状態ということとなります.
どれくらいの距離を歩いてもよいですか?
基本的に連続歩行距離に制限を設ける必要はありません.
ただいきなり歩行距離を延長すると,新たな疼痛が出現することも多いので,退院後は近所の散歩などから開始し,徐々に歩行距離を延ばして万歩計を活用する方法がお勧めです.
万歩計で測定した歩数を参考に徐々に歩行距離を延長していくとよいでしょう.
長距離歩行後に疼痛や発赤・熱感が出現するようであれば,十分に休息をとるように指導します.
関節保護の目的で歩行距離を制限するといったような考え方がなされる場合もありますが,これでは何のために人工関節置換術を受けたのかが分かりません.
現在のところ歩行距離を延長することで人工関節の耐用性に問題が出るといったエビデンスも存在しませんし,身体活動量を増やすことによるメリットを考えると人工関節の耐用性のことだけを考えて歩行距離を制限するといった指導は誤りだと考えられます.
ただし対側の変形性股関節症の進行の程度によっては,歩行距離を制限するような指導も必要です.
今回は人工股関節全置換術後にクライアントからよくされる質問を取り上げどういった回答をするべきかを考えてみました.
人工股関節全置換術を行ったせいであれもダメですよ,これもダメですよといった指導がなされることが多いのですが,これではクライアントがかわいそうです.
リハビリテーション専門職である理学療法士・作業療法士であれば,こうやればできますよといったような代替手段を提案できるようにしたいものです.
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