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PTのスキルはTKA例のアウトカムに影響するか?
理学療法士・作業療法士であれば誰もが自分が担当するクライアントに良くなっていただきたいといった思いを持たれると思います.
また自分が担当したクライアントが良くなるというのは専門職としてこの上ない喜びでもあります.
理学療法士・作業療法士の多くが,理学療法士・作業療法士のスキルがクライアントの治療成績に影響すると考えておられると思いますが,実はこういったデータってあまりないんですよね.
今回は理学療法士のスキルが人工膝関節全置換術例の術後アウトカムに影響を及ぼすか否かを明らかにした研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
J Knee Surg. 2019 May 8. doi: 10.1055/s-0039-1688690. [Epub ahead of print]
Do Individual Differences in Physical Therapists’ Skills Affect Postoperative Results of Total Knee Arthroplasty?
Fujii T, Nishio N, Bandou M, Kitano S, Noboru M, Seko M, Inagaki Y, Tanaka Y.
今回ご紹介する論文は2019年に掲載された新しい論文です.
また本邦で行われた研究であり,非常に興味深い内容となっております.
研究の目的
We investigated variations in postoperative outcomes of total knee arthroplasty which were dependent on the physical therapist (PT) who performed rehabilitation while keeping other parameters as uniform as possible.
この研究ではリハビリテーションを行う理学療法士のスキルが人工膝関節全置換術例の術後アウトカムに影響を及ぼすか否かを明らかにすることを目的として行われております.
研究の方法
Seventy-nine among 690 knees were selected based on strict inclusion and exclusion criteria. Patients were randomly assigned to five PTs, who had from 2 to 21 years of experience. Range of motion (ROM) on postoperative days (PODs) 1, 3, 7, and 14 and at postoperative months 3, 6, and 12, results of timed up and go (TUG) test on POD 14, time to walking with a single cane, and time to climbing stairs, were evaluated.
取込基準ならびに除外基準に基づいて690例の人工膝関節全置換術例の中から抽出した79例を対象としております.
この79例を無作為に5名の理学療法士(経験年数2年目~21年目)に割り付けております.
術後1日目,3日目,7日目,14日目,3ヶ月,6か月,12カ月の術後関節可動域,術後14日目のTUG,1本杖歩行獲得までの期間,階段昇降動作獲得までの期間をアウトカムとしております.
研究の結果
There were significant differences until POD 3, and no significant differences afterward in flexion. There was a significant difference on POD 1 only in extension. The TUG test showed no significant difference, but there were significant differences at the time of walking with a single cane and climbing stairs.
術後3日目までの膝関節屈曲関節可動域に理学療法士の経験年数によって有意な差が見られたものの,その後の可動域には有意差は認められませんでした.
また膝関節伸展可動域についても理学療法士の経験年数によって有意差を認めたのは術後1日のみでした.
TUGについては理学療法士の経験年数による有意差は認めませんでしたが,杖歩行獲得までの期間や階段昇降獲得までの期間には理学療法士の経験年数による有意差が認められております.
研究の結論
The time taken to achieve rehabilitation, which was determined subjectively by each PT, differed among therapists, but differences in ROM were present in early period. Therefore, ROM after surgery is not affected by differences between PTs.
リハビリテーションは,それぞれの理学療法士によって主観的にプログラムが決定されます.
しかしながら術後早期の関節可動域に関しては理学療法士の経験による差は無いことが明らかとなりました.
今回は理学療法士のスキルが人工膝関節全置換術例の術後アウトカムに影響を及ぼすか否かを明らかにした研究論文をご紹介させていただきました.
非常に興味深い内容ですね.
個人的には経験年数だけで理学療法士のスキルが決まるとは思っておりませんが,杖歩行獲得までの期間や階段昇降獲得までの期間といった主要アウトカムには有意差がみられており,このあたりは経験に依存する部分が大きいのかもしれません.
いずれにしてもこういった結果を考えると診療報酬が一律というのにも問題があるのかもしれません.
経験年数というよりは生涯学習に取り組んでいる理学療法士が高く評価される必要があるのかも知れません.
認定・専門理学療法士制度なんかがまさにその1つだと思いますが,診療報酬にどこまで反映されるかはあやしいですね.
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