目次
TKA例に対する手術日からの理学療法介入の有効性
人工膝関節全置換術(TKA)に限ったことではありませんが,昨今のリハビリテーションプログラムは早期化しており,人工膝関節全置換術翌日から全荷重が許可され,早期に離床や荷重歩行を行うというのが一般的になってきております.
本邦でも一部の病院を除き術翌日からクリニカルパスに沿って理学療法を行っているところがほとんどだと思います.
一方で本邦でも手術当日から理学療法を開始する施設が学会等では少しずつ出てきている状況です.
今回は人工膝関節全置換術(TKA)例に対する手術日からの理学療法介入の有効性を明らかにした研究論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
J Arthroplasty. 2019 Jul 29. pii: S0883-5403(19)30713-2. doi: 10.1016/j.arth.2019.07.029. [Epub ahead of print]
Same-Day Physical Therapy Following Total Knee Arthroplasty Leads to Improved Inpatient Physical Therapy Performance and Decreased Inpatient Opioid Consumption.
Sarpong NO, Lakra A, Jennings E, Cooper HJ, Shah RP, Geller JA.
今回ご紹介する論文は2019年に掲載された新しい論文です.
研究の背景
Early ambulation with physical therapy (PT) following total knee arthroplasty (TKA) has demonstrated benefits in the literature. However, the impact of early PT on rehabilitation performance and opioid consumption has not been elucidated. We evaluate the effect of same-day PT on inhospital functional outcomes and opioid consumption.
人工膝関節全置換術(TKA)後の早期の理学療法による歩行開始は文献的にも有益であることが明らかにされております.
しかしながら早期の理学療法開始がリハビリテーションパフォーマンスやオピオイド使用量に与える影響は十分に明らかにされておりません.
この研究では手術同日からの理学療法開始が機能的アウトカムとオピオイド使用量に与える影響を明らかにすることを目的としております.
研究方法
We retrospectively identified 2 cohorts of primary TKA patients from July 2016 to December 2017: PT0 (n = 295) received PT on the day of surgery, and PT1 (n = 392) received PT on postoperative day (POD) 1. Outcomes studied included number of feet walked on POD0-3, visual analog scale pain scores, morphine equivalents (ME) consumed, length of stay, and discharge disposition. Analysis was conducted using the Student t-test and Fisher exact test.
2016年から2017年に初回片側人工膝関節全置換術(TKA)を行った症例を,手術当日から理学療法を行った295例と,手術翌日から理学療法を行った392例に分けて,後方視的に調査を行っております.
アウトカムは術後0~3日目における歩行距離,疼痛スコア,オピオイド消費量,在院期間,在宅復帰率としております.
統計学的解析には対応の無いt検定またはFisherの直接確率検定を用いております.
研究結果
In comparison to the PT1 group, the PT0 group walked significantly more steps on POD1 (347.6 vs 167.4 ft, P < .0001), POD2 (342.1 vs 203.5 ft, P < .0001), and POD3 (190.3 vs 128.9 ft, P = .00028). There was no difference between the 2 groups for visual analog scale. The PT0 group also consumed significantly fewer total ME when compared to the PT1 group (149.0 vs 200.3 mg, P = .0002). The PT0 group had a significantly shorter length of stay when compared to the PT1 group (2.7 vs 3.2 days, P = .00075). More patients were discharged home in the PT0 group (81.7% vs 54.8%, P < .0001).
術翌日から理学療法を開始した群に比較して手術当日から理学療法を開始した群で,有意に術後1日目,術後2日目,術後3日目における歩数が多い結果でありました.
2群間で疼痛には有意差は認めませんでした.
また手術当日に理学療法を行った群で手術翌日から理学療法を行った群よりも有意にオピオイド消費量が少ない結果でありました.
さらに手術当日に理学療法を開始した群で,手術翌日から理学療法を開始した群に比較して有意に在院期間が短く,在宅復帰率も高い結果でありました.
研究の結論
We observed that initiation of PT on POD0 led to better PT performance, reduced ME during hospitalization, and more patients discharged home.
この研究結果から人工膝関節全置換術(TKA)当日から理学療法を開始することで,身体的パフォーマンスが向上し,オピオイド消費量が減少し,自宅退院を果たしやすくなることが明らかとなりました.
今回は人工膝関節全置換術(TKA)例に対する手術日からの理学療法介入の有効性を明らかにした研究論文をご紹介させていただきました.
正直なところ,疼痛も強い状態で手術当日から理学療法を開始する必要性に関して疑問がありましたが,このような結果をみると改めて早期から理学療法を開始することが重要なのだと認識できました.
この結果をすぐに自分の病院における人工膝関節全置換術(TKA)例のリハビリテーションプログラムに導入するのは難しいと思いますが,可能な限り早期から動いていただくことが重要であるといった結果だと思います.
コメント