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第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介
変形性股関節症関連
一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,昨年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
令和元年10月4-6日に岡山県で第7回日本運動器理学療法士学会が開催されます.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から変形性股関節症関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
疾患進行リスク因子に基づいた変形性股関節症患者のサブタイプ分類
研究の目的
変形性股関節症(以下,股関節症)の進行予防は重要な課題であり,近年,立位における脊柱傾斜や脊柱柔軟性低下,日常生活における過剰な股関節負荷など,複数の臨床的な疾患進行のリスク因子が特定されております.
しかし,ある限定された患者がこれら複数のリスク因子を併せ持っているのか(単一の高リスク患者群),異なるリスク要因を持つ複数のサブタイプが存在するのかは不明であります.
進行予防のための治療ターゲットを患者個々においてより明確にすることにつながると考えられます.
この研究の目的は,1)疾患進行リスク因子に基づいて患者群のサブタイプ分類を行うこと,2)各サブタイプの臨床的特徴を明らかにすることとなっております.
研究の方法
対象は,二次性股関節症患者50名(47.4±10.7歳)とした.サブタイプ分類の可否を検証するため,進行リスク因子である,立位における脊柱全体の前傾,矢状面の胸腰椎可動範囲(柔軟性),前額面の股関節累積負荷(歩行時股内転モーメント積分値×一日平均歩数),および最小関節裂隙幅を変数として,two-stepクラスター分析を行っております.
複数のサブタイプに分類できれば,各タイプの臨床的特徴を明らかにするため,進行リスク因子も含めた下記変数をタイプ間で比較しております[年齢,BMI,股関節痛,Harrishipscore,股関節可動域,股関節筋力,立位における脊柱アライメント(胸椎後弯,腰椎前弯,仙骨前傾,脊柱全体の傾斜),矢状面の脊柱柔軟性(胸椎,腰椎,胸腰椎),歩行速度,一日平均歩数,歩行時股関節角度,歩行時股関節モーメント積分値,股関節累積負荷].
また,初期評価時と12か月後のレントゲン画像から疾患進行の有無を判定し(関節裂伱幅の0.5mm以上の減少:進行有),タイプ間で疾患進行者の割合(疾患進行リスク)を比較しております.
なお,タイプ間の比較には,対応のないt検定(Holm補正)および一般化線形モデルを用いております(有意水準5%).
研究の結果
患者群は3つのサブタイプに分類されました.
有意差を認めた特徴として,タイプ1(n=15)は,他群より若年(36.6±8.0歳)であり,Harris hip scoreが高スコアである一方,前額面の股関節累積負荷が増加しておりました.
タイプ2(n=21)は,他群より高齢(55.5±7.9歳)であり,関節裂伱幅が狭く,股関節外転・内転・内旋可動域が低下し,胸腰椎柔軟性が低下しておりました.
タイプ3(47.2±4.4歳,n=14)は,歩行速度が遅く,立位姿勢で胸椎後弯角が減少し,脊柱,特に胸椎の柔軟性が低下していた.なお,疾患進行者の割合は,タイプ間で有意差を認めておりません.
研究の結論
この研究結果は,例えば,タイプ1に該当する比較的若年の患者では進行予防に向けて特に過剰な股関節累積負荷に注意するなど,タイプに応じた疾患進行予防策の立案の一助となると考えられます.
感想
実際に変形性股関節症例に対して理学療法を行っていると,一次性変形性股関節症例や二次性変形性股関節症例では全く病態が異なり,理学療法アプローチも異なるものとなります.
この研究の素晴らしいのは変形性股関節症例をサブタイプに分類し,サブタイプごとに変形性股関節症進行に関連する要因が明らかにされている点です.
この研究をもとに自身が担当している変形性股関節症例がどのサブタイプに該当するのかを考慮した上で進行予防に向けた理学療法を展開していく必要がありますね.
末期股関OA患者における対側上肢肢位の違いによる
股関節伸展筋の筋発揮の検討
研究の目的
末期変形性股関節症患者は,疼痛や股関節屈曲拘縮により股関節伸展筋の筋力強化に苦慮することが少なくありません.
しかし,臨床において対側上肢からの波及によって,股関節伸展筋の筋発揮向上を図れる患者も経験します.
また,歩行において腕の振りは下肢の筋活動に影響するという報告もあります.
この研究では,末期変形性股関節症患者における対側上肢肢位の違いによる股関節伸展筋の筋発揮を検討することを目的としております.
研究の方法
対象は,片側人工股関節全置換術施行予定の末期変形性股関節症患者 15 名(男性 5 名,女性 10 名,平均年齢 66.6±8.5 歳)とした.
なお,疼痛や関節可動域制限により測定肢位をとれない患者は除外しております.
筋力測定肢位は端座位(股関節屈曲 70°,膝関節 90°,足関節底背屈 0°)とし,術側の股関節伸展筋力を計測しております.
計測にはハンドヘルドダイナモメーター(酒井医療社製モービィー)を使用しております.
非術側の上肢肢位を,下垂位,肩関節屈曲 120° 肢位,肩関節伸展 30° 肢位の 3 条件として,それぞれ 2 回計測を行っております.
数値の高い方を採用し,体重にて除して正規化した値を筋力値としております.
統計学的分析には,反復測定 1 元配置分散分析を行い,事後検定にScheffe法を用いております.
有意水準は 5%としております.
研究の結果
股関節伸展筋力値は,下垂位は 0.11±0.03kgf/kg,肩関節屈曲 120° 肢位は 0.12±0.04kgf/kg,肩関節伸展 30° 肢位は 0.13±0.04kgf/kg となっております.
肩関節伸展 30° 肢位は,下垂位と肩関節屈曲 120° 肢位と比して有意に高値となった(いずれも p=0.04).下垂位と屈曲 120° 肢位の間には有意差を認めておりません(p=0.10).
研究の結論
この研究の結果より,肩関節伸展 30° 肢位が他の肢位と比較して筋発揮が高くなり,上肢肢位の違いにより股関節伸展筋の筋発揮が異なることが明らかとなりました.
大殿筋は仙骨筋膜を介して対側の広背筋と連結しているとされており,対側の肩関節伸展にて広背筋が収縮したことにより大殿筋の筋発揮が向上した可能性が考えられます.
そのため,股関節だけでなく対側上肢の肢位を考慮することは,末期変形性股関節症患者に対する運動療法の一助になる可能性があります.
感想
変形性股関節症例の筋力トレーニングを考える上では,対側肩関節の肢位を考慮することが重要であることが明らかにされております.
理学療法士がより効果的なトレーニングを指導するためにも,こういったデータを活かして介入を行っていく必要がありますね.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から面白そうな研究をいくつかご紹介いたしました.
学会に参加される方は学会までに抄録をしっかり読み込んで参加したいですね.
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