第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介  大腿骨近位部骨折関連

大腿骨近位部骨折
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 第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介 

 大腿骨近位部骨折関連 

一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,昨年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.

令和元年10月4-6日に岡山県で第7回日本運動器理学療法士学会が開催されます.

今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から大腿骨近位部骨折関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.

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 大腿骨転子部骨折の術後症例における組織間の滑走性と 

 股関節外転筋力の関係 

 研究の背景・目的 

大腿骨近位部骨折は約8割が歩行・動作時痛を訴え,その中でも大腿外側痛は最も発生頻度の高い部位です(坂本2010,片岡2011).

我々は大腿外側痛の一因として組織間の滑走性が関与していると考え,流体画像解析の手法を応用し,組織間の滑走性の定量化する方法を開発しました.

更に,この評価方法を用いることで,荷重時痛が重度な症例において有意に滑走性が低下することや荷重時痛と滑走性の改善は相関することを報告しました(Kawanishi2019).

しかしながら,歩行動作において重要な要因である筋力と滑走性の関係についての検討は出来ておりません.

この研究では滑走性と筋力の関係性を調査・検討することとしております.

 

 

 

 

 

 

 研究の方法 

対象は大腿骨転子部骨折を受傷し,観血的骨接合術を施行した23例(男性4名・女性19名,平均年齢:85.9±5.2歳)となっております.

計測時期は回復期病棟へ転棟直後(以下初期)および退院時となっております.

計測項目は股関節外転および膝関節伸展筋力と組織間の滑走性評価としております.

筋力は,徒手筋力計モービィ(SAKAI med)を使用し,先行研究に準じて膝関節伸展は端坐位,股関節外転筋力は背臥位にて各々3回ずつ計測し,最大値を採用しております(加藤2001,山崎2008).

また,滑走性評価は超音波画像診断装置(Aplio500)と12MHzリニアプローブ(PLT1204ST)を使用し,計測肢位は股関節内外転中間位での側臥位で大腿外側中央に自作のプローブ固定装置を用いて長軸に固定しております.

運動課題は膝関節屈伸-10~100°の範囲を他動的に40bpmのリズムで反復し,その際の大腿外側部の動態を撮像しております.

撮像した動画に,流体画像解析ソフト(Flow PIV;ライブラリー社)を応用し,腸脛靭帯を含む皮下組織と外側広筋の流速を計測,両者の流速の時系列データより相関関係を滑走係数として求めております.

尚,滑走係数が高いほど各々の組織が連動して動き,滑走性が低下していると考えられます.

統計学的検討は.滑走係数と股関節外転筋力・膝関節伸展筋力の改善度(退院時‐初期)をSpearmanの順位相関係数を用いて検討しております.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結果 

組織間の滑走係数(r)は0.66±0.1→0.44±0.1,股関節外転筋力(Kg)は5.1±2.3→7.8±2.7,膝関節伸展筋力(Kg)は7.8±3.0→12.0±3.9でありました.

Spearmanの順位相関係数の結果,滑走係数と股関節外転筋力の間にはr=0.52と有意な相関関係を認めております.

一方で膝関節伸展筋力との間には有意差を認めております.

 

 

 

 

 

 

 研究の結論 

大腿骨転子部骨折の術後症例は股関節外転筋の筋力が他の筋に比して有意に低下することが報告されております(野田2016).

この研究結果から,股関節外転筋力の改善は滑走性の改善と相関が示されます.

つまり安定した歩行を獲得する上で重要な股関節外転筋力の改善には,同時に組織間の滑走性を考慮する必要があると考えられます.

 

 

 

 

 

 

 感想 

これまでこういった筋の滑走性を評価して多標本実験計画歩を用いた検討は,膝関節疾患や健常例を対象に行われることが多かったのですが,この研究では高齢者に多い大腿骨転子部骨折例における組織の滑走性と外転筋力との関連性を検討しており,非常に有益な研究だと思います.

筋力低下⇒筋力トレーニングといった短絡的なプログラム立案ではなく,なぜ筋力低下が起こっているのかを組織の滑走性も含めて考える必要があると考えらます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 大腿骨転子部骨折例の歩行能力に影響を与える要因 

 骨折型によって歩行能力に影響を与える要因は異なるか? 

 研究の目的 

大腿骨転子部骨折は術後も疼痛や筋力低下が残存しやすく,歩行獲得に難渋する症例が少なくありません.

大腿骨転子部骨折例の歩行能力に影響を与える要因が明らかとなれば,術後理学療法を行う上でも有益であると考えられますが,大腿骨転子部骨折に対象を限定して歩行能力に影響を与える要因を明らかにした報告は少ないのが現状です.

また大腿骨転子部骨折例における骨折型が疼痛・関節可動域・筋力・歩行能力といった運動機能に与える影響に関しても調査がなされており,安定型骨折例に比較して不安定型骨折例で術後運動機能が不良であることが過去に報告されております.

大腿骨転子部骨折は骨折型によって病態が大きく異なるため,骨折型によっても歩行能力に影響を与える要因が異なることが推測されます.

この研究では安定型骨折・不安定型骨折といった骨折型別に,歩行能力に影響を与える要因を明らかにすることを目的としております.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の方法 

対象は大腿骨転子部骨折の診断で当院へ入院となった連続120例のうち,除外基準(重度認知症例,受傷前歩行不能例,中枢神経障害合併例,術後4週以内の退院例,保存的加療例)に該当する25例を除く95例となっております.

95例を骨折型によって安定型群47例,不安定型群48例に分類しております.

調査項目は年齢,性別,受傷前における障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度,骨折型,術式としております.

また術後4週における疼痛(安静時・荷重時),関節可動域(術側股屈曲・伸展・外転,術側膝屈曲),筋力(術側・非術側股外転,術側・非術側膝伸展),杖歩行の可否(独力で10m以上連続歩行可能か否か)を評価しております.

骨折型別に,従属変数を杖歩行の可否,その他調査項目を独立変数として二項ロジスティック回帰分析を行い,杖歩行の可否に影響を与える要因を検討した.

さらに二項ロジスティック回帰分析で抽出された要因について,骨折型別に伺歩行の可否を決定するカットオフ値を算出しております.

統計学的解析にはSPSS Statistics ver21.0を使用し,有意水準は5%としております.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結果 

二項ロジスティック回帰分析の結果,安定型骨折例では杖歩行の可否に影響を与える要因として,受傷前における障害高齢者の日常生活自立度と術側膝関節伸展筋力が抽出されております.

不安定型骨折例では杖歩行の可否に影響を与える要因として,術側股関節外転筋力が抽出されております.

安定型骨折例における杖歩行獲得に必要な術側膝関節伸展筋力のカットオフ値は0.47Nm/kg(感度85.7%,特異度65.4%,AUC77.3%)でありました.

不安定型骨折例における杖歩行獲得に必要な術側股関節外転筋力のカットオフ値は0.45Nm/kg(感度80.0%,特異度89.5%,AUC91.6%)でありました.

 

 

 

 

 

 

 研究の結論 

骨折型によって歩行能力に影響を与える要因は異なり,大腿骨転子部骨折例が伺歩行を獲得するためには,安定型骨折例では術側膝伸展筋力の向上を,不安定型骨折例では術側股外転筋力の向上を図ることが重要であると考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 感想 

確かに大腿骨転子部骨折例の中でも安定型骨折と不安定型骨折では病態が全く異なります.

この研究では骨折型別に歩行能力に関連する要因を抽出したところに意味があると思います.

カットオフ値も算出されておりますので,臨床的にも参考にできる研究ではないかと思います.

 

 

 

 

 

 

 

 

 当院独自のカットアウト評価表使用による 

 当院理学療法士の意識・知識の変化 

 研究の背景・目的 

大腿骨転子部骨折におけるカットアウトの発生頻度は short femoral nail で 1.6~5.3%,sliding hip screw で 1~2.9%と報告されております.

この研究施設では 2016 年 4 月から 2017 年 2 月の大腿骨頸部・頸基部・転子部骨折患者 80 名の調査で 2 件(2.5%)となっております.

回復期病院では当院のように骨折患者の診察を外来非常勤医師へ依頼し,月 2 回または 4 回の診察で経過を追うことはしばしば見られます.

このような病院特性から理学療法士はカットアウトに関する知識を持ち,臨床所見から適切なタイミングで診察時に医師へ相談することが求められます.

この研究では,カットアウト予防として当院独自のカットアウト評価表(以下,評価表)を作成し,2017 年 4 月より大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折症例を担当した際に使用してきたことで理学療法士の意識・知識に変化について報告がなされております.

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の方法 

対象者は 2017 年 3 月,2019 年 3 月に在職している当院理学療法士 44 名と 48 名となっております.

アンケートにはカットアウトの知識や評価能力に関する 11 項目を用意し,設問は①画像所見の確認②画像所見時期③術前・術後・当院入院中の確認画像種類④Tip Apex Distance (以下,TAD)基準値の把握⑤TAD 計測の実施⑥テレスコーピングの理解⑦テレスコーピング計測の実施⑧骨折分類評価の実施⑨片脚立位時に大腿骨頭にかかる荷重量の理解⑩歩行補助具選定時の画像所見の参考⑪股関節画像評価時の評価項目数としております.

設問に対して対象者には 100 点満点中何点か主観評価で採点してもらい,採点目安として知識なし・未経験を 0 点,最低限の知識あり・数件で実施を 50 点,十分な知識あり・必ず実施を 100 点で表示しております.

②のみは 3 ヶ月以内を 0 点,1ヶ月以内を 50 点,3 日以内を 100 点としております.

2017 年 3 月と 2019 年 3 月でアンケート集計し,結果を Mann Whitney  U 検定を用いて分析しております.

評価表は初回アンケート実施の翌月より使用開始しております.

評価表は骨折分類,術式,骨粗鬆症評価,画像所見,受傷時からの経過,総合判断の項目において記入するようになっております.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結果 

全ての項目で増加を認めておりますがが,中でも④(TAD)基準値の把握,⑤ TAD 計測の実施,⑥テレスコーピングの理解,⑦テレスコーピング計測の実施,⑧骨折分類評価の実施,⑪股関節画像評価時の評価項目数で有意差を認めております(p<0.01).

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結論 

評価表は骨折分類や各計測方法を正確に評価できるよう図で示し,基準値も記載されているためデザインの影響も大きいが知識に変化が生じたものと考えられます.

また計測の実施は評価表に誘導されて半数以上の理学療法士が評価できるようになっております.

ただし今回は主観評価であるため,計測の実施状況や信頼性までは集計できていない点が大きな限界であります.

理学療法士の意識や知識の向上により臨床においてカットアウト症例数に変化が出るかは再度調査が必要である.

 

 

 

 

 

 

 

 

 感想 

急性期に勤務する理学療法士は整形外科医とも密に連携がとれ,カットアウトやスライディングに関して評価を行いながら荷重歩行を進められることが多いと思いますが,回復期リハビリテーション病院ではこういった合併症に関して軽視されがちですので,所属理学療法士のカットアウトに関する意識を向上させるといった意味でも今回の検討はとても意義があると思います.

 

今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から面白そうな研究をいくつかご紹介いたしました.

学会に参加される方は学会までに抄録をしっかり読み込んで参加したいですね.

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