第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介  人工膝関節全置換術関連

人工膝関節全置換術
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目次

 第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介 

 人工膝関節全置換術関連 

一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,昨年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.

令和元年10月4-6日に岡山県で第7回日本運動器理学療法士学会が開催されます.

今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から人工膝関節全置換術関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人工膝関節全置換術後3ヶ月時の歩行時痛に影響する要因の検討 

 

 研究の背景・目的 

人工膝関節全置換術(TKA)は,変形性膝関節症(OA)に対して安定した成績が得られております.

一方,TKA後の術後遷延痛は約15%存在することも報告されております(Hofmannら,2011).

確かに臨床においては歩行時痛が持続する症例をしばしば経験するが,TKA後の歩行時痛に関連する要因については明らかにされておりません.

この目的は術後3ヶ月時の歩行時痛に影響する因子を追究することとなっております.

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の方法 

対象はOAに対するTKA症例50例(年齢73.4±6.2歳,女性37例,男性13例)としました.

これらに対し,退院時および術後3ヶ月時の歩行時痛(VAS),関節可動域(術側膝屈曲角・伸展角,非術側膝伸展角),KOOS下位項目(症状,疼痛,ADL,スポーツ,QOL)を評価しております.

疼痛は国際疼痛学会が定める術後遷延痛の定義(術後3ヶ月以上持続かつNRS3以上)を参考に術後3ヶ月時のVASを30以上(遷延群)と30以下(改善群)に分類しております.

後療法は翌日より理学療法開始,約3週間で退院とするクリニカルパスに準じております.

退院後に外来での理学療法は行われておりません.

統計解析は,従属変数を退院後3ヶ月時の疼痛(遷延群と改善群),独立変数を年齢および退院時の評価項目とし,ステップワイズ法(AIC基準)による多重ロジスティック回帰分析を適用しております.

有意水準は5%としております.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結果 

対象の50例中改善群41例,遷延群9例であり,遷延群は全体の約18%でありました.

疼痛はVASで改善群5.6±8.3mm,遷延群44.7±12.3mmであった.多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時の術側膝伸展角(オッズ比[OR]:1.39,95%CI:0.52-0.98),退院時のKOOS ADL(オッズ比[OR]:1.25,95%CI:0.68-0.94)が選択されております.

膝伸展角は改善群-0.9±2.6°,遷延群-3.3±4.3°でありました.

KOOS ADLは改善群86.0±9.7,遷延群74.5±9.5でありました.

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結論 

本研究の対象では歩行時痛の遷延は全体の約18%と過去の報告と同程度でありました.

術側膝伸展角は歩行時における外部膝関節屈曲モーメントの増加を引き起こし,軟部組織へのメカニカルストレスが増大するため疼痛の遷延に繋がった可能性があると考えられます.

KOOS ADLはADLの幅広い側面を評価しております.

特に家事動作や買い物など歩行を要する項目も多く,歩行時痛に影響したと考えられます.

入院中の理学療法では膝伸展角を改善し,ADLの困難感を軽減させることが重要であります.

この限界としては疼痛の局在が不明確であること,心理・思考面が考慮されていないこと,退院後の活動量が評価されていないことが挙げられます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 感想 

確かに人工膝関節全置換術後に疼痛が遷延する症例って経験しますよね.

今回の結果からすれば歩行時のlagの改善による膝関節伸展モーメントの軽減と,活動量のコントロールが必要ということですね.

 

 

 

 

 

 

 

 人工膝関節全置換術後早期からの視覚および聴覚feedbackを 

 用いた大腿四頭筋の筋収縮運動の長期効果の検討 

 

 研究の目的 

通常の人工膝関節全置換術(以下,TKA)後のリハビリテーション(以下,リハ)に加えて視覚および聴覚feedbackを用いた大腿四頭筋の等尺性筋収縮運動(以下,FB Quad Ex)を実施すると,痛みや運動機能が術後早期に改善することが無作為化比較試験にて明らかにされております.

一方,TKAは術後遷延性疼痛の発生率が高い外科的治療の一つであり,そのリスク因子の一つとして術後急性期における強い痛みが指摘されております.

つまり,前述の知見に基づくと,TKA術後早期からFB Quad Exを実施すると術後遷延性疼痛の発生を予防でき,運動機能にも好影響をおよぼすのではないかと推察されますが,この点については検討されておりません.

この研究では,術後1年経過した時点でフォローアップが可能であった対象者の痛みや運動機能について調査し,FB Quad Exの長期効果について検討することを目的としております.

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の方法 

対象は,TKA術後1年が経過して整形外科外来受診時に痛みや運動機能の評価が実施可能であった54名とし,その内訳はTKA術後に通常の術後リハを実施した対照群26名と,通常の術後リハに加えて術後2日目から14日目まで,FB Quad Exを実施した運動群28名としております.

FB Quad Exは,筋収縮運動時に最大筋力の60~70%を発揮することを目標として設定し,訓練機能付下肢筋力測定器(アルケア株式会社製)を用いて,10~20回の運動を1~2セット/日の頻度で実施しております.

評価項目は,痛み(VAS),膝関節屈曲可動域,等尺性膝伸展筋力,TUG,10m歩行時間,6分間歩行距離,WOMACの日常生活困難度としております.

また,国際標準化身体活動質問票(IPAQ)short versionを用いて,身体活動量を評価しております.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結果 

痛みについては,運動群は対照群と比べて有意に改善しており,しかも,痛みが消失していたのは対照群では11名(42.3%)であったのに対し,運動群は22名(78.6%)で対照群と比べて有意に多い結果でありました.

また,TUGと6分間歩行距離についても,運動群は対照群と比べて有意に改善していておりました.

さらに,IPAQにおける1週間の歩行時間についても,運動群は対照群より有意に高値を示しております.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究の結論 

今回の結果から,TKA術後早期に視覚および聴覚feedbackを用いた筋収縮運動を行うと,遷延性術後疼痛の発生が予防され,運動耐容能ならびに身体活動性の向上に有用であることが示唆されております.

これには運動時に設定された目標を継続的に達成するといった成功体験によって運動アドヒアランスが向上したことなどが影響しているのではないかと考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感想 

人工膝関節全置換術例を対象に大腿四頭筋のエクササイズを行う機会は少なくありませんが,こういった単純に行える視覚的・聴覚的フィードバックが筋力改善のみならず,疼痛や身体活動量の改善にまで有効というのは非常に驚きの結果ですね.

こういった結果から見ても筋出力を向上させることばかりでなく,知覚・感覚入力を行いながらトレーニングを行うことが重要であることが示唆されますね.

 

 

今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から面白そうな研究をいくつかご紹介いたしました.

学会に参加される方は学会までに抄録をしっかり読み込んで参加したいですね.

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