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アイシングが弊害になることも…
アイシングは,本邦でも外傷やスポーツ後等に行うのが一般的となっております.
理学療法士もまた物理療法の授業の中で,寒冷療法の1つであるアイシングに関してその効能や禁忌等について学習することが多いと思います.
しかしながら,最近ではこのアイシングが本当に意味があるのかといった議論が増えてきております.
今回は,寒冷療法の1つであるアイシングのメリット・デメリットについて,理学療法士の視点で考えてみたいと思います.
RICE処置とは
アイシングといえば,必ず出てくるのがこのRICE処置という言葉です.
以前から怪我をしたスポーツ選手や,術後の急性期にRICE処置を行うのが一般的です.
RICE処置とはRest・Ice・Compression・Elevationの頭文字をとってRICEと呼びます.
Restは安静を意味し,全身・局所の血液循環を抑制します.
Iceは冷却を意味し,局所の熱感を軽減させます.
Compressionは圧迫を意味し,内出血が広がらないように抑制します.
Elevationは挙上を意味し,物理的に患部を高い位置に起き、血流を抑制します.
端的に言えば,過剰な炎症を抑える目的で,RICE処置は行われるわけです.
炎症とは
アイシングの1つは炎症を軽減させることですが,そもそも炎症というのは何でしょうか?
理学療法士・作業療法士であれば,炎症の5徴候(発赤・熱感・腫脹・疼痛・機能障害)については養成校時代に勉強されたかと思います.
炎症は上記のような徴候の総称ですが,組織を修復するために患部への血流を増加させて組織を治癒させようといった反応です.
しかしながら炎症は悪と捉えている理学療法士・作業療法士が多いのも実際だと思います.
組織の修復課程では,炎症は必須であり,炎症は身体にとって悪いものではないわけです.
アイシングのデメリット
アイシングを用いて炎症を鎮静化させることは一見有益に思えるかもしれませんが,実はデメリットもあります.
アイシングをはじめとする寒冷療法は局所血流を停滞させ,さらに神経や靭帯や筋にダメージを与えることとなります.
さらには近年の方向ではスポーツ選手においては一時的にパフォーマンスを低下させることも報告されております.
通常の炎症過程では,マクロファージからIGF-1(Insulin-like Growth Factor)が放出されて、血液を通りダメージを受けた細胞に送られます.
IGF-1(Insulin-like Growth Factor)は靭帯や筋の修復に必要な物質で,早期の組織治癒には血流増加が必須となります.
アイシングを行うことで,血流が減少すると組織治癒を阻害してしまい,慢性的な疼痛の原因にもなりかねません.
またアイシングによって血管が収縮することにより,血管が再び拡張するのに数時間かかるとも言われていますので,組織治癒の遅延の原因となります.
靭帯はもともと血流量が少ない組織ですので,アイシングにより血流が阻害されると,靭帯の回復だけでなく靭帯の役割である強度を低下させることにもなりかねません.
そのため特に靭帯損傷の場合には,長期的なアイシングは控えた方が良いと考えられるようになってきており増す。があったからといって、むやみにアイシングを行うのはやめたほうがいいですね!
アイシングのメリット
ここまでアイシングのデメリットを取り上げましたが,もちろんメリットもたくさんあります.
まず理学療法士にとって大きいのは,疼痛閾値を上昇させ疼痛を軽減させるといった点です.
これは運動療法前後に行う大きな目的となります.
上述したように組織の回復課程を考えると,炎症反応を抑制することは抑えることはあまり好ましいとはいえませんが,疼痛の閾値を上げることで早急の復帰が可能となるかもしれません.
実際にはどうしたらよいのか?
急性期においては最低限のアイシングは必要だと思います.
私が重要だと考えているのは,アイシングの適切な時間です.
運動前後で短時間を頻回に行うことが重要だと思います.
少なくとも20分以上のアイシングは神経や組織の損傷を伴う可能性があるので避けるべきです.
またアイシング中に患部外の運動を合わせて行うと,組織の血流低下を軽減することができます.
今回は,寒冷療法の1つであるアイシングのメリット・デメリットについて,理学療法士の視点で考えてみました.
疼痛緩和に有効なアイシングですが,使用方法を間違えると組織修復を阻害することになります.
炎症の程度を経時的に評価した上で,適切に使用したいですね.
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