膝関節痛の原因として非常に多い膝蓋下脂肪体をひも解く

人工膝関節全置換術
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 膝関節痛の原因として非常に多い膝蓋下脂肪体をひも解く 

超音波エコーによる研究の発展により,最近は膝関節屈伸運動における膝蓋下脂肪体や膝蓋上嚢といった組織の重要性が多くの報告で明らかにされております.

ただこれらの組織の動態というのはまだまだよくわかっていないことが多いのも事実です.

今回は理学療法士の視点で膝蓋下脂肪体について考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 

 膝蓋下脂肪体って何? 

膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の下方に貯留している組織で,膝蓋大腿関節(膝蓋骨と大腿骨の間)の滑走性を向上させ,クッションとしての役割を果たします.

膝蓋下脂肪体に障害が引き起こされる原因としては,膝関節の変形や下肢のアライメント変化などが挙げられます.

具体的には,内反変形(O脚)や下腿外旋症候群(脛骨の過外旋),膝蓋骨周囲組織の拘縮などが膝蓋下脂肪体の滑走性や柔軟性を低下させる要因となります.

内反変形や下腿外旋が高度になると,膝関節外側のスペースが減少し,膝蓋下脂肪体が内側スペースにおいつめられ,膝蓋下脂肪体の滑りを阻害する原因となります。

 

 

 

 

 

 膝蓋下脂肪体が膝痛の原因かを確認する 

膝関節の痛みは内側に発生することが非常に多いです.

これは脛骨大腿関節内側コンパートメント由来の疼痛だと考えがちですが,膝蓋下脂肪体が内側に偏移し,硬化したことにより疼痛が出現している場合もあります.

膝蓋下脂肪体が膝痛の原因になっているか否かを評価する為には,まずは圧痛を確認します.

膝蓋下脂肪体は膝関節屈曲位では,膝蓋骨の裏に流れ込んでしまうため,圧痛を確認しようとしても組織をしっかりと圧迫することができません.

膝蓋下脂肪体の疼痛を評価する際には,かならず膝関節を伸展位に保持しておくことが重要です.

膝関節伸展位で圧痛を認めた場合には,膝蓋下脂肪体が疼痛の原因になっている場合が多いです.

膝関節屈曲位で圧痛を認める場合には,膝蓋下脂肪体ではなく膝蓋腱・膝蓋支帯・膝蓋下渭液包に起因した症状であることに留意する必要があります.

 

 

 

 

 

 

 

 なぜ膝蓋下脂肪体が疼痛を引き起こしやすいのか? 

一番の理由は侵害受容器の密度です.

膝蓋下脂肪体は侵害受容器の密度が高いことが知られております.

膝関節周辺の軟部組織において,疼痛を感知するポイントとしては,①骨膜,②筋膜,③渭膜関節包,④線維性関節包,⑤腱,⑥骨が挙げられます.

骨膜性疼痛は,骨挫傷や骨折によって発生することが多く,筋膜性疼痛は筋肉に過負荷や損傷が生じた際に発生することが多いです.

滑膜性疼痛は,関節包や線維性関節包などの関節内の炎症が波及することで発生します.

変形性膝関節症(OA)における疼痛の原因として多いのがこの滑膜性疼痛です.

腱性疼痛の代表的なものとしては膝蓋腱炎や葦足炎などの付着部炎が挙げられます.

このように疼痛の原因はさまざまですが,膝関節内における侵害受容器の分布は,滑膜組織や膝蓋下脂肪体に数多く分布することが知られております.

そのため膝蓋下脂肪体は侵害刺激に対する感受性が非常に高く,疼痛の原因になりやすいわけです.

膝OAでは,膝蓋下脂肪体が変性していることが多く,膝蓋下脂肪体由来の疼痛を合併することが多いといった特徴があります.

また近年,半月板損傷に対する切除術・縫合術,膝靱帯再建術で用いられる関節鏡視下手術では,膝蓋下脂肪体を貫通して進入することとなりますので,膝蓋下脂肪体周辺に癒着や癩痕化が生じやすいといった特徴があります.

一方で関節軟骨,半月板内縁部,前十字靱帯損傷(ACL)および後十字靭帯(PCL)中央部には痛覚神経が存在しません.

したがってこれらの組織に損傷が生じても,基本的に疼痛が発生することはないわけです.

半月板損傷によって生じる疼痛の多くは,半月板外縁部や隣接する渭膜由来のものと考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

 膝蓋下脂肪体の疼痛を軽減するための理学療法アプローチ 

膝蓋下脂肪体が原因の膝痛を改善する為には,①膝蓋下脂肪体の柔軟性を向上すること,②膝蓋下脂肪体が自由に動けるスペースを確保することが重要です.

 

 

 

 

 

 

 膝蓋下脂肪体の柔軟性を向上させる理学療法アプローチ 

まずは膝蓋下脂肪体の柔軟性を向上させるためには,単純に膝蓋下脂肪体にダイレクトにアプローチします.

しかしながら膝蓋骨の裏に入り込んでいる組織に関しては,指先で圧を加えることが難しいため,ダイレクトなアプローチだけでは十分な効果が期待できません.

深部の組織の柔軟性を向上させるためには,超音波治療器の使用が勧められます.

 

 

 

 

 

 

 膝蓋下脂肪体が自由に動けるスペースを確保するためのアプローチ 

膝蓋骨の動きを阻害する因子として,膝蓋下脂肪体そのものの柔軟性が低下する以外にも,膝関節の変形や下肢アライメントの崩れ,周囲組織の拘縮などが挙げられます.

内反変形や下腿外旋を徒手的に矯正することは難しいので,膝関節周囲組織に対してアプローチすることが重要です.

特に膝蓋骨周囲組織の柔軟性に着目し,膝蓋上嚢・内外側の膝蓋支帯に対するアプローチを行うことが重要です.

膝蓋上嚢は中間広筋の深層線維が分岐した膝関節筋が付着しておりますので,中間広筋をつまみ上げるようにしながら動きを引き出し,その後にパテラセッティングを行うことで滑走性を改善させることができます.

また内外側の膝蓋支帯は内側広筋・外側広筋との連結を持ちますので,内側広筋・外側広筋を収縮させることで内外側の膝蓋支帯の滑走性を向上させることが重要となります.

 

 

 

今回は理学療法士の視点で膝蓋下脂肪体について考えてみました.

臨床上も膝蓋下脂肪体にアプローチすることで膝痛に改善が得られることはまれではありません.

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