目次
人工膝関節全置換術におけるターニケット(駆血帯)の使用は
術後疼痛を増強し機能回復を遅延させる
人工膝関節全置換術の手術件数は年々増加しており,ここ最近は全国で毎年8万人を超える方が人工膝関節全置換術を施行されている状況です.
人工膝関節全置換術では術中および術後の出血量を減らすため,膝関節をはさむようにして大腿部・下腿部に駆血帯(ターニケット)を捲き,300mmHg以上の圧力で駆血をします.
この駆血は術後も疼痛や循環不全の原因になります.
今回は,人工膝関節全置換術におけるターニケット(駆血帯)の使用は術後疼痛を増強し機能回復を遅延させるといった論文をご紹介させていただきます.
紹介する論文
Knee Surg Sports TraumatolArthrosc. 2019 Jul 8. doi: 10.1007/s00167-019-05617-w. [Epub ahead of print]
More pain and slower functional recovery when a tourniquet is used during total knee arthroplasty.
Liu Y, Si H, Zeng Y, Li M, Xie H, Shen B.
今回ご紹介いたします論文は2019年に掲載された新しい論文です.
研究の目的
Although a tourniquet can effectively control intraoperative blood loss and offer clear surgical field in total knee arthroplasty (TKA), its optimal usage has been controversial. The aim of this research was to perform a systematic review and meta-analysis to compare and explore the best application of a tourniquet in TKA.
駆血帯(ターニケット)の使用は術中の出血量を減少させ,良好な術野を確保するために非常に有用ですが,このターニケット8駆血帯)の使用に関しては様々な議論があります.
この研究では人工膝関節全置換術におけるターニケット(駆血帯)の使用方法に関してシステマティックレビューおよびメタアナリシスを用いて検討しております.
研究の方法
MEDLINE, PubMed, EMBASE, the Cochrane Library, Wanfang database, and Web of Science were searched for randomized controlled trials (RCTs) comparing the four different strategies of tourniquet application in TKA. In Group I, a tourniquet was not used and was called the non-tourniquet (NT) group. In Group II, a tourniquet was only used during the cementation of implants and was called the specific duration tourniquet (SDT) group. In Group III, the tourniquet was only released before wound closure to control the bleeding sources and was called the majority duration tourniquet (MDT) group. In Group IV, a tourniquet was used throughout the procedure, from skin incision to wound closure and was called the whole duration tourniquet (WDT) group.
システマティックレビューおよびメタアナリシスにあたっては,MEDLINE, PubMed, EMBASE, the Cochrane Library, Wanfang database,Web of Scienceが用いられております.
このデータベースから人工膝関節全置換術における駆血帯(ターニケット)の使用に関する無作為化比較試験を抽出しております.
グループ1は駆血帯(ターニケット)を使用しない群,グループ2はインプラントをセメント固定する際のみにターニケット(駆血帯)を使用した群,グループ3は創閉鎖前にターニケットを開放する群,グループ4は皮切から閉創までの間,ターニケット(駆血帯)を使用する群としております.
結果
Forty-six RCTs were included in this systematic review and meta-analysis. In a comparison between the NT and WDT groups (25 RCTs), intraoperative blood loss (IBL) (P = 0.0001) and range of motion (ROM) (P = 0.0001) were significantly increased in the NT group, while the visual analog score (VAS) (P = 0.0001), rate of deep vein thrombosis (DVT) (P = 0.01), and all complications (AC) (P = 0.0001) were significantly decreased in the NT group. In a comparison between the SDT and WDT groups (10 RCTs), IBL (P = 0.0001), TBL (P = 0.009), and ROM (P = 0.0001) were significantly increased in the SDT group, while thigh pain (P = 0.04) and the rate of DVT (P = 0.03) were significantly decreased in the SDT group. There were no significant differences between the MDT and WDT groups (12 RCTs) except for the rate of all complications (P = 0.01).
システマティックレビューおよびメタアナリシスの対象論文として46編の無作為化比較試験を抽出しております.
ターニケット(駆血帯)非使用の群と術中常時ターニケット(駆血帯)を使用した群との比較では,術中出血量はターニケット(駆血帯)非使用群で有意に多く,関節可動域についてはターニケット(駆血帯)非使用群で有意に良好でありました.
一方で疼痛や深部静脈血栓症の割合,その他の合併症は有意にターニケット(駆血帯)非使用群で少ないといった結果でありました.
グループ2(インプラントをセメント固定する際のみにターニケット(駆血帯)を使用した群)と術中ターニケット(駆血帯)を常時使用する群の比較では,術中の出血量,総出血量がグループ2で有意に多く,関節可動域もグループ2で良好でありました.
一方でグループ2(インプラントをセメント固定する際のみにターニケット(駆血帯)を使用した群)で有意に術後の疼痛が少なく,深部静脈血栓症の割合も少ない結果でありました.
グループ3(創閉鎖前にターニケットを開放する群)については術中ターニケットを常時使用する群と比較して,全ての合併症の発生率が低いものの,その他のアウトカムには有意差はみられておりません.
結論
Despite the decrease in IBL with a tourniquet, no difference was found in TBL. In conclusion, not using a tourniquet or only using it during the cementation of implants was preferable based on the faster functional recovery, lower rate of DVTs and complications compared with using a tourniquet throughout the TKA procedure.
ターニケット(駆血帯)の使用によって術中の出血量は少なくなるものの,総出血量には有意差は無いことが明らかになりました.
結論として,ターニケット(駆血帯)を使用しないまたはインプラントのセメント固定時のみ使用するといった方法が術後の機能回復を良好にし,かつ深部静脈血栓症やその他の合併症を発生させないことにつながることが明らかになりました.
今回は,人工膝関節全置換術におけるターニケット(駆血帯)の使用は術後疼痛を増強し機能回復を遅延させるといった論文ご紹介させていただきました.
駆血帯(ターニケット)の使用方法によっても術後機能や合併症の程度が変わりますので,人工膝関節全置換術後の理学療法を行う上では駆血帯(ターニケット)の使用方法についても確認しておく必要がありそうですね.
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