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THAは股関節痛のみならず尿失禁をも改善する?
最近のTHAの1つのトピックスになっているのがTHAと尿失禁との関連性です.
まだあまり知らない理学療法士・作業療法士の方も多いと思いますが,THAの対象となる方が女性の中高齢者が多いことを考えると,知識としては必ずおさえておきたいところです.
今回はTHAが股関節痛のみならず尿失禁をも改善する可能性があるといった論文を紹介させていただきます.
紹介する論文
Int Urogynecol J. 2017 Apr;28(4):561-568. doi: 10.1007/s00192-016-3138-x. Epub 2016 Sep 16.
Prospective analyses of female urinary incontinence symptoms following total hip arthroplasty.
Okumura K, Yamaguchi K, Tamaki T, Oinuma K, Tomoe H, Akita K.
今回ご紹介いたします論文はTHAを行った日本人女性を対象に前向きに行われた調査です.
研究背景と仮説
Some patients with hip osteoarthritis report that urinary incontinence (UI) is improved following total hip arthroplasty (THA). However, the type and severity of UI remain unclear. In this study, we hypothesize that both stress urinary incontinence (SUI) and urge urinary incontinence (UUI) are improved after THA. We assess the characteristics of UI and discuss the anatomical factors related to UI and THA for improved treatment outcome.
臨床上も尿失禁を合併した変形性股関節症例が,THAを行うと尿失禁が改善するといった経験をすることは少なくありません.
しかしながら現在のところどのような尿失禁の重症度やタイプの方に改善が得られるのかは明らかにされておりません.
尿失禁の分類については以前の記事でもご紹介させていただきましたが,尿失禁にはいくつかのタイプがあります
ちなみにstress UIというのは腹圧性尿失禁のことで,urge UIというのは切迫性尿失禁のことです.
この研究では,THA後に腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁がに改善が得られるといった仮説の下で行われております.
この研究では尿失禁の特性を評価し,尿失禁とTHAに関連する解剖学的要因について議論がなされております.
研究の方法
Fifty patients with UI who underwent direct anterior-approach THA were evaluated. Type of UI was assessed using four questionnaires: Core Lower Urinary Tract Symptom Score (CLSS), Urogenital Distress Inventory Short Form (UDI-6), International Prostate Symptom Score (IPSS), and Overactive Bladder Symptom Score (OABSS). Uroflowmetry and postvoid residual urine were measured using ultrasound technology. Hip-joint function was evaluated using Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC) and range of motion (ROM).
前方アプローチ(DAA)でTHAを施行した50例の尿失禁を合併した症例を対象としております.
尿失禁のタイプについてはCore Lower Urinary Tract Symptom Score (CLSS),Urogenital Distress Inventory Short Form (UDI-6),International Prostate Symptom Score (IPSS), Overactive Bladder Symptom Score (OABSS)といった4つの評価を用いて行われております.
また超音波エコーを用いて尿流速計と残尿測定を行っております.
股関節機能の評価にはWOMACと可動域を使用しております.
結果
Of the 50 patients, 21 had SUI, 16 had mixed urinary incontinence (MUI), and eight had urgency urinary incontinence (UUI). In total, 36 patients were better than improved (72 %). The rate of cured and improved was 76 % for SUI, 100 % MUI, and 50 % UUI. The improvement of ROM was more significant in cured or improved patients than in stable or worse patients.
この研究では50例中21例が腹圧性尿失禁を,50例中16例は混合性尿失禁を,50例中8例は切迫性尿失禁を合併していたと報告されており,全体の72%にあたる36例で尿失禁に改善が得られております.
腹圧性尿失禁の改善率は76%,混合性尿失禁の改善率が100%,切迫性尿失禁の改善率が50%となっております.
また当然ながら大部分の症例でTHA後にROMが改善した症例が改善しなかった症例よりも優位に多いことが明らかにされております.
結論
Improvement in mild UI may be an added benefit for those undergoing THA for hip-joint disorders. These data suggest that for patients with hip-joint disorder, hip-joint treatment could prove to also be a useful treatment for UI.
軽度の尿失禁を有する変形性股関節症例においてはTHAは股関節機能の改善のみならず尿失禁の改善にも有効だと考えられます.
おわりに
股関節機能が改善すれば尿失禁が改善するということを示唆させる結果です.
股関節内転筋群は骨盤底筋群との連結を有しておりますので,このあたりが尿失禁改善の機序でしょうか?
またTHAによって股関節外旋拘縮や脚長にも改善が得られ,内閉鎖筋の筋張力が大きくなることで肛門挙筋の機能も連鎖的に向上し,尿失禁症状にも改善が得られるものと考えられます.
またポイントは術式が前方アプローチであるということです.
日本でも最近THAと尿失禁に関連する報告はかなり増えてきておりますので,理学療法士も介入のための1つの視点として知っておきたい内容だと思います.
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