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股関節屈曲時の鼠径部の痛みの原因を考える
大腿骨近位部骨折,変形性股関節症,人工股関節全置換術,FAIといった股関節周囲の疾病ならびに術後のクライアントに生じる問題として多いのが股関節屈曲時の鼠径部の疼痛です.
股関節屈曲可動域は立ち上がり動作,靴や靴下の着脱動作などとも関連するため,股関節屈曲可動域拡大を目的として理学療法士が介入する機会は少なくありません.
今回は股関節屈曲時の鼠径部の痛みの原因について考えてみたいと思います.
解剖学的な股関節屈曲運動
股関節屈曲運動は大腿骨頭と寛骨臼月状面との間の軸回旋として起こる運動です.
寛骨に対し大腿骨を矢状面のみの動きで屈曲させると,屈曲90°で寛骨臼蓋縁と大腿骨頚部にインピンジメントが発生します.
股関節屈曲運動時の前方のインピンジメントを回避するためには関節が適合したうえで,大腿骨を外転・外旋させる必要があります.
また股関節屈曲運動は,骨盤に対する大腿骨の動きと骨盤後方傾斜の2つの運動から構成される複合的な運動ですので,骨盤の後傾が制限された状態では,広義の股関節屈曲可動域が制限されてしまう可能性があります.
したがって股関節屈曲時の鼠径部の疼痛を回避するためには骨盤の後傾運動が重要となります.
股関節屈曲運動時のインピンジメントの原因を考える
理学擦法士が股関節屈曲運動時のインピンジメントの原因を考える上では,股関節屈曲運動時に生じているインピンジメントが構造的要因なのか機能的要因なのかを見極めることが重要となります.
股関節屈曲運動時に生じるインピンジメントの原因は大きく分類すると構造的要因と機能的要因に分類できます.
構造的要因として代表的な病態がFAIです.
FAIは骨形態によってcam typeとpincer typeに分類されますが,いずれにしても骨盤・大腿骨の形態異常によって寛骨臼縁と大腿骨頭頚部移行部とがインピンジメントを起こします.
機能的要因としては関節不安定性(深層筋群の機能低下),可動性が重要です.
不安定性
関節不安定性が起こる原因として,変形性股関節症のような構造的要因が背景に存在するケースもありますが,構造的には正常に近いにもかかわらず関節不安定性が生じる場合があります.
股関節を安定させるためには骨頭を寛骨臼へ押し付ける求心方向への筋活動が特に必要になります.
中殿筋は筋線維の走行によって,前部・中部・後部に分けられますが,後部線維は大腿骨頚部と平行に走行しておりますので,股関節の安定性に寄与しています.
また腸腰筋や深層外旋六筋もまた関節を安定させる筋として非常に重要です.
これらの元来,股関節を安定させる筋群に機能低下が生じ安定化機構が破綻すると,二関節筋が過剰収縮する場合があります.
股関節屈曲時に二関節筋が過剰に収縮すると,二関節筋の起始部の挟み込みによる前方インピンジメントが生じます.
可動性低下
さらに股関節外転・外旋方向の可動性の低下によってもインピンジメントが生じます.
股関節屈曲時に内転・内旋運動を伴う場合や,腰椎屈曲可動域制限に伴って骨盤後傾方向への可動性が低下する場合に前方インピンジメントが出現します.
今回は股関節屈曲時の鼠径部の痛みの原因について考えてみました.
股関節屈曲運動時のインピンジメントの原因はさまざまですのでインピンジメントを引き起こしている原因を考えた上で手異所することが重要となります.
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