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人工関節置換術後の包括的評価
理学療法士・作業療法士はクライアントの身体機能やADLをリハビリテーションの視点で評価することが多いわけですが,人工関節術後には関節可動域や筋力といった身体機能の個別要素に加え,クライアントを包括的に評価する尺度というのが用いられることが多いです.
最近はこの人工関節置換術後の包括的評価にも変化が見られてきております.
今回は人工関節置換術後の包括的評価について考えてみたいと思います.
人工関節置換術後における包括的評価の変遷
これまで人工関節置換術後の評価は医療者立脚型尺度が主流でありました.
例えば関節可動域とか日本整形外科学会が作成しているJOAなんかは医療者立脚型評価の代表的なものです.
近年,患者立脚型尺度による健康関連QOLの評価が盛んに進められております.
例えば風邪症状1つをとっても医療者視点でのアウトカムとしては咽頭の細菌培養による細菌が消失までの時間というのが挙げられますが,クライアントにとってはそんなことはどうでもよいわけです.
クライアントにとっては感冒症状がおさまるまでの時間であったり,復職できるまでの期間の方が重要なわけです.
変形性膝関節症で考えても同様です.
われわれ理学療法士・作業療法士をはじめとする医療者は,関節がどれだけ変形しているかとか関節可動域がどれだけ制限されているかといった要因に着目しがちですが,クライアントにとってはこんなことはどうでもよかったりします.
疼痛が消失したり,日常生活動作が円滑に行えるといったことの方が重要なわけです.
こういった観点から最近は患者立脚型の評価が用いられることが多くなってきているわけです.
人工関節置換術後に特化した患者立脚型評価としても術後の痛み,日常生活動作および日常生活関連動作,メンタルヘルス,手術した関節への意識の程度の高い身体活動など,クライアントの視点で多岐にわたる項目を評価している評価法が多いです.
患者立脚型評価を使用する際の注意点
患者立脚型評価は自記式の質問票であり,その多くは数分で記入が可能です.
しかしながら,クライアントの生活様式や理解力によって.解釈の相違を生じる可能性があります.
またいくつかの患者立脚型評価において天井効果(質問項目が簡単すぎるために大勢が満点に達してしまう)も指摘されております.
人工関節置換術後の代表的な患者立脚型評価
変形性関節症およびその術後
人工関節置換術後患者の健康関連QOLの評価においてよく用いられている患者立脚型評価としては,Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)が挙げられます.
WOMACは痛み・こわばり・日常生活動作について評価する尺度であり,わが国では,こわばりを除いた.準WOMACも存在します
人工膝関節置換術後慰者は階段昇降,人工股関節置換術後患者は靴下の着脱に困難感を訴えることが多いです.
WOMACにおいては,術後6カ月以降は天井効果を示すことが指摘されております.
その他にはわが国の日常生活様式に合わせて作成された,変形性膝関節症患者に対する日本版膝関節症機能評価尺度(Japanese Knee Osteoarthritis Measure:JKOM)や,股関節の状態および痛み,動作,メンタルの因子から構成される日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Hip Disease Evaluation Questionnaire:JHEQ)などがあります.
最近の学会においての使用頻度を見ても以前から使用されてきたJOAが使用されることはかなり少なくなっており,JKOMやJHEQの使用頻度が高くなってきております.
手術した関節に対する意識の程度
最近ではJKOMやJHEQといった患者立脚型評価に加えて,関節に対する意識の程度を評価することも多くなってきております.
人工関節置換術後には,日常生活において手術した関節を意識しなくなる(forgotten joint)ことが最終目標となるわけです.
12項目のForgotten Joint Score(FJS)が開発されておりますが,その原作を翻訳し,再現性および妥当性が確認された日本語版FJSもあります.
患者立脚型評価をどう活用するのか?
患者立脚型評価を用いて治療効果を検討する場合には,クライアントが感じる有効性の指標である臨床的に重要とされる最小の変化量(Minimally Clinically Important Difference Change:MCID・MCID)を参考にするとよいでしょう.
術後3か月におけるWOMACのMCIDは10点と報告されております.
人工関節置換術例のクライアントが良くなっているのかどうかを判断する上では,患者立脚型評価のMCIDを把握しておく必要があります.
患者立脚型評価に改善が得られていたとしてもMCIDを下回る変化であれば,それは誤差にすぎないとみなされることになります.
今回は人工関節置換術後の包括的評価について考えてみました.
人工関節置換術例に対する包括的評価も以前に比較すると新しいものが多く報告されるようになってきております.
われわれ理学療法士もさまざまな各患者立脚型評価を知った上で,クライアントの視点に立った評価を行えるように努める必要があるでしょう.
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