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理学療法士なら知っておきたい対角線パターンの組み合わせの不思議
今回もPNFに関してです.
前回はPNFの促通の要素についてご紹介させていただきました.
PNFには固有受容器をはじめとする感覚受容器を促通するためのさまざまな促通の要素が存在するわけですが,中でも特徴的なのが対角線パターンです.
対角線パターンって屈曲・外転・外旋パターンとか伸展・内転・内旋パターンとか,3次元的な運動の組み合わせが決まっていますよね?
この組み合わせって何でこんな組み合わせになっているか考えたことありますか?
今回は理学療法士の視点で対角線パターンの組み合わせについて考えてみたいと思います.
PNF運動パターンの不思議
上述したようにPNFの対角線パターンって屈曲・外転・外旋パターンとか伸展・内転・内旋パターンとか,3次元的な運動の組み合わせが決まっていますよね?
例えば屈曲・外転・内旋パターンというのは存在しませんし,伸展・内転・外旋パターンというのも存在しないわけです.
何でこんな組み合わせになったのでしょうか?
PNF運動パターン
「PNF運動パターン」はPNFの大きな特徴の一つです.
PNF運動パターンは対角線かつ螺旋状の運動であり,基本動作・日常生活動作に多くみられる関節運動なのです.
またこの螺旋状の運動パターンは骨格系や関節および靭帯の解剖学上の構造が螺旋的であることと一致しており,多くの筋線維の走行や構造上の特徴にも一致しています.
つまり基本動作・日常生活動作や筋の解剖学的な走行を考慮した上で対角線パターンの組み合わせが決まっているということです.
基本動作・日常生活動作は一つの筋ではなく多くの筋が総合的に働くことで動作が遂行されますので,単関節の筋力トレーニングを行うよりもPNFパターンを使ってより基本動作や日常生活動作能力に近い筋活動を強化した方が効率的だと考えられます.
この解剖学的な筋の走行の特性によりPNFパターンの開始肢位はより多くの筋を伸張できる肢位であるといえます.
また単一方向の抵抗運動と複合方向の抵抗運動では後者の方が筋力増強効果が高い(同一運動負荷強度,6週のトレーニング期間)との報告や,単関節運動(チューブトレーニング)に比較して多関節運動であるPNFパターンによる筋力増強効果が大きいとの報告があります.
上肢のパターン
上肢のパターンは基本的には4種類です.
屈曲とか外転とかいうのは肩関節の運動を中心に考えます.
これに中間関節である肘関節が屈曲したままの運動,屈伸を伴う運動,伸展したままの運動といった3パターンを加えると,最終的に3×4の12パターンの運動が存在することになります.
上肢のパターンでは一般的にストレートパターン(中間関節である肘関節が伸展位のパターン)が用いられることが多いです.
下肢のパターン
下肢のパターンは基本的には4種類です.
屈曲とか外転とかいうのは股関節の運動を中心に考えます.
これに中間関節である膝関節が屈曲したままの運動,屈伸を伴う運動,伸展したままの運動といった3パターンを加えると,最終的に3×4の12パターンの運動が存在することになります.
下肢のパターンでは一般的に屈伸を伴うパターン(中間関節である膝関節が股関節の運動と同期して屈伸するパターン)が用いられることが多いです.
肩甲骨のパターン・骨盤のパターン
肩甲骨・骨盤のパターンもあります.
前方挙上・後方挙上・前方下制・後方下制といった4つのパターンが存在します.
実はこの4つのパターンがそれぞれ四肢のパターンと対応していたりします.
具体的には以下の通りです.
上肢屈曲・外転・外旋パターン⇒肩甲骨後方挙上
上肢伸展・内転・内旋パターン⇒肩甲骨前方下制
上肢屈曲・内転・外旋パターン⇒肩甲骨前方挙上
上肢伸展・外転・内旋パターン⇒肩甲骨後方下制
下肢屈曲・内転・外旋パターン⇒骨盤前方挙上
下肢伸展・外転・内旋パターン⇒骨盤後方下制
下肢屈曲・外転・内旋パターン⇒骨盤後方挙上
下肢伸展・内転・外旋パターン⇒骨盤前方下制
これは四肢のパターンにおいても同様ですが対角線の角度は30°程度,時計で言うと1時-7時の角度が適当です.
昔はもう少し対角線の角度も大きかったようですがここ最近はこの角度で落ち着いているようです.
運動パターンを用いる意義
PNF運動パターンは単関節・単一運動方向の運動とは異なり,多くの筋(共同筋群)の収縮を得ることができます.
通常,上位運動ニューロンからの下行刺激は単一筋のみではなく,共同筋群へ伝達されますので単関節・単一運動方向の運動よりもより多くの筋を賦活することに繋がるわけです.
多関節・筋への固有受容性刺激は,単関節・筋への固有重要性刺激に比べ多くの運動ニューロンの興奮が得られるわけですが,これを空間的促通と呼びます.
例えば股関節の内旋と足部の外反を個別に促通するよりも,下肢の屈曲・外転・内旋パターンを用いて同時に促通した方がより多くの運動単位を動員することが可能になるわけです.
運動パターンというのはわれわれの共同で活動しやすい筋群を同時に賦活させるような組み合わせになっています.
坐位で股関節を内旋する運動を足部外反位で行った時と足部内反位で行った時では足部外反位で行った時の方が股関節が内旋しやすくなると思います.
これが運動パターンの素晴らしいところです.
上位運動ニューロンからの下行刺激(足部外反筋への下行刺激)は単一筋のみではなく,共同筋群(股関節内旋筋)へ伝達されますので,共同筋群を同時に賦活させることができるわけです.
つまり共同で活動しやすい筋群を同時に賦活させることで単一筋群での運動よりも多くの運動単位の動員が得られるということです.
運動パターンの遠位から近位,近位から遠位へ波及させる
運動パターンへの抵抗や伸張刺激はパターン内で活動する筋群の筋活動を増大させることが可能です.
これは広義の発散と呼ばれますが,遠位⇒近位,近位⇒遠位といったようにパターン内で筋活動を増強することができるのです.
近位⇒遠位
遠位筋の活動が十分に行えない場合,近位の共同筋群に強い抵抗をかけることで遠位筋の活動を促通することができます.
例えば,股関節・膝関節周囲筋の機能は比較的保たれているものの,足関節の自動背屈運動が困難な脳血管障害片麻痺患者に対し,股関節・膝関節の屈曲に対し抵抗をかけることで背屈運動を促通することができます.
遠位⇒近位
近位筋の活動が十分に行えない場合,遠位の共同筋群に強い抵抗をかけることで近位筋の活動を促通することができます .
例えば,大腿骨近位部骨折術後7日目,立ち上がり時の骨盤前傾を促す目的で腸腰筋の活動を得たいが疼痛が強く困難な例に対して,足関節背屈へ抵抗刺激をかけることで腸腰筋の活動を促通することができます.
このようにパターン内で筋活動を波及させることで強い部分を使って弱い部分を賦活できるというのもPNFの強みです.
今回は理学療法士の視点で対角線パターンの組み合わせについて考えてみました.
こう考えるとPNFの運動パターンって非常によくできているなと改めて感動するわけです.
参考文献
1)広島玲子:股関節複合面運動が股周囲筋力に与える影響.札幌医科大学保健医療学部紀要10:27-34,2008
2)今田 健:変形性股関節症患者に対する単関節,多関節運動によるエクササイズ効果の検討.理学療法学(sup),2006
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