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筋の作用は関節角度によって変化するから覚えなくてもよい?
「梨状筋に内旋作用がある」こんな話を聞いた時には私自身は衝撃を受けました.
ここ最近,筋の作用が関節角度によって変化するといった報告は少なくありません.
正直なところわれわれが学生時代に覚えた筋の作用って何だったのかなんて思ったりしますが,それでは筋の作用は覚える必要は無いのでしょうか?
今回は理学療法士の視点で筋の作用について考えてみたいと思います.
筋の作用は関節角度によって変化する
筋の作用は一定ではなく,関節角度により変化します.
元々,筋の作用というのは筋が収縮したときの関節の動きを表したものです.
筋の作用は筋の起始と付着の関係,すなわち筋の走行により決定されます.
解剖学書に記載されている作用は,解剖学的立位肢位(解剖学的肢位)あるいは基本的立位肢位(基本肢位)において筋が収縮したときの関節の動きを作用としており,こういった解剖学的な筋の作用を解剖学的作用と呼びます.
一方で,筋の作用は関節の位置(角度)によって変化します.
例えば長内転筋は股関節の内転だけでなく屈曲にも働くとされておりますが,後述のように股関節90°屈曲位では屈曲ではなく伸展筋としての作用を持ちます.
このように,関節の位置(角度)の変化を考慮に入れた筋の作用を運動学的作用と呼びます.
われわれ理学療法士は解剖学や運動学の知識として解剖学的作用を暗記することが多いわけですが,この作用は解剖学的肢位のときの作用であることを理解しておく必要があります.
筋の作用は覚えなくて良い?
例えば股関節屈筋である腸腰筋が麻庫している患者を想定して,椅子座位で股関節屈曲ができないとします.
解剖学的作用として股関節屈曲作用をもつ股関節内転筋を鍛えたからといって,椅子座位で股関節屈曲ができるようにはなりません.
椅子座位のように股関節が屈曲している姿勢では,前述のように股関節内転筋は股関節伸展作用を持ちますので,内転筋を強化しても股関節屈曲筋力を強化することにはつながらないわけです.
このように解剖学的作用は,解剖学的肢位以外の作用とは異なる可能性があり,作用を暗記しても役に立たない可能性があります.
したがってまずは作用を暗記した上で,筋の走行をイメージしながら作用を考えられるようになることが重要です.
したがって筋の解剖学的な作用をまずは把握した上で,筋の走行を3Dでイメージできるようになることが重要と言えるでしょう.
臨床実習生に多いことですが,筋の起始・停止を単語としては記憶できているものの実際に触診をしようとすると筋の走行をイメージできないといったケースは少なくありません.
筋の作用の考え方
関節運動中心に対して筋がどこに位置するかによって作用は決定します.
筋は関節を越えた場合にのみ作用をもち,その走行(関節を越えた位置)により作用が決まります.
そのため,走行さえイメージできれば作用は考えることができるわけです.
前述のように関節の角度が変化すると走行も変化するため筋の作用は一定とは限らないわけです.
足関節に作用する筋の例
足関節を通過する際の筋の位置により足関節周囲筋の作用は決まります.
足関節に作用する筋はその走行から4つに分類することができます.
4つというのは距腿関節軸よりも前に位置する筋には背屈作用,後ろに位置する筋には底屈作用があります.
同様に距骨下関節よりも内側に位置する筋は回外(内反)作用,外側に位置する筋は回内(外反)作用があります.
したがって距骨下関節前内側に位置する筋は背屈・回外作用を,距骨下関節前外側に位置する筋は背屈・回内作用を,後内側に位置する筋は底屈・回外作用を,後外側に位置する筋は底屈・回内作用を有するということになります.
例えば長母趾屈筋なんかは母趾の屈曲作用や足関節の底屈作用を有する筋として暗記することが多いと思いますが,距骨下関節の後内側に位置する筋ですので,底屈に加えて,足部を回外させる作用があることを理解できると思います.
このように筋の走行さえ知っていれば,作用を暗記する必要はないわけです.
股関節に作用する筋の例
股関節を通過する筋についても筋の走行によって股関節周囲筋の作用が決まります.
股関節の回転軸の中心(関節運動中心)よりも前方に位置する筋はすべて屈曲作用があり,後方に位置する筋はすべて伸展作用があることになります.
関節運動中心から各筋の力線までの距離(モーメントアーム)が重要であり,モーメントアームが大きい筋ほどトルク発揮に優れています.
例えば,小殿筋(前部線維)よりも大腿直筋のほうがモーメントアームが長いため屈曲トルクを発揮するのに効率が良いわけです.同様に中殿筋(後部線維)よりも大殿筋のほうがモーメントアームが長く伸展トルク発椰には効率が良いわけです.
ただしこれは解剖学的肢位のみに当てはまることであり,股関節の角度が変化するとモーメントアームは変化し,筋の作用が逆転することさえあります.
またトルクはモーメントアームだけでなく筋の発揮張力に影響を受けるため,必ずしもモーメントアームが大きい筋がその関節連動の主動作筋とは限りません.
同様に股関節の回転軸の中心よりも外側に位置する筋はすべて外転作用があり,内側に位置する筋はすべて内転作用があります.
したがって股関節の回転軸の内側に位置する大殿筋や大腿二頭筋はモーメントアームは短いですが,わずかに内転作用があります.大殿筋を上部線維と下部線維に分けると上部線維は外転,下部線維は内転の作用をもちます.
縫工筋と大腿筋膜張筋は外転作用がありますが,モーメントアームが長い大腿筋膜張筋のほうが大きな外転トルクを発揮可能です.
今回は理学療法士の視点で筋の作用について考えてみました.
このように筋の作用が関節角度によって変化するというのは,われわれ理学療法士は必ず知っておく必要があります.
また理学療法士・作業療法士を目指す学生さんは筋の作用を単語として暗記するのではなく筋の走行をイメージした上で筋の作用について考えられることが重要です.
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