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術前・術後せん妄について理学療法士・作業療法士の視点で考える
急性期の医療機関で勤務している理学療法士・作業療法士であれば,せん妄状態になっているクライアントを担当する機会も少なくないと思います.
せん妄といった概念を十分に理解していないと,認知症と同じように考えてしまいがちですが,せん妄と認知症は全く異なります.
今回は理学療法・作業療法を行う上で理解が必須となるせん妄について考えてみたいと思います.
術後せん妄とは?
術後せん妄というのは,骨折に伴う心理的ストレスや,観血的治療との関係が示唆され,古くから多くの報告がなされてきました.
外科領域において術後せん妄は,せん妄そのものによる身体的な侵襲のみならず,それに伴って生じる合併症や事故等から治療や入院期間の遷延をもたらし,クライアントの予後に大きな影響を及ぼすとされ,可能な限り早急に改善を図りたい合併症といえるでしょう.
医療経済的視点から考察しても,術後せん妄が生じたために加算される医療費やその損失が多大となることはいうまでもありません.
術後せん妄については,発症率が数%~30・40%とばらつきがあるものの,術後せん妄を予測するために注意すべき諸要因が先行研究では数多く報告されております.
理学療法士・作業療法士の介入が必要かつ可能な要素も多く存在します.
せん妄発症の多くは,病棟での問題行動が発端となることが多いです.
問題行動の原因はせん妄か,認知機能低下に伴うものかを把握し,理学療法士・作業療法士や病棟スタッフによる精神・認知機能の評価により,各個人に合わせた対応が必要となります.
可能な限り早期に発見して,精神科医の診断と指示処方を仰ぐ方法を確立することが重要です.
そのためにもクライアントに接触する機会の多いわれわれ理学療法士・作業療法士が,術後せん妄について十分に理解しておく必要があります.
せん妄について理解,習熟し,その発症に対処するために日常生活における環境的要因へ配慮することができれば,クライアントの術後せん妄を早期に改善できる可能性があります.
せん妄対象者への介入の経験の積み重ねやカンファレンスなどの実施により,二次的合併症の予防を図り,予後の改善,早期退院に繋げることが望まれます.
理学療法士・作業療法士からみた術後せん妄の評価
症候学的,疾病分類学的な診断としては,DSMW TR,International Statistical Classification of Disease and Related Health Problems10(ICD10)があり,それらの診断基準に沿い,せん妄を評価することが基本となります.
せん妄の評価方法は以下の4つに分類することができます.
①認知障害のスクリーニングテスト
②DSMやICDに基づいたせん妄の診断尺度
③せん妄に対して特異的である量的評価尺度
④せん妄に関連した身体検査(脳波検査,脳画像検査など)
既存の日本語版の評価尺度として,①認知障害のスクリーニングテストはMMSE,③せん妄に対して特異的である量的評価尺度はDelirium Rating Scale (DRS),,Memorial Delirium Assessment Scale((MDAS)などがあげられます.
せん妄の原因
せん妄出現の原因としては以下の3つが挙げられます.
①素因・基盤的要因:認知症や脳血管障害,加齢に伴い柔軟な対応ができないなど,脳機能の低下がある.
②直接的要因:せん妄を引き起こす原因となる疾患・病状.中枢神経系疾患,代謝性疾患,低酸素症などがある.
③促進的要因:心身のストレス,睡眠障害,瘻痛などの原因がある.内的要因として,不安,見当識障害,認知機能低下,睡眠障害,瘻痛があり,外的要因として,部屋の照明,壁,構造,配置や騒音,気温,処置(方法,時間,身体的負荷)がある.
理学療法士・作業療法士は,入院直後からそれら諸要素の検討を行い,可能な限り予防的介入をすることが必要となります.
せん妄の臨床的特徴
せん妄の臨床的な特徴としては以下のような6つの特徴に集約されます.
①認知機能の障害として,知覚,記憶,思考の障害があり,見違い,聞き違い,状況の誤認,幻覚,幻視,記憶錯誤,思考のまとまりがなく,時に思考錯乱,被害的妄想などが幻覚と結びついてみられる.
②覚醒性の障害として,注意が散漫となり,間違いが多く,注意の配分が困難となる.
③睡眠覚醒リズムの障害として夜間の不眠,日中の傾眠.
④精神運動障害として,落ち着きがなく,行動の統制がなく精神運動性興奮を認める.
⑤易怒的で,恐怖感を抱きやすい.
⑥経過は一過性で,変動性がある.
せん妄と認知症の違いは?
最も難しいのがせん妄と認知症の区別です.
せん妄と認知症は似て非なるものですので,理学療法士・作業療法士としての対応も当然ながら異なるものとなります.
せん妄 | 認知症 | |
意識状態 | 混濁 | 正常 |
発症 | 急性期,亜急性期 | 潜伏性,慢性 |
経過 | 一過性 | 持続性 |
症状の動揺性 | あり(夜間増悪) | 目立たない |
知覚障害 | 錯覚,幻覚 | 目立たない |
脳波 | 異常 | 正常~軽度異常 |
基本的にせん妄は意識の障害であり認知症では意識は正常です.
またせん妄の症状が急性発症し一過性の経過をだどる一方で,認知症は潜伏性に発症し慢性持続性の経過をたどります.
さらにせん妄の症状にはムラがあり,特に夜間に増悪しやすいといった特徴も重要です.
錯覚や幻覚といった知覚障害についても一部の認知症を除いては認知症で出現することは少ないですが,せん妄では錯覚や幻覚といった知覚障害が出現しやすいといった特徴があります.
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