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理学療法士の視点で下肢伸展挙上(SLR)はなぜ行われなくなったのかを考える
下肢伸展挙上(SLR)と言えば,変形性膝関節症例をはじめとする膝関節疾患のクライアントに対して大腿四頭筋トレーニングとして用いられてきました.
また2000年代前半には変形性膝関節症例に対する無作為化比較試験が行われ,下肢伸展挙上(SLR)を用いた大腿四頭筋トレーニングはNSAIDSど同程度の除痛効果を有することが明らかにされております.
しかし最近では下肢伸展挙上(SLR)に対して否定的な意見も少なくありません.
今回は理学療法士の視点で下肢伸展挙上(SLR)を用いた筋力トレーニングについて考えてみたいと思います.
SLR動作時の大腿四頭筋の筋活動を測定し,①対側の膝関節肢位(屈曲位・伸展位) ,②SLR時の股関節角度(10°・45°),③下肢の負荷量が大腿直筋,内側広筋,外側広筋の筋活動量に与える影響について調査した報告によると,対側の膝関節肢位による大腿四頭筋筋活動量の違いはなく,SLR時に対側の膝関節を屈曲位にして行っても伸展位と同様のトレーニング効果があると思われます.
股関節の角度は負荷が少ない場合においてのみSLR10°とSLR45°の違いが明らかにされております.
大腿直筋と内側広筋の筋活動量はSLR10°で高く,外側広筋は45°で高いことが明らかにされております.
負荷量の増加による筋活動の増加が大きいのは大腿直筋のみであり,最大抵抗をかけたSLRにおいても,内側広筋や外側広筋の筋活動量の増加が軽度であるのに対して,大腿直筋については負荷量の増加に伴う大腿直筋の筋活動の増加が大きいことが明らかにされております.
このような結果から考えると,下肢伸展挙上(SLR)は膝関節伸展筋群のトレーニングというよりは,股関節屈曲筋群のトレーニングと考えた方が良いでしょう.
バイオメカニクスから見たSLRの問題
SLRは膝伸展筋のトレーニングとしてよく用いられますが,問題も多く指摘されております.
まずSLRのバイオメカニクスを考えた際に,SLRは膝関節伸展筋群の筋力トレーニングというよりも股関節屈曲筋群のトレーニングの要素が強いというのは,レバーアームを見れば明らかです.
SLRでは膝関節に比較して股関節に対するレバーアームが2倍になりますので,当然ながら2倍の負荷が股関節に加わることになります.
またSLRの1RMは11.3kgであり,膝伸展筋力の1RMが44.5kgであることを考えると,最大抵抗でSLRを行ったとしても膝関節伸筋に対しては,最大の4分の1の負荷しかかからないことになります.
SLRは股関節への力学的負荷が大きいので股関節周囲の骨折で免荷が必要な場合や変形性股関節症例などの場合には運動そのもののストレスが大きすぎる場合が少なくありません.
大腿四頭筋の筋活動から見たSLRの問題点
またSLR運動における筋活動を考えると,内側広筋よりも大腿直筋の筋活動が高く,さらにSLRの負荷を増加しても内側広筋の筋活動の増加は少なく,大腿直筋のみが大きく増加します.
よって大腿直筋以外の膝伸筋を鍛えたい場合にSLRの負荷を増しても効果がない可能性があります.
昔から大腿四頭筋トレーニングとしてSLRがよく行われたのは,膝伸展最終域で内側広筋が働くと考えられていたためであると思われますが,すでに多くの文献で否定されているわけです.
ただ大腿直筋をターゲットとして筋力トレーニングを行うことって少ないですよね?
股関節・膝関節周囲の疾患では大腿直筋というのは過剰に収縮して疼痛の原因になることが多いので,むしろ活動を減じるためのアプローチを行うことが多いと思います.
関節原性抑制から見たSLRの問題点
関節謬出液が,膝伸展筋に抑制をかけることは数多く報告されております.
特に膝関節が腫れている状況で,関節内圧が高まる膝関節伸展位でトレーニングを行ってしまうと,大腿四頭筋に大きな抑制をかけることになります.
膝関節に腫脹がある場合には,SLRは大腿四頭筋に抑制をかけるトレーニング法となる可能性があります.
SLRって良いところないの?
SLRというのは高齢者にとっても運動方法が理解しやすく,道具を必要としないため,自主トレーニングとしても指導しやすいといったところが一番ではないでしょうか?
背臥位でトレーニングを行えるという点で考えてもクライアントにとって実践しやすい運動だと考えられます.
また膝関節伸展位で下肢を挙上するといった課題は課題達成度が分かりやすく,下肢を挙上できなかったクライアントが下肢を挙上できるようになることで筋力の向上を実感しやすいと考えられます.
今回は理学療法士の視点で,昔から筋力トレーニングとして頻繁に用いられる下肢伸展挙上(SLR)を用いた筋力トレーニングについて考えてみたいと思います.
なんとなくなぜ下肢伸展挙上(SLR)が使用されなくなってきているかがわかりますね.
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