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理学療法士として膝関節疾患の関節水腫を考える
臨床では関節水腫により,痙痛や関節可動域制限,筋力低下を呈する患者をしばしば経験します.
関節水腫の原因はさまざまですが,外傷性と非外傷性に大別できます.
外傷性の関節水腫が生じている場合には,関節構成体の損傷が考えられ,関節血腫の有無や受傷機転瘻痛などからおおよその損傷部位を判断し,関節の安静および保護を目的とした対応が必要となります.
また非外傷性に関節水腫が生じている場合には,疼痛や熱感・関節水腫などの局所所見より,炎症の程度や時期を判断し,局所状態の改善や関節水腫の原因であるメカニカルストレスの改善を目的とした対応が必要となります.
理学療法士として関節水腫の程度や原因を把握し適切な対策が実施できれば,症状改善だけでなく,2次的な機能障害を予防することにもつながります.
関節液の性状正常と異常を知る
関節液は関節軟骨,滑膜関節内靱帯との間にある液体成分であり,その主な作用は関節の潤滑と関節軟骨の栄養であるといわれております.
関節液は正常な膝関節腔内には少量存在し,その正確な量については把握することができないといわれております.
関節液は,関節包内の内面をおおっている滑膜が産生します.
正常では透明,淡黄色で粘稠度が高く,その主成分はヒアルロン酸と,滑膜中の毛細血管の血漿成分の透過液より構成されます.
粘稠度にはヒアルロン酸の量が関係していると言われております.
異常な関節液は,炎症性,非炎症性化膿性,血性に分類されます.
関節に炎症が生じると,関節液中のヒアルロン酸が分解され,関節液の粘性が低下します.
ヒアルロン酸は滑液や関節軟骨の重要な成分をなし,その粘性の大きさから潤滑液として作用することで関節軟骨表面や軟部組織表面を保護すると考えられます.
したがって,炎症によるヒアルロン酸濃度の低下は,関節軟骨表面の潤滑の低下につながるとともに,関節軟骨へのメカニカルストレスの増大につながる可能性があると考えられます.
関節水腫のメカニズムを知る
膝関節疾患における関節水腫の原因としては,外傷性または非外傷性に分けられます.
外傷性疾患は,靭帯損傷や半月板損傷,関節内骨折などがあげられ,毛細血管の損傷を伴い血性の関節水腫を生じることが多いといった特徴があります.
非外傷性疾患は変形性膝関節症(膝関節症)や関節リウマチなどがあげられます.
膝関節症の関節水腫の発症要因は,くり返される膝関節へのメカニカルストレスにより関節軟骨の変性や摩耗が生じ,摩耗部や滑膜に炎症が起こります.
炎症により血管透過性が充進し,血液中の血漿成分が関節中に異常に漏出する結果,著明な関節液が貯留することとなります.
関節水腫を評価する
一般的な関節水腫の診断としては,画像診断や徒手検査などが重要です.
関節水腫を画像を用いて評価する上では,MRIが有用であり,関節液はT1強調画像で高輝度, T2強調画像で低輝度を示します.
関節水腫は矢状断では特に膝蓋上包部前額断では内外側関節包部に貯留を認めます.
徒手検査では膝蓋跳動の有無を確認するとよいでしょう.
視診・触診では雛の有無や皮膚の色調,熱感などを同時に確認し,必ず左右を比較する必要があります.
方法は検者が一方の手掌で膝蓋上包部の貯留を遠位に集めるように圧迫し,他方の手掌で膝蓋骨の下方部から近位に向かって圧迫して関節液を集めるようにします.
その際膝蓋骨を前方より押すことでコツコッと感じるとともに膝蓋骨が浮いているように感じることができます.
また合わせて血液検査データ(CRPや赤沈,白血球数など)を経時的に確認することは,炎症の程度や鎮静の経過を把握するだけでなく,理学療法の効果判定のためにも役立ちます.
関節水腫に対する理学療法アプローチを考える
外傷性疾患や術後の急性炎症に伴う関節血腫や関節水腫を認める場合は, RICE処置を実施するのが基本となります.
ただし過度の圧迫による疼痛の増強や,長時間のアイシングによる局所の循環不全をひき起こす可能性があるので注意が必要です.
膝関節症などの非外傷性疾患では,軽度の関節液の貯留を認めることがしばしばあります.
諸家により関節水腫に対する理学療法の有効性が述べられているように,軽度な貯留であれば適切な運動療法で関節水腫が軽減することもあります.
軽度の関節水腫に対しては,軽度膝関節屈曲位での大腿四頭筋の等尺性収縮や端座位での膝関節の自動的な屈伸運動にて,関節内の循環が促され関節水腫が改善する場合もあります.
しかし著明な関節水腫を認めるときは,運動療法により大腿四頭筋,特に内側広筋に対して関節原性筋抑制を起こしてしまう危険性があります.
関節水腫により関節包が伸張されるとともに関節内圧が上昇し,関節包に存在するメカノレセプターを刺激することで,大腿四頭筋の筋活動が抑制されることが明らかにされて居り,物理療法の実施後で症状力塘悪する場合や,継続的な理学療法により症状が改善しない場合は,医師に相談して関節穿刺を検討する必要があります.
整形外科治療としては関節穿刺後にヒアルロン酸などの関節内注入が行われることが多いです.
ヒアルロン酸は関節軟骨表面の保護フイルムとなるため,関節注入直後は積極的な膝関節周囲筋群の筋機能改善運動や荷重下でのトレーニングは控える必要があります.
理学療法を行う際にも,可能な限り触診にて圧痛部位や軟骨の変性・摩耗部位を確認することが重要となります.
例えば,画像所見で軟骨の変性・摩耗部位を確認した後,膝蓋大腿関節であれば,膝蓋骨を介して内外側の関節面へと圧縮を加えながら瘻痛の有無や軟骨表面の凹凸を評価します.
膝関節の屈曲とともに,膝蓋骨の接触部を変化させながら同様の操作を行い,メカニカルストレスが生じていると考えられる部位を同定します.
また対象療法にとどまらず,メカニカルストレスの原因に対するアプローチを行うことが非常に重要となります.
メカニカルストレスの原因については,患者の姿勢や歩行,動作よりトップダウン式に臨床推論を形成し,最も影響を及ぼしている関節機能障害に対するアプローチを実施します.
今回は理学療法士の視点で関節水腫に対する評価およびアプローチについて考えてみました.
関節水腫の程度や原因を把握し適切な対策が実施できれば,症状改善だけでなく,2次的な機能障害を予防することにもつながりますので,われわれ理学療法士の対応が重要になると言えるでしょう.
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