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足・足趾がなぜ大切なの?
日本には,古来より足半(あしなか)いう足趾と踵が出る草履が存在し,中世の武士は戦場においては,足半に履き替えていたという歴史があります.
足趾で地面をしっかりつかんで身体を安定化させたうえで,刀や槍で戦い,上肢運動を効率良く遂行させていたわけです.
足底が地に着いていないならば,その動作は不安定となります.
人が安定した行動をとる基本要素は,足底が地面に着き,足趾・足底で立っている基撚の地面を保持することです.
中世の武士は地面をつかんで安定’性を得るだけではなく,足半を履くことで裸足に近い状態となり,足底のメカノレセプターが,力学的情報を受け取りやすくしているわけです.
姿勢制御に果たす足趾の役割は?
転倒は多くの要因が重複したうえで確率論的に発生するため,その原因を予測することは重要ですが,その評価・治療の一つの可能性として姿勢制御に果たす足趾の役割に焦点を当て,報告された内容を今回はご紹介いたします.
静止立位・前傾姿勢の安定性と母趾屈曲力は関係があるの?
広範な年齢層を対象に,静止立位に加えて前傾・後傾立位保持の際の安定性および立位姿勢保持可動域測定した報告によると,静止立位の安定性の低下と並行して,足関節底屈力および母趾屈曲力も, 20歳代と比較すると50歳代ないし60歳代頃から低下することが明らかにされております.
また最前傾位での足圧中心位置は母趾屈曲力が足関節底屈力よりも高い相関関係にあり,底屈力よりも母趾屈曲力のほうが強く関与しているとされております.
足趾把持筋力低下は転倒の原因になるか?
高齢者の転倒に関与するリスク要因の検討を行った報告によると,足趾把持筋力は握力,膝伸展筋力,下肢制動能, Functional Reach Test, 10m歩行時間, Timed Up and Go Testと相関関係があり,転倒の危険性を減少させる要因に関与していることから,足趾筋力評価の重要性が明らかにされております.
母趾と第2~5趾はそれぞれの役割があるのか?
健常者を対象に足趾を免荷した場合の足圧中心の位置を検討した報告によると,静止立位時には前後方向の足圧中心位置において,全足趾支持が母趾のみ支持,母趾のみ免荷,全足趾免荷と比較して,有意に前方に位置し,全足趾免荷が有意に後方に位置していたと報告されております.
これは足趾からの感覚入力が減少した結果として生じたものと考えられますが,静止立位においては母趾と第2~5趾の前後方向における機能は同等であると考えられます.
また,足圧中心移動距離の計測を,クロステストを応用して行った結果を見ると,左右方向への移動距離に関しては,支持脚である左足のほうが右足より足趾の影響を受けていることが明らかにされており,最大前方向の足圧中心の移動距離においては,第2~5趾よりも母趾の方が重要であることが分かります.
足趾把持筋力から姿勢制御能を予測できるか?
健常女性高齢者を対象に動的姿勢制御能を予測する因子を検討した報告によると,動的姿勢制御能を予測する因子として,左足趾把持筋力,左片脚起立能,膝伸展筋力が挙げられており,それらを強化することで,動的姿勢制御能が改善される可能性があるとされております.
足趾の機能と転倒予防
以上の報告を考えると足趾・足底の機能は,転倒防止対策としての重要であり,軽視できないと考えられます.
足部や足趾の可動性や筋力の評価はもちろんですが,実際に動的な状態で評価することも重要です.
例えば,立位保持時に足趾が宙に浮いているような症例では,足趾が機能しておらず,体重心が後方に位置しており,足関節背屈反応が出現していることが予測され,外乱刺激に対する対応範囲が狭小化していることが多いです.
足趾を機能させ体重心を前方にて支持できるように,足趾からの感覚入力を認知させるよう治療していく必要があります.
また足趾が機能している効率の良い歩行では,踵接地から足趾離地に至るまでの床反力作用点の軌跡が,踵部中央から出発して,足底のやや外側部に偏って小趾球に達し,ここから内側に向かって母趾球を通り母趾に抜けていく軌跡を描きます.
しかし,足趾の筋力低下などの機能不全が起こると,作用点がずれ,推進期での力強い蹴り出しとはならないわけです.
また母趾や第2~5趾のどちらかの一方の機能不全でも,推進期での距骨下関節の回内・回外が起こり,2次的に障害が生じる可能性もあり,各足趾の機能的評価も重要であると考えられます.
今回は理学療法士の視点で足趾機能が転倒や姿勢制御に与える影響についてご紹介させていただきました.
改めて足趾機能に着目して介入を行う視点の重要性を再認識できました.
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