理学療法士の香りが対象者に与える印象

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理学療法士の香りが対象者に与える印象

今回は少し変わった報告ですが,理学療法科学の中から理学療法士の香りに関する報告をご紹介いたします.

リハビリテーションの現場においては,運動療法や歩行などを実施しているクライアントだけでなく,理学療法士も通常の動きのなかで汗をかき,マットやプラットホームに上がる時は靴を脱ぐため,足のにおいや何かしら体臭は,日ごろ発散されていると思われます.

スメルハラスメントという言葉があるように,リハビリテーションにおいても「におい」が問題となる場合があります.

特に男性に関しては加齢臭やミドル脂臭など,自分では気が付かない良くわからないにおいも存在します.

男性の体臭に限らず,においは抽象的で,感じ方も個人差があり,またデリケートなものでもあるので,仮に理学療法士が悪臭を漂わせていたとしても,理学療法を施行されているクライアントも,職場の同僚も指摘し辛いといった側面があります.

 

 

 

医療従事者における臭い・香り

理学療法士に限らず医療従事者の身だしなみについては,ピアス,髭,髪の色など,外見を取り扱った報告はされているものの,体臭のようなものは少なく,自分やスタッフの体臭をどの程度気にしているのか,またどのように対策をしているのかということに関しての報告は少ないようです.

一方精神的な癒しやリラックス効果が期待して,香りを積極的に取り入れるアロマセラピーなどが普及しており,交感神経抑制作用や鎮痛効果などが報告されております.

今回ご紹介いたします研究では,体臭対策としてアロマセラピーの側面から,理学療法士に香りがあった場合に患者に受け入れられるのかを検証するために,理学療法士に香りがあった場合の賛否とその理由を調査しております.

またアンケート調査により日頃のにおいに対する意識を調べ,男女差やアンケート項目と香りに対する賛否の関連を調べ,その特性を検証しております.

 

 

 

研究の対象

対象はA 大学の学生 38 名(男性 22 名,女性 16 名)で,年齢は男性 19.6 ± 1.1 歳,女性 19.6 ± 1.2 歳;平均±標準偏差となっております.

 

 

 

研究の方法

理学療法士役は,研究グループの学生が担当し,実験日には影響が出ないよう,特に香りの強いシャンプーや石鹸は使用しないことと,香水や消臭剤は付けないこととしております.

理学療法士役の男女 2 組(計 4 名)にケーシーを着用させ,1 組にはミストを付け,もう 1 組には何も付けず,2 組は同タイプの 2 室に分かれ,患者役に対し介助動作を実施しております.

ミストは一般的な香水の付け方と同様に,手首(内側)と首(両耳の下)に実験開始の30 分前に付けております.

使用した香りは,石鹸の香りのミスト(サボン社製)を選択しております.

患者役は休憩と移動を含め 5 分間隔で理学療法士役に介助されるようにしております.

介助は患者の顔も体も理学療法士に比較的近づく座位からの標準的なトランスファーで,車椅子からベッドへのトランスファーを想定し,椅子座位から患者は両腕を理学療法士の首に回し座位,立位,座位へのトランスファー介助動作を実施しております.

その後アンケートを記入してもらうといった手順で行っております.

 

 

 

研究の結果

今回のアンケートによりミストに対し「全員抵抗ない」,すなわちミスト付きの男女に「抵抗がない」と回答した男性 18 名中 12 名,女性 9 名中 6 名は,一般的に理学療法士には香りがあるほうがいいとは「思わない」と回答しております.

また「他人のにおいが気になりますか?」の問いには男女で有意差がみられ,男性は「あまり気にならない」が多く,女性は「気になる」が多い結果でありました.

つまり男性は他人のにおいがあまり気にならず,ミストにも抵抗はないが,理学療法士には香りがないほうがいいという意見が多いといった結果であります.

女性は他人のにおいは気になり,ミストには抵抗がある者とない者に分かれますが,ミストに抵抗はなくとも,理学療法士の香りには否定的な意見と,ミストには抵抗はあるが,理学療法士の香りには肯定的な意見があり,女性は香りに関しては様々な意見でありました.

 

 

 

この研究からわかること

男性は今回のミストに全員不快ではなく,ミスト付きの理学療法士にも肯定的な意見が多かったので,初対面に抵抗があっても,香りの影響で抵抗が減少し,逆に女性はミストの不快により異性への抵抗が強まった可能性もあります.

他人のにおいが気になる場所は男女とも口でありました.

病気による口臭とは異なり,タバコや飲食によるものであれば,自覚もあり,口腔ケアの習慣化も根付きやすいと思われます.

今回の被験者は若年層で加齢臭やミドル脂臭に接する機会が少ないのか,首や脇や足からの体臭が気になるとの回答は少数といった特徴がありました.

口臭と異なり体臭は,男女で感じる閾値が異なることなどにより,本人だけでなく男性同士では互いに気づきにくく,女性から指摘をされないとわからない状態になってしまうと予想されます.

一方で制汗剤などは無香料であっても,人工的な独特の香りは存在しており,一度に大量に使用することは,その香りが苦手な人にとっては逆効果になってしまうことも予想されます.

そのような状況であれば,体臭の自覚が少ないなかで,一日のうちで数回に分けてケアをするというのは,習慣化するのはやや難しいかもしれません.

しかしながら過剰に気にして,自臭症に陥ることや何か消臭手段を無理やりとらせることは,やり方を間違えれば指導であってもパワーハラスメントになることには注意をする必要があります.

理学療法士に香りがあったほうが良いかについては「思わない」との回答が多かったわけですが,他の報告では体臭が「不快」としているのが 97.4%に対し,香水やオーデコロンが「不快」との回答は 27.6%に留まり,「どちらかというと不快ではない」との回答が 30.2%となっております.

体臭よりは香水やオーデコロンの方が許容の余地が若干あるともいえます.

この研究においてもミストや理学療法士の香りに対し肯定的な理由は「清潔感」が多く,ほのかな香りで許容されるものであれば,清潔感が感じられ,体臭対策にも有効となり得るのではないかと思われます.

リハビリテーション室においては,静寂な環境から音楽やラジオなどが流れる環境もあり,ユニフォームに関しても白単色のケーシーからカラーのケーシーもあり,スクラブやポロシャツなど多様性が出てきました.

そもそも病院や施設においては,病院や施設特有の消毒薬のにおいや汚物のにおいなど様々あり,そのような環境下で「香り」がリハビリテーションにおいて緊張緩和や意欲向上の一助になるのか,多様性の一つとして普及していくかは未知でありますが,外見同様に十分な配慮は求められてくると考えられます.

また常に患者と近い距離で直接触れる時間が長い職種である故に,患者から他の患者の移り香にも配慮が必要となってきます.

臨床現場で実際にどのような状況で,また問題がある場合にどのような解決が望ましいのか,デリケートな問題ではありますが,引き続き臨床現場で働く理学療法士,患者の意見等の調査を進める必要があると考えられます.

 

 

 

 

今回は理学療法士の香りが対象者に与える印象について考えてみました.

私自身もそれなりの年齢になり,子供や妻に臭いと言われることも多くなってきました.

この記事が皆様が改めて理学療法士の香りについて考える機会になれば良いなと思います.

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