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靴下多重着用を好む高齢者に対する生活指導の検討
一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
平成30年12月8-9日に神奈川県(パシフィコ横浜)で第5回日本地域理学療法学会学術大会が開催されました.
今回はこの第5回日本地域理学療法学会学術大会の一般演題の中から靴下多重着用を好む高齢者に対する生活指導に関する研究をご紹介いたします.
高齢者の靴下多重着用
以前は寒い冬でも靴下一枚で過ごすのが当たり前でしたが,最近は靴下の上に靴下カバーやルームソックスを着用する方が多くなってきていると思います.
足から冷えるとは言いますが,靴下カバーやルームソックス・ルームシューズを装着すると確かに温かさが違います.
特に積雪寒冷地に住む高齢者には冬期間に靴下の上に靴下カバーやルームソックス・ルームシューズを履くことを好む高齢者が一定数存在するようです.
靴下カバーを装着することで温かくはなるわけですが,一方で靴下カバーの装着によって転倒リスクが高くなるといった可能性も考えられます.
また靴下カバーを装着することで,歩き始めや方向転換時の運動制御にどのような影響が起こるかについても過去に知見がありません.
この研究を行ったグループでは若年健常者を対象に Timed Up & Go テストを用いて,加速度が急激に変化する場面を作り靴下カバー装着条件下での運動制御がどのように変化するかを検討しておりますが,若年健常者では靴下カバー着用条件で方向転換時に歩数を増やすという運動制御の変化が認められております.
今回の研究では新たに健常高齢者のデータと若年者を比較し,靴下カバーの装着が歩行にどのような影響をもたらすかを検討しております.
研究の方法
研究対象は健常若年者 35 名 ( 平均年齢 25.4 ± 2.8 歳 ) と過去1年以内に転倒歴のない地域在住の健常高齢者 20 名(平均年齢 72.3 ± 6.3 歳)となっております.
TUG を裸足,靴下,靴下+靴下カバーの 3 条件で行い,時間と歩数を計測しております.
この研究にでは床面はフローリングに統一されております.
区間の割付けは,往路の直線を 1m 毎に A~C (A は立ち上がりを含む ),方向転換を D,復路の直線を1m毎に E ~ G(Gは着座を含む) の7区間とし,区間毎に床および側壁にテープを貼っております.
各区間の移動時間および歩数は,側面から撮影したデジタルビデオカメラを使用し,頭頂部に合わせたマーカーがテープを通過するまでの遂行時間を測定しております.
3 条件の順番をランダムにとし,1 条件につき3 回試行しております.
若年者群・高齢者群ごとに各区間での時間および歩数の平均値を比較しております.
研究の結果
裸足,靴下,靴下+靴下カバーの順にTUG 総時間は高齢者群:8.7 ± 1.7 秒,8.8± 1.5 秒,9.0 ± 1.6 秒で,若年者群:6.1 ± 0.7 秒,6.2 ± 0.7 秒,6.4± 0.6 秒であり,靴下+靴下カバーで高齢者群・若年者群ともに時間が延長しております.
TUG 総歩数は高齢者群:15.2 ± 2.4 歩,15.4 ±2.3 歩、15.9 歩± 2.5 歩で,若年者群:11.7 ± 1.9 歩,12.3 ± 2.0歩,12.8 ± 1.9 歩となっております.高齢者群・若年者群ともに歩数が増加しております.
年齢条件における分析では,すべての区間で高齢者群の時間延長と歩数の増加傾向を認めております.
履物条件の違いによる分析では,D区間のみで裸足と比較し靴下と靴下カバー着用で時間の延長を認め,歩数は裸足と比較し靴下カバー着用で増加を示しております.
なお年齢と着用条件による交互作用は認めておりません.
この研究からわかること
この研究からわかることとして,高齢者に関しても若年者と同様に靴下カバー着用条件で方向転換時に歩幅を短くするという運動制御の変化があることが明らかにされております.
この研究から言える,靴下カバーやルームソックス・ルームシューズ着用を好む対象者への生活指導としては,年齢に関わらず履物条件の違いによって方向転換時に歩行速度が遅くなる,あるいは歩幅が短くなるような対象者に対しては,靴下カバーやルームソックス・ルームシューズ着用について制限する必要があるかもしれません.
靴下カバーの代わりに少し硬性の高いルームシューズを履くなどの対応も必要であると考えられます.
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