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人工股関節全置換術(THA)後の股関節可動域制限の特徴
腸腰筋インピンジメントって何?
人工股関節全置換術例に対して理学療法を実践する上で,関節可動域の獲得は1つの課題となります.
アプローチや術前の関節変形の状況によっても,関節可動域制限の原因はさまざまですが,どういった機序で関節可動域制限が生じるかを理解しておくことは,関節可動域改善を図る上でも非常に重要です.
今回は人工股関節全置換術(THA)後における股関節可動域制限の特徴について考えてみたいと思います.
人工股関節全置換術(THA)後の股関節可動域に関連する因子
人工股関節全置換術(THA)によって,関節そのものが置換されると,術前の大腿骨頭と臼蓋間での可動性が改善し,疼痛に伴う可動域制限は少なくなります.
一方で人工股関節全置換術(THA)後早期には,手術時の筋への侵襲,術創部の疼痛,脚延長に伴う筋の伸張痛によって,股関節・膝関節の可動域が制限されやすくなります.
これらの手術に伴う要因に加えて,術前からの筋短縮による股関節可動域,使用されている人工関節(インプラント)そのものの可動性によっても,術後に獲得できる可動域が決まります.
人工股関節全置換術後における股関節可動域の術後経過と原疾患
人工股関節全置換術(THA)後における股関節屈曲可動域は,原疾患(変形性股関節症 or 大腿骨頭壊死症 or 急速破壊型関節症)によっても回復状況は異なります.
変形性股関節症が原疾患であっても,大腿骨頭壊死症が原疾患であっても,術後6カ月が経過すれば,股関節可動域には術前よりも有意な改善が得られますが,大腿骨頭壊死症については,術後6カ月で術中角度よりも改善が得られるとともに,最終的に獲得できる股関節屈曲可動域は変形性股関節症よりも大きいことが知られております.
大腿骨頭壊死症では罹患期間が短いために,股関節の可動域低下の原因となる股関節周囲軟部組織の損傷が小さく,手術によって改善されやすいと考えられます.
また人工股関節再置換術(revision THA)では全ての関節可動域の制限が著しいものとなります.
人工股関節全置換術(THA)後における股関節可動域とADL動作
人工股関節全置換術(THA)後における股関節の可動域は,ADL動作の自立に関連することが報告されております.
人工股関節全置換術(THA)後の股関節可動域と関連する具体的なADL動作には,靴下着脱・足趾の爪切り・靴の紐を結ぶといった動作が挙げられており,これらの動作の自立には股関節屈曲・外転・外旋の複合的な可動域の獲得が必要となります.
また人工股関節全置換術(THA)後の股関節屈曲拘縮による股関節伸展可動域制限は,歩行中の骨盤の代償運動から腰痛を招いたり,ストライド長の減少から歩行能力の低下の原因となることもあります.
また人工股関節全置換術(THA)におけるインプラントの選択もまた人工股関節全置換術(THA)後の股関節可動域に影響を及ぼします.
人工関節のカップの前開きが大きいと,通常の人工股関節全置換術(THA)よりも股関節屈曲可動域は大きくなりますが,股関節伸展位で脱臼しやすくなります.
人工股関節全置換術(THA)後の腸腰筋インピンジメント
人工股関節全置換術(THA)後には,腸腰筋腱が人工関節のカップの突出部分上を走行する状況になります.
特に人工関節のカップがoversizeの場合には,股関節自動屈曲時や他動伸展時に鼠径部痛を生じることありますが,こういった腸腰筋腱の挟み込みによる障害を膓腰筋インピンジメントと呼びます.
腸腰筋インピンジメント対する治療として,腱鞘内注射,再置換術(カップの設置付置角度を修正することでインピンジメントを解消する),膓腰筋腱切離などがあります.
今回は人工股関節全置換術(THA)後における股関節可動域制限の特徴について考えてみました.
人工股関節全置換術後に生じる股関節可動域制限には,さまざまな原因が考えられます.
手術記録を把握するとともにインプラントそのものの特性も考慮した上で,股関節可動域制限の原因を考えることが重要だと思います.
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