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利益相反って何? 理学療法士・作業療法士にも開示が必要?
最近,学会発表を聞いたり,論文を読んだりしているとこの利益相反ということがをよく目にします.
理学療法士・作業療法士の学会はもちろんですが,医師が参加する学会では特にこの利益相反に関してうるさい印象があります.
われわれ理学療法士・作業療法士もまたこの利益相反に関して十分に理解しておく必要があります.
今回は利益相反について整理してみたいと思います.
利益相反って?
ディオバン事件難以降,わが国では利益相反(conflict of interest :COI)が注目され始めました.
ICMJEの推奨では,「利益相反は患者の福利や研究の妥当性など第一の関心事に対する専門的判断が,財政的利益のような二次的な関心事に影響する場合に現存します.財政的利害関係(雇用,顧問,株式の所有,ストック・オプション,謝礼金,特許権,報酬を受けた専門家証言など)は,最もわかりやすい利益相反であり,雑誌,著者そして学問そのものの信頼性を最も損なうものといえる」とされております.
ディオバン事件とは?
ディオバン事件についてはご存じの方も多いと思いますが,高血圧症の治療薬であるディオバンの臨床研究において,ディオバンを発売している製薬会社の社員が大学の非常勤講師として当該研究にかかわり,研究の過程でデータの操作を行った事件です.
当該企業にとって有益な研究結果になるようにデータを改ざんし発表したものであり論文の裡造とされました.
利益相反の関係にあることは問題なのか?
産学連携が求められる今日,利益相反は,その関係にあること自体が問題なのではなく,その事実を公表しないことが問題となります.
したがって利益相反の関係性にあることそのものは何ら問題は無く,他団体から支援を受けながら研究を遂行することには大きな問題は無いわけです.
理学療法の分野においては,製薬企業と医師との関係のように多額の報酬が支払われることは少ないかもしれませんが,例えば機器メーカーから理学療法士に報酬が支払われるということは少なくないと思います.
したがってきちんと利益相反に関して開示を行うことで,研究結果に対して不正な操作を行っていないかという疑念を抱かれないようにすることが大切です.
どのようなものが利益相反になり得るのか?
理学療法士自身が注意しないといけない利益相反の状態としては,次のようなケースが挙げられます.
1つ目のケースとしては,研究に関連する機器の無償提供です.
理学療法機器や評価機器が高額であり,所属施設に機器がない場合に,研究機器を一時的に企業から貸与してもらい研究を行うことがあります.
購入した機器を使用する場合や妥当な借用料を支払っている場合には問題になりませんが,“無償で”という場合には利益相反の状態にあるということになります.
したがってデモ機を借りて研究をした場合には注意が必要です.
2つ目のケースは,講習会や研修会の講師料や原稿料の場合です.
理学療法機器の製造企業が当該企業が販売する機器の有効性を広めるため,企業主催の講習会や研修会を開催することがあります.また企業のパンフレットなどで原稿の執筆を依頼されることがあり,講演料や原槁料として対価を受け取ることがあります.
企業から報酬を受けて講演などをしているわけであり,当該企業の機器を用いた研究を行う場合には,その機器の有用性を示すことになるだろうという疑念をもたれることが問題となります.
こういった場合には必ず利益相反に関して開示する必要があるわけです.
どのように公表するのか?
利益相反の関係にある場合,その事実を隠すことなく正確に公表することが重要となります.
口述発表の場合には,タイトルの後の2枚目に利益相反開示のスライドを挿入するのが一般的です.
学会によっては利益相反開示のためのスライドのフォーマットが用意されておりますので,ホームページからダウンロードして使用することも可能です.
ポスター発表の場合にも,ボスターのどこかに同一の内容を表示することで開示をします.
抄録原稿や論文の場合には,利益相反の有無のみの記述となりますが,利益相反がある場合には,どのような関係にあるのかについて,問い合わせに応じられるようにしておくことが重要です.
どの程度の利益相反の関係から公表するのかについては,学会によって異なるので,各学会が定める公表の基準を確認することが大切です.
また,研究倫即審査委員会にて研究計画書の審査を受ける場合にも,あらかじめ利益相反に関して自己申告が必要なこともあります.
今回は利益相反について考えてみました.
産学連携の視点で考えると,企業から支援を受けながら研究を行ったり,企業からの講演・執筆依頼というのは決して悪いことではありません.
きちんと公表すれば問題無いわけですね.
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