理学療法士の視点で見る受動的システムとしての腸脛靭帯

人工股関節全置換術
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 受動的システムとしての腸脛靭帯 

前回の記事では腸脛靭帯の張力増加が,脛骨や膝蓋骨の変位を引き起こし,さまざまな問題を生じさせる原因となることをご紹介いたしました.

腸脛靭帯の張力増加はマルアライメントや姿勢異常を引き起こすことから,negativeな要因としてとらえられることが多いわけですが,実はこの張力増加が姿勢安定性に寄与する働きを持つといった側面もあります.

今回もまたこの腸脛靭帯の張力増加に関して考えてみたいと思います.

 

 

 

 腸脛靭帯の張力増加はなぜ起こるのか? 

では腸脛靱帯の張力増加は,なぜ生じるのでしょうか?

腸脛靭帯は,自らが能動的に収縮して緊張することはできないため,理論的には解剖学的に連続する筋の収縮,もしくは伸張による張力の増加,あるいは腸脛靭帯がまたぐ股関節や膝関節の角度変化があれば,腸脛靭帯の張力が変化することとなります.

しかしながら,腸脛靱帯に影響を与える要因がさまざまであり,また生体において腸脛靱帯の張力を測定すること自体が技術的に困難であったため,現在まで実際にどの要因の影響が大きいか定かになっておりませんでした.

 

超音波エラストグラフィを使用した最新の研究によると,荷重位で姿勢を変化させた際の腸脛靱帯の硬さは変化することが明らかにされております.

この研究によると,前額面における股関節および膝関節の角度と外的負荷を変化させて,その際の腸脛靱帯の硬度の変化を調べた結果,腸脛靭帯が最も硬くなるのは股関節内転位で,かつ外的股関節・膝関節内転モーメントも大きくなる姿勢であったと報告されております.

全体的には,股関節外転位よりも股関節内転位のほうが腸脛靱帯の硬度は増加します.

股関節内転位では腸脛靱帯が伸張位になることが,その原因だと考えられます.

しかしながら,ここで重要なことは股関節が内転するだけでは,必ずしも腸脛靭帯が硬くはなっておらず,併せて外的負荷が増大した場合に腸脛靱帯が硬くなっているといった点です.

外的股関節・膝関節内転モーメントが増加した姿勢を保持するためには,股関節・膝関節の外側の支持機構での力発揮が必要であり,そのためには外側にある筋の収縮力を高めることが考えられます.

しかしここで興味深いのは,内転角度が大きくなっても中殿筋や大腿筋膜張筋の筋活動には有意な変化はなく,外的負荷の増加に対して積極的に筋活動を高めるという対応はしていないということになります.

股関節内転位では腸脛靱帯が伸張位にあり,伸張により発揮される受動的張力が使いやすい環境にあります.

そのため外的負荷の増加に対して,主に腸脛靱帯の張力増加により対応することを優先しているものと考えられます.

つまり筋活動を使うことなく,腸脛靭帯の張力を使用して外的負荷に対応しているということになります.

 

 

 

 腸脛靭帯の受動的システムとは? 

前述したような腸脛靭帯の張力を使用した外的負荷に対する対応は受動的システムと呼ばれます.

一方で筋活動を使用した外的負荷に対する対応は能動的システムと呼ばれます.

あくまで推論ですが,受動的システムが機能しやすい環境にある(軟部組織が伸張位にある)場合には,能動的システムをわざわざ機能させずに受動的システムを優先して使用するといったシステムが備わっているものと考えられます.

単純な話ですが,能動的システムを機能させるためのエネルギー消費を抑えることに貢献するのかもしれません.

実際に,ヒトはなにげなく立っている時,特に集中して何か作業をしているわけではない時に,片側の下肢に体重をかけて股関節を内転位にした姿勢をとっていることが多いわけです.

いわゆる「休め」の姿勢ですね.

このような「休め」の姿勢は,受動的システムに依然した姿勢であると考えることができます

前述したように,股関節内転位での支持では,股関節中間位での支持に比較して,股関節外転筋群の筋活動は減少するわけです.

この受動的なシステムは一見非常に効率的なシステムであると考えられますが,受動的システムへの過剰な依存は,受動的組織の過度なストレスから前,さまざまな問題を生じさせる危険性も考えられます.

 

 

 

 腸脛靭帯硬度が高まるのは股関節内転位だけではない 

この研究によると,股関節内転位だけでなく,股関節伸展位や外旋位でも,腸脛靱帯の硬度が増加することが明らかにされております.

単純な話ですが,大腿筋膜張筋が伸張位になれば腸脛靭帯の硬度は高くなるというわけです.

したがって腸脛靭帯炎のクライアントの治療にあたっては,患者の姿勢や動作時のアライメントを評価した上で,腸脛靱帯の硬度が増加しやすい股関節内転・伸展・外旋位が強調されていないか,確認することが重要であると考えられます.

 

 

 

 

 

今回は腸脛靭帯の張力増加による受動的システムについて考えてみました.

超音波エラストグラフィを使用したこの手の研究は,臨床上も大変有益な情報をもたらしてくれます.

今後もこういった情報に注目しておく必要がありそうですね.

 

参考文献

1)Tateuchi H, et al : The effect of angle and moment of the hip and knee joint on iliotibial band hardness. Gait posture41 : 522-528, 2015

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