目次
小殿筋ってそんなに重要なの?
股関節深層筋のトレーニングについてはいくつかの報告があります.
特に変形性股関節症や人工股関節全置換術後の理学療法においては,昔から股関節外転筋力の機能改善を図ることが重要であると考えられてきました.
昨今,股関節外転筋群の中でも小殿筋に着目した研究報告が増えてきております.
今回は小殿筋の活動に着目した筋力トレーニングについて考えてみたいと思います.
小殿筋の筋力トレーニングがなぜ重要なのか?
股関節外転筋の筋線維走行を考えてみると,中殿筋前部線維・中部線維は水平面に対しほぼ垂直に走行しており,小殿筋と中殿筋後部線維は大腿骨頸部と平行に走行しているといった特徴があります.
そのため,従来一般的に行われてきた中殿筋に着目したトレーニングでは,寛骨臼の荷重部に対し骨頭を押し付けるため,力学的ストレスが荷重部に集中するおそれがあります.
しかしながら小殿筋の筋線維走行は股関節求心位方向へ向いているため,寛骨臼全面で力を受けることができます.
そのため荷重部へのストレスを軽減させた筋力強化ができる可能性があり,選択的な小殿筋のトレーニングが重要であると考えられます.
どうすれば小殿筋を活動させることができるのか?
小殿筋の等尺性収縮における筋力トレーニングに関して,股関節伸展10°と外転20°での低負荷運動で小股筋の収縮率が高くなり,股関節伸展位・外転位のどちらかでトレーニングを行うことがよいとされているおります.
またワイヤ電極を用いた研究によると,股関節外転0°に比べ外転20°で小殿筋の筋活動が高くなることが明らかにされております.
したがってこれらの筋電図学的な特性から考えると,股関節外転位で外転筋力トレーニングを実施すれば,小殿筋の活動を優位にしたトレーニングが可能になると考えられます.
動作や活動につながる筋力トレーニング
先の報告では外転角度を一定にして等尺性収縮時における,小殿筋の筋活動を検討しておりますが,日常生活ではこのような等尺性収縮より等張性収縮での筋力発揮が求められることが多いわけです.
そこでOKC(open kinetic chain)での等張性外転運動時の筋活動についても検討がなされております.
その結果,中殿筋よりも小殿筋の筋活動量が高いことが明らかにされており,負荷量においては中殿筋の筋活動を最も抑えた最大随意筋力の20%でのトレーニングがよいと考えられます.
つまり軽負荷の方が小殿筋を活動させやすいと考えられます.
次に臥位で行うCKCのトレーニング方法としては,下肢の押し出し運動などがあります.
この方法は理学療法士が患肢の踵骨を把持して中枢方向へ抵抗を加え,クライアントは下肢を長軸方向に押し出すように力を加えます.
このときには患側の骨盤を下制させることで股関節が相対的外転位としてトレーニングを行うことが重要です.
また臨床におけるCKCトレーニングとして,最も多く用いられるのは患側下肢支持で片脚立位姿勢を保持し,対側下肢を外転位にする方法です.
ワイヤ電極を用いて筋活動を調査した報告によると,片脚立位をするだけでも小殿筋の活動は得られることが確認されております.
さらに対側下肢を外転位にすることで,より高い筋放電が認められます.
対側下肢を外転すると支持側股関節は外転位になるため,小殿筋の筋活動を高めることが可能となるわけです.
よって片脚立位後に対側下肢をゆっくりと外転させる方法が小殿筋トレーニングとして有効であると考えられます.
筋の収縮様式を考盧した筋力トレーニング
筋力トレーニングを実施する際には,筋の収縮様式を考慮することも重要です.
筋の収縮様式は等尺性収縮と等張性収縮に大別されます.
さらに等張性収縮は求心性収縮と遠心性収縮に分類されます.
特に歩行など日常生活活動では等張性収縮での筋活動が主であり,等張性収縮でも求心性収縮と遠心性収縮の両収縮における筋力発揮が求められます.
例えば歩行においては,初期接地から荷重応答期にかけて,前額面上では骨盤が遊脚側へ約5.°傾斜します.
このときの股関節外転筋は,遠心性収縮における筋力発揮が求められます.
また矢状面上では膝関節において,荷重応答期から立脚中期にかけて20°程度屈曲するため,このときも膝伸展筋は遠心性収縮における筋力発揮が求められます.
このように遠心性収縮で筋力発揮することで衝撃吸収ができ,より安定した動作へと結びつくわけです.
したがって筋力トレーニングを実施する際には遠心性収縮を意識した筋力トレーニングを行うことが重要です.
具体的な筋力トレーニングの方法
OKCでの筋力トレーニングの方法としては,枕などを両膝に入れた側臥位として,上側下肢を外転位で保持し,その後外転位から中間位へとゆっくりと下肢を降ろしていきます.
人工股関節全置換術(THA)直後は,自重だけでも負荷量が多くなってしまうため,自動介助での運動が勧められます.
逆に自重での負荷だけでは不十分な場合は,重錘などを用いて負荷量を上げるようにします.
CKCでの遠心性収縮の方法としては,高さ20cm程度の台の上で立位となり,健側下肢をゆっくりと台から降ろしていきます.
このとき患側下肢は徐々に内転位となるため外転筋は遠心性収縮となります.
参考文献
1)室伏祐介:等張性収縮における小臂筋筋活動と中臂筋筋活動の比較一ワイヤ電極を用いて一.理学療法科学,31 (4):597-600,2016.
2)口泰彦,ほか:下肢押し出し訓練を応用したTHA後早期のリハビリテーション.臨床整形外科,52(3) :239-244,2017.
3)足立直之ほか:足部の筋緊張が多関節運動連鎖により下肢近位筋・体幹筋群に及ぼす影響理学療法学,34(suppl2) :493.2007.
コメント