運動は筋内の質を変えるのか?

運動療法・物理療法
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目次

 運動による筋内脂肪軽減効果は? 

昨今,筋肉の量だけではなく,筋肉の質が注目されております.

筋肉の質というのは,一般的には筋肉内の脂肪量を指標に質の評価がなされることが多いです.

今回は運動介入がこの筋内脂肪軽減に与える影響を検討した最新の研究報告をご紹介させていただきます.

 

 

 

 研究のサマリー 

今回ご紹介させていただきます研究では,自宅で手軽に行えるウォーキングやレジスタンストレーニングを10週間行うと,糖尿病のリスク因子とされる筋肉内に蓄積した脂肪を減らせる可能性があることが,日本人の高齢者を対象に行った研究で明らかにされております.

この研究は名古屋大学総合保健体育科学センター教授の秋間広氏と中京大学,早稲田大学が共同で実施し,詳細は「European Review of Aging and Physical Activity」11月19日オンライン版に掲載されております.

高齢者のレジスタンストレーニングはサルコペニア対策の一つとされますが,筋肉を増やすだけでなく,筋肉脂肪を減らし筋肉の質を改善するメリットもあると考えられます.

 

 

 

 筋肉内脂肪の何が悪いのか? 

筋肉内に蓄積した筋肉脂肪は“第三の脂肪”として知られ,インスリン抵抗性を引き起こし,糖尿病の発症リスクを高める可能性が指摘されております.

これまでの研究で専用のトレーニングマシンを用いた高負荷のレジスタンストレーニングは筋肉脂肪の減少に有効と報告されております.

しかしこうした運動は自宅で手軽に行えないという課題がありました.

この研究では,自宅で手軽に行えるウォーキングと自分の体重を負荷として用いる自重負荷レジスタンスレーニングを介入として筋肉内脂肪に与える影響を検討しております.

これまで脂肪と言えば,皮下脂肪と内臓脂肪に着目した研究が行われてきましたが,加えて“第三の脂肪”と呼ばれる異所性脂肪が注目されるようになってきております.

なかでも筋肉内に蓄積する脂肪は筋内脂肪と呼ばれ,2 型糖尿病の原因となるインスリン抵抗性を引き起こす可能性があること,加齢,肥満および運動不足によって増加すること,筋機能や運動機能の低下に影響する可能性があることなどが明らかにされております.

 

 

 

 研究の方法 

この研究では,高齢者64人を対象にウォーキングを行う群(31人,平均年齢72±5歳)またはウォーキング+自重負荷レジスタンスレーニングを行う群(33人,同73±6歳)の2群に分類して,自宅で10週間運動を行っております.

ウォーキングは1回30~60分を週2~3回,1日平均1万歩を目標としており,自重負荷レジスタンスレーニングは椅子座り立ちと太もも上げ,つま先立ち,脚の横上げ,腹筋運動を行い,各項目45回ずつの反復を1セットとして週2~3セットを目標としております.

運動継続の工夫として,これらの運動の動画が保存された DVD を高齢者に配布し,リズムに合わせて運動が行えるようにしております.

 

アウトカムですが,医療現場で用いられている超音波断層装置を使って撮影された太ももの前面と外側面の横断画像を,コンピュータにより分析し,筋肉部分の濃淡を示す輝度(筋内脂肪の指標)筋肉の厚み (筋量の指標)皮下脂肪の厚み (脂肪量の指標) を定量化しております.

 

さらに運動機能測定として,上体起こし測定(腹筋運動),床立ち上がり測定(日常生活に関連する機能),椅子座り立ち測定(下肢筋力指標),5m 最大速度歩行測定(歩行能力),6 分間歩行距離(持久力)の測定を行っております.

なお超音波測定と運動機能測定はトレーニング開始前と後の 2 回行なっております.

 

 

 

 研究の結果 

10週間後の変化を比較したところ,いずれの群も皮下脂肪量と筋量に変化はみられておりません.

一方で興味深いのは筋肉脂肪はいずれの群でも有意に減少し,ウォーキング単独の群に比べてレジスタンスレーニングを併用した群でより顕著に減少していることが明らかにされております.

また両群で腹筋力が,ウォーキング単独群では太もも前面部の筋力(椅子座り立ち運動)と歩行機能(5m最大速度歩行)が有意に改善しております.

 

さらに筋肉脂肪を反映する指標の変化と運動機能および筋量の変化には有意な相関関係がみられており,これは筋量が増えるほど筋肉脂肪が減少することを示す結果だと考えられます.

つまり筋肉脂肪が減少するとサルコペニアも改善することが示唆されるわけです.

 

これまでも糖尿病の運動療法においては,ウォーキングをはじめとする有酸素運動に加えて,レジスタンストレーニングを併用することで基礎代謝を増加させ,エネルギーを消費しやすい体作りを行うことが重要視されておりましたが,今回の研究結果からレジスタンストレーニングが,筋内脂肪の減少にも効果があることがわかります.

また運動の内容としても誰でも実施できる非常に簡単な運動でこのような効果が得られたといった点に非常に大きな意義があると思います.

今後も筋肉の質を改善するという観点から,レジスタンストレーニングの有用性に益々着目されることが予想されますので,この領域の研究に着目しておきたいところです.

 

 

 

参考文献

1)Akito Yoshiko, et al: Effects of 10-week walking and walking with home-based resistance training on muscle quality, muscle size, and physical functional tests in healthy older individuals . European Review of Aging and Physical Activity.

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