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TKAの理学療法を行う上で重要な膝蓋上嚢・膝蓋下脂肪体の役割
人工膝関節全置換術の理学療法では関節可動域獲得が1つの大きな目標となります.
以前の記事でも人工膝関節全置換術後の膝関節屈曲・伸展可動域制限の原因についてご紹介させていただきましたが,屈曲・伸展可動域に影響を与える軟部組織として膝蓋上嚢・膝蓋下脂肪体の動態が重要となります.
今回は理学療法士の視点で,膝蓋上嚢・膝蓋下脂肪体について考えてみたいと思います.
人工膝関節全置換術における皮切・関節侵入法
人工膝関節全置換術の皮切には,①Anterior straight longitudinal incision(正中縦切開),②Medial gentle curved incision,③Lateral curved incision等が挙げられます.
特に正中縦切開では内外反膝いずれも対応が可能なことから人工膝関節全置換術の皮切としては最も使用頻度が高いわけです.
一方で正中縦切開では皮線(皮膚のしわ)に直行するため瘢痕形成に伴う屈曲制限が生じやすいといった特徴もあります.
関節進入法としては,①Medial parapatellar approach,②Midvastus approach,③Subvastus approach,④Lateral parapatellar approach等が挙げられます.
中でもMedial parapatellar approachは最も膝関節を大きく展開できるため使用頻度も高いといった特徴があります.
またMedial parapatellar approachの利点として高度肥満・拘縮膝・再置換などの大きな展開を要する場合にも対応可能であるといった点も挙げられます.
ここで重要なのは皮切と関節進入法は異なるということです.
皮切だけみると膝蓋骨の中央を通るように侵襲が加えられているように見えますが,皮下では膝蓋骨を避けるようにして,膝蓋骨の内側に侵襲が加えられることが多いわけです.
このように人工膝関節全置換術における皮切・関節進入法ではほとんどの場合に,大腿遠位部に侵襲が加えられるわけです.
大腿遠位部の解剖
人工膝関節全置換術の皮切・関節侵入法がおよぶ大腿遠位部は,皮膚・皮下脂肪・筋膜・大腿四頭筋・膝蓋骨上脂肪体・膝蓋上嚢・大腿骨前脂肪体・大腿骨といった複数の組織が層状になっています.
通常はこの層状の組織間で滑走が起こりますが,癒着を引き起こすと組織間での滑走が制限されてしまいます.
人工膝関節全置換術後には組織修復のため線維芽細胞が増殖して肉芽組織が形成されます.
最終的に瘢痕組織へ置換されることで修復過程は終了するわけですが,この組織間の瘢痕形成を癒着とよびます.
同一組織間で生じる癒着については問題となりませんが,隣接組織間で癒着が生じると,組織間の滑走性の低下を招き関節可動域制限の原因となります.
さらに術後炎症期に腫張を合併していると,線維化・瘢痕化は助長されてしまいます.
大腿前面には膝蓋骨上脂肪体・大腿骨前脂肪体・膝蓋骨下脂肪体と呼ばれる組織が存在します.
膝蓋骨上脂肪体は膝蓋骨上端・膝蓋上嚢・大腿四頭筋腱遠位で形成される三角形を埋めるように存在しますが,膝関節屈曲時の大腿四頭筋腱の滑走や伸展機構の効率を高める役割を果たします.
大腿骨前脂肪体とは膝蓋上囊と大腿骨の間に存在する脂肪組織ですが,膝関節屈伸運動における膝蓋上囊の滑走性を維持するためには大腿k等前脂肪体の柔軟性は重要となります.
膝蓋骨下脂肪体は膝関節周囲外傷や変性により膝蓋下脂肪体に炎症が生じると,脂肪体の線維化が起こり,脂肪体の柔軟性が低下します.
結果として大腿脛骨関節・膝蓋大腿関節で脂肪体の挟み込みが生じ可動域制限の原因となります.
膝関節運動における膝蓋上嚢(上包)の重要性
膝関節屈曲運動における膝蓋上嚢の働きは非常に重要です.
図のように膝蓋上嚢は膝関節の屈曲に伴ってキャタピラのように滑走することで膝蓋骨が円滑に運動します.
膝蓋上嚢に癒着すると膝関節屈曲運動に伴って滑走しないため,膝蓋骨の下方(尾側)への移動が妨げられ,膝関節屈曲運動が制限されます.
大腿骨前面と膝蓋上嚢との間には大腿骨前脂肪体が位置します.
つまり膝関節屈曲運動時の膝蓋上襄の滑走は大腿骨前脂肪体の伸張によって達成されるわけです.
また膝蓋上嚢は中間広筋と連結を持つためPatella setting等を使用して中間広筋を収縮させることで膝蓋上嚢の癒着予防を図ることも有効です.
膝関節屈曲伸展運動時における膝蓋骨下脂肪体の動き
正常では膝関節伸展に伴い膝蓋骨が近位側へ移動し,膝蓋腱の緊張が高まることで膝蓋窩脂肪体は前方へ移動します.
膝蓋下脂肪体に線維化等の柔軟性低下があると,膝関節伸展に伴って膝蓋下脂肪体が前方へ移動しないため,膝蓋腱が緊張せず膝蓋下の扁平化をきたしてしまいます.
したがって膝蓋下脂肪体の柔軟性が低下すると膝関節伸展可動域が制限されてしまうことになります.
今回は理学療法士の視点で,膝蓋上嚢・膝蓋下脂肪体について考えてみました.
膝蓋上嚢・膝蓋下脂肪体の柔軟性低下によって可動域制限が生じることは少なくありませんので確実に整理しておきたい内容だと思います.
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