昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
平成30年12月15-16日に福岡県で第6回日本運動器理学療法士学会が開催されます.
今回はこの第6回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から大腿骨転子部骨折関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
目次
大腿骨転子部骨折の骨折型は術後早期移動能力に影響するか?
大腿骨転子部骨折の分類には従来,Evans分類が使用されてきましたが,ここ最近はJenssen分類や中野3D-CT分類を使用するのが一般的になってきております.
どの分類においても大腿骨転子部骨折は大きく分類すると安定型骨折と不安定型骨折に分類されます.
臨床上も不安定型骨折例で歩行獲得が遷延する傾向にありますが,この研究では,中野3D-CT分類による骨折型によって歩行能力に差があるかについて,他の基本属性と運動機能も含めて検討がなされております.
対象は大腿骨転子部骨折例67例(全例γ-nailによる骨接合術例)となっております.
調査項目は術後早期移動能力として歩行器歩行獲得日数,骨折型,年齢,患側股関節外転筋力,歩行時痛 (VAS),下肢荷重率,修正 TUG となっており,運動機能については術後 1 週の段階で計測がなされております.
歩行器歩行獲得日数を従属変数,その他の項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行なった結果,術後早期移動能力に影響を与える因子として筋力と年齢が抽出され,骨折型は関連要因から棄却されております.
この研究からは,大腿骨絵転子部骨折例の歩行能力に影響を与える要因としては,骨折型よりも先行研究で報告されている筋力や年齢の影響が大きいということがわかります.
大腿骨転子部骨折術後における退院時歩行時痛に影響を及ぼす因子
大腿骨転子部骨折術後の歩行能力回復に影響する因子としては,年齢,受傷前移動能力,認知機能,骨折型,筋力,疼痛など,様々な要因が報告されておりますが,大腿骨転子部骨折例は骨膜由来の疼痛が出現しやすく,疼痛が歩行や日常生活動作獲得の妨げとなるケースが少なくありません.
この研究では大腿骨転子部骨折例の術後疼痛にターゲットを当て,大腿骨転子部骨折例の退院時の歩行時痛に影響を与える要因が検討されております.
対象は手術的治療の対象となった大腿骨転子部骨折例28例となっております.
調査項目は,性別,年齢,骨折型,既往歴の有無,退院時歩行時痛(NRS),退院時FIM,退院時歩行自立度,退院時歩行形態,在院日数,入院時 Alb値,術後 Hb 値,術後 CRP 値,術後ラグスクリュースライディング量となっております.
退院時NRSを従属変数,その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果,退院時の歩行時痛に影響を与える要因として,骨折型,術後ラグスクリュースライディング(lag screw sliding)量,糖尿病の有無が抽出されております.
この研究の結果から考えると,大腿骨転子部骨折例における歩行時の疼痛には骨折型に加えて,術後のラグスクリュースライディング量が重要であると考えられます.
臨床上も不安定型骨折例においても,荷重歩行後のスライディングが大きい症例と小さい症例があり,スライディングが大きい症例ほど荷重痛が強く歩行獲得が遷延する傾向があります.
不安定型骨折例や術後にラグスクリューのスライディング量が大きい症例は,術後の髄内整復位や骨膜刺激,内側骨皮質の骨癒合不全,後壁損傷による股関節周囲筋群の安定性低下,ラグスクリューによる筋膜刺激,頚部短縮からの外転筋効率低下による歩行時側方動揺などが出現しやすく,歩行時に疼痛が出現しやすいものと考えられます.
髄内釘を用いた転子部骨折術後 12 か月の股外転筋力と運動機能の関連
大腿骨転子部骨折に対する手術療法は大きく分類すると,γ-nail等の髄内釘を挿入して骨接合術を行う方法と,Compression Hip Screw等のプレートを用いて骨接合術を行う方法に分類されます.
髄内釘を用いた骨接合術の場合には,大転子のリーミングによる中殿筋損傷が危惧されます.
これまでに髄内釘による骨接合術を行った大腿骨転子部骨折例の股関節外転筋力に関して長期的に調査を行った報告は無く,この研究では術後1年後の股関節外転筋力について検討し,髄内釘のリーミングによる中殿筋損傷の影響について検討しております.
対象は髄内釘を用いて治療を行った大腿骨転子部骨折24 例(平均年齢 75.3歳)となっております.
調査項目は術後 12 か月の股関節外転筋力のトルク体重比(Nm/kg),歩行再獲得率,Harris hip score,Time up and goとなっております.歩行再獲得率は受傷前の歩行様式と同じ水準が獲得できた者を歩行再獲得としております.
股関節外転筋力については患側および健側の筋力を測定しており,患側・健側で比較を行うとともに,股関節外転筋力の患健比と歩行再獲得率との寒冷性について検討がなされております.
結果ですが,股関節外転筋力は患側0.6±0.4Nm/kg,健側0.7±0.3Nm/kg であり,術後 12 か月においても患側の股関節外転筋力が有意に低下していました.
歩行再獲得率は67%(16 例 /24 例中)であり,歩行再獲得に至らなかった者は股関節外転筋力の患健比が有意に低下しておりました.
髄内釘挿入時のリーミングによる中殿筋損傷はまれではありませんが,大腿骨転子部骨折術後の股関節外転筋力低下に関する報告は少なく,経過観察時期も短期間の報告が多いのですが,この研究は術後 12 か月と中期的にも髄内釘による骨接合術を施行した大腿骨転子部骨折例における患側股関節外転筋力が低下していることを明らかにしているところに大きな意義があると思います.
また股関節外転筋力の患健比が歩行再獲得とも関連しており,髄内釘による骨接合術を施行した大腿骨転子部骨折例においては股関節外転筋力の強化を図ることが重要であると考えられます.
コメント