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股関節における開排動作獲得の重要性
変形性股関節症例,人工股関節全置換術例においては,日常生活動作能力向上を図る上で,開排動作の獲得が必要となります.
日本の和式スタイルの生活様式では,股関節の深屈曲を伴う日常生活動作が多く,股関節の大きい屈曲可動域が必要となるわけですが,股関節の構造上,屈曲可動域は股関節外転・外旋位で大きくなるため,開排動作が獲得できれば,効率的に日常生活動作の改善を図ることができるわけです.
今回は股関節の開排動作獲得について考えてみたいと思います.
股関節における開排動作と日常生活動作
股関節術後離床時期の患者において,股関節の開排動作の獲得は,その後の抗重力肢位での姿勢制御や,ズボンや下着の着脱,靴の着脱,爪切り動作,しゃがみ込み動作など生活動作において非常に重要となります.
特に後方アプローチによる人工股関節全置換術例や人工骨頭置換術例においては,脱臼肢位を回避するためにも股関節を外転・外旋しながら屈曲動作を行うことが重要となります.
さらに側方・前方アプローチの人工股関節全置換術例においても,股関節の構造上,屈曲可動域は股関節外転・外旋位で大きくなるため,開排動作の獲得や非常に重要となります.
また大腿骨頸部・転子部骨折後の急性期においては骨折部や創部の圧迫を避けるため,ベッド上臥位姿勢で股関節屈曲・内旋位となっていることが多く,股関節屈曲・外旋・外転可動域が制限されやすいといった特徴があります.
後方アプローチによる人工股関節全置換術例においても同様に創部への圧迫を回避するために,股関節を内旋しているケースは少なくありません.
こういった股関節屈曲・内旋肢位の長期化は,股関節周囲組織に器質的な変性を生じさせ,より著明な可動域制限や,廃用性の機能低下を助長させます.
股関節の開排動作とは
股関節の開排動作とは,臥位で膝関節・股関節屈曲位,足部接地肢位から大腿骨が外旋していくことと定義されます.
爪切り動作や靴下着脱動作の獲得を考えた場合には,日本リハビリテーション医学会が示しているような股関節・膝関節屈曲90°屈曲位での外旋可動域よりも開排動作の評価の方が重要であることは容易に想像がつきます.
自動運動で開排動作を行う場合には.股関節は外旋しますが,重力による外的モーメントは外旋方向に働くため,常に内旋筋での制動が必要となります.また運動軸を制動する筋として腸腰筋や深層外旋筋などがあげられ,中でも腸腰筋の役割が非常に重要となります.
腸腰筋は大腿骨頭の関節面上を走行しているため,特に小転子の骨片転位を伴う大腿骨転子部骨折患者においては腸腰筋の機能不全が生じ,股関節軸形成が行えず開排動作に障害をきたすことが少なくありません.
腸腰筋の機能低下が生じると,起始部で膜性連結をもつ横隔膜の機能障害が惹起され,股関節内旋筋の筋活動が優位になるなど,上行性・下行性に影響が波及するため,評価・治療においても全身的に介入していく必要があります.
股関節の開排制限に対する評価
股関節の開排運動制限を定量的に評価する方法には,開排値(股関節・膝関節屈曲90°で開排動作を行った際の床面から腓骨頭までの距離を棘果長で除したもの)やFABER testにおける床面と腓骨頭の距離を測定する方法が報告されておりますが,ペーパーとしてその妥当性や信頼性を報告したものは私が知る限りありません.
股関節の開排制限の原因
股関節の開排動作制限に対するアプローチを考える上では,股関節の開排動作制限の原因を考える必要があります.
股関節開排動作制限の原因として多いものとして以下の4つが挙げられます.
- 股関節内転筋群の伸張性低下(短縮・筋スパズム)
- 大腿筋膜張筋の伸張性低下(短縮・筋スパズム)
- 小殿筋下脂肪体の滑走性低下
- 大腿骨の形態的変化(大腿骨頸部前捻角の増大)
基本的には最終域における抵抗感や疼痛部位によって判断をしますが,大腿骨の形態的な変化についてはCraig testやX線の正面像からも大腿骨頸部の前捻の程度を評価することが可能です.
股関節内転筋群の伸張性低下や大腿筋膜張筋の伸張性低下に対しては持続的に伸張運動を行っていく方法が有用です.
特に変形性股関節症例においては股関節内転筋群の短縮が著しいことが多いので,人工股関節全置換術後にも股関節内転筋群の伸張性改善に難渋するケースが少なくありません.内転筋群の短縮が著しい場合には,手術中に内転筋群のリリースが施されることもあるほどです.
また開排動作時に臀部に疼痛を訴える症例においては,小殿筋下脂肪体の癒着が生じているケースもあるため,股関節内外旋運動を行いながら,小殿筋下脂肪体の滑走性を改善させるアプローチが有効です.
今回は股関節の開排動作獲得について考えてみました.
何事もそうですが開排動作制限の原因を考えた上でアプローチを行っていくことが重要です.
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