ここ最近,テレビのニュースでもハラスメントに関する話を耳にする機会は少なくありません.最近はスポーツ分野におけるパワーハラスメント問題が多く取り上げられております.経験年数が重要視される理学療法士・作業療法士の分野でも,表面化はしていないものの,古くから職場内におけるパワーハラスメントというのは,多くの職場で問題となっていると聞きます.今回はパワーハラスメントいわゆるパワハラについて考えてみたいと思います.
パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く [ 野原 蓉子 ]
目次
職場内におけるパワーハラスメント
職場におけるハラスメントは一度起こってしまうと,職員と組織に甚大な損失を与えてしまうことになりますので,あってはならないものです.ハラスメントといのは職員の個人としての尊厳を不当に傷つけ社会的に許されない行為な上に,働く人が能力を十分発揮することへの妨げにもなります.被害者職員はもちろんですガ,行為者も退職に至るなど,個人にとってだけでなく組織にとっても業務へ大きな支障をきたします.また情報がメディア等を通じて流出すれば,社会的にも悪影響を与えかねなません.パワーハラスメントに関して,平成 24 年に厚生労働省が国として初めて実態調査を行っております.この実態調査によると,過去3 年間に約5割もの企業がパワーハラスメントに関する相談を受けており,そのうちの約7割に実際にパワーハラスメントに該当する事案があったと報告されております.一方で職員(個人)を対象とした調査では,過去3年にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した職員は全体の約4分の1にも及んでおります.こういったデータを見れば,パワーハラスメントというのはどういった職場でも起こる可能性のある問題だと考えられます.
パワーハラスメントの定義
パワーハラスメントというのは,同じ職場で働く者に対して職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を利用して,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える,または職場環境を悪化させる行為を言います.パワーハラスメントというと上司から部下に行われるものと考えがちですが,先輩・後輩間はもちろんのこと,同僚間,さらには部下から上司に対して,様々な優位性を利用して行われるものが含まれます.つまり部下から上司というのもあり得るわけですので,「若い自分には関係ない」というものではないわけです.
どんな行為がパワーハラスメントになるの?
さてこの行為はパワーハラスメントに当たるでしょうか?
「①リハビリテーション科長が,②複数回クライアントを転倒させた部下の理学療法士に対して,③朝礼の際に部署職員の全員の前で,④怒鳴りつけるようにして叱った」
これをパワーハラスメントだと考える方もおられるかもしれませんが,これはパワーハラスメントとは言えません.この場合,部下である理学療法士の明らかな業務規律違反を上司であるリハビリテーション科長が業務上の相当範囲内で指導をしているからです.ただし③・④などは「相当範囲内」の線引きが難しいところです.まず叱るのであれば一対一が良い場合もありますし,怒鳴りつけるようにして叱ることが「相当範囲内」かと言われるとあやしいところです.つまり指導をする際の環境や指導の方法というのも非常に重要なわけです.
パワーハラスメントの6つの型
職場のパワーハラスメントの方については大きく分類すると6つに分類できます.
①身体的な攻撃暴行・傷害
②精神的な攻撃脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言
③人間関係からの切り離し隔離・仲間外し・無視
④過大な要求,業務上不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害
⑤過小な要求能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる,仕事を与えない
⑥個の侵害,私的なことに過度に立ち入る
①~③については,パワーハラスメントであると認識しやすいわけですが,④~⑥については難しいですね.④でいくと例えばリハビリテーション科長が部下に協会活動や・県士会活動を依頼することも業務上不要なことの範疇に含まれるでしょうし,遂行不可能なことの線引きというのは非常に難しいと思います.⑤についても同様に,どこからを過小な要求とするかといったところが問題になります.⑥についても「業務上の適正な指導範囲」といった視点で考えると,どこまで私的なところまで立ち入るかというのは非常に難しいと思います.対策としては,組織ごとに具体的な判断について,範囲を具体的に職場全体で明確にすることが重要となります.
職場のハラスメント第2版 適正な対応と実務 (労政時報選書) [ 中井智子 ]
今回は今話題のパワーハラスメントについて考えてみました.キーワードは「業務上の適正な指導範囲」というところになりますが,この解釈が非常に難しいと思います.また同僚間,さらには部下から上司に対してもパワーハラスメントが起こる可能性は十分に考えられます.皆様も改めて職場内のパワーハラスメントについて考えてみてはいかがでしょうか?
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