プラセボ効果をリハビリに活かす?

運動療法・物理療法
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プラセボ効果って聞くと皆さんはどんな印象を持ちますか?なんかあまり良いイメージを持たない理学療法士が多いのではないかと思いますが,実はプラセボ効果をうまくリハビリの中で使えれば,クライアントの満足度はもちろん治療効果も上がります.今回はこのプラセボ効果について考えてみたいと思います.

腰痛に対するシステマティックな評価とアプローチ〜病態を判別する機能評価と病態に応じた運動療法〜[理学療法 ME201-S 全4巻]

目次

 プラセボって何? 

プラセボというのは臨床研究においては「偽薬」といった意味で使われることが多いです.例えば疼痛に対する新しい鎮痛薬の効果を検証する際に,新薬で治療する介入群と,見た目は同等ですが中には何も入っていないカプセルを用意して,鎮痛効果を比較を行った場合に,中には何も入っていないカプセルを内服した群で疼痛が軽減したとします.このように薬剤が入っていなくともクライアントの治療に対する期待や満足度といった心理的な要因などから見られる治療効果のことをプラセボ効果と呼びます.理学療法で考えてみますと,超音波治療の非温熱効果について調査する際に,一定の出力と時間で治療される介入群に対し,見かけ上は全く同じように設定して,出力オフで同時間実施される対照群を設定した場合に,対照群にも効果がみられたとします.このように先ほどの新薬の例と同様に,治療をしていないにもかかわらず,心理的な要因によって治療効果が見られており,この対照群における治療効果もまたプラセボ効果と考えることができるでしょう.

 

 近年のプラセボ効果に関する研究によると 

実はこのプラセボ効果に関してもさまざまな研究が進められております.プラセボ効果というと心理的なものでしょとお考えの方が多いと思いますが,実は心理的なものだけではないようです.偽注射を投与された人の脳内でエンドルフィンの分泌を促す脳の領域が活性化されたとの報告や,エンドルフィンの阻害薬を混ぜた偽薬が投与された結果,プラセボ効果が起こらなかったといった報告からプラセボ効果にはエンドルフィンが関連していると考えられます.エンドルフィンというのは脳内で機能する神経伝達物質の一つですが,内在性オピオイドの1つでモルヒネ同様の作用を示すことが知られております.このエンドルフィンの鎮痛作用によってプラセボ効果が起こるわけです.

実はプラセボ効果というのはプラスの要因ばかりではありません.例えば超音波治療を行うクライアントに「副作用で肩が痛くなるかもしれません」といった教示を与えておくと,マイナスの効果が出ることもあります.これはノセボ効果と呼ばれるものですが,こういったノセボ効果を考える際には,副作用についてはもちろんわれわれには説明の義務があるわけですが,クライアントへの説明の仕方が重要であることがわかります.

また面白いことに偽の治療とわかっていてもプラセボ効果が出現するといった報告も散見されます.慢性腰痛を有するクライアント97名を通常治療群と通常治療+偽薬開示群(偽薬であることを説明した上で服用させた群)に分けて,腰痛の軽減率を調査した方向によると,通常治療群の腰痛軽減は9%であったのに対し,偽薬開示群の腰痛軽減率は30%であったと報告されております.おそるべしプラセボ効果!!さらに変形性膝関節症のクライアントに対し偽関節鏡視下手術(切開のみで関節内の操作無し)を行なったところ膝痛が改善したとの報告もあります.加えてプラセボ効果に関しては,治療に要する費用が高いほど効果が高いことも明らかにされております.

こう見てみるとプラセボ効果ってけっこう奥が深いのです.

 

 プラセボ効果って悪いもの? 

私もそうでしたがプラセボ効果と聞くと,あまり良い印象を持てない方が多いのではないのでしょうか?医療者の立場からすれば偽の介入によって効果が出るというのは,真の効果ではないわけですからこういった印象を持つのもいたしかたないと思います.またある治療の真の効果を検証する場合には,プラセボ効果を除外した上で,真の効果がどの程度あるのかを考える必要があります.しかしながら現実には,プラセボ効果の無い治療というのは存在しないと思いますし,プラセボ治療・プラセボ鎮痛という言葉があるくらいですから,臨床上は治療効果=プラセボ効果+真の治療効果といった形式で考える必要があります.前述したようにプラセボによる鎮痛をはじめとする治療効果は実験的にも証明されているわけですので,これを臨床上も活用しない手はありません.特に疼痛の中でも慢性痛に関しては,末梢の効果器による問題だけでなく,情動を司る海馬や扁桃体といった中枢神経系の可塑的変化との関連が明らかにされておりますので,プラセボ効果をうまく使う,すなわち身体が持っている内因性鎮痛を有効に活用することは,臨床的にはとても意味のあることだと考えられます.そもそもわれわれ理学療法士や作業療法士が提供するリハビリテーションサービスの目標は,疼痛を軽減させることにとどまるものでは無く,基本動作能力・日常生活動作能力を改善させ,クライアントの全人間的な復権を図ることにありますので,プラセボ鎮痛であっても疼痛を軽減させることができ,それに伴って基本動作能力や日常生活動作能力に改善が得られれば,われわれ理学療法士・作業療法士の目的は達成されたことになるとも考えられます.

 

 プラセボ効果を上手に活用するには? 

プラセボ効果を有効に活用することが重要であることはご理解いただけたかと思いますが,それではどのようにすれば有効に活用できるでしょうか.まず最も重要なのはわれわれ理学療法士・作業療法士とクライアントとの信頼関係です.全く同じ介入であっても,理学療法士や作業療法士とクライアントとの間で良好な信頼関係が形成されている場合と,信頼関係が希薄な場合では,得られるプラセボ効果の大きさも異なるものとなるでしょう.またわれわれ理学療法士・作業療法士のちょっとした振る舞いによってもプラセボ効果というのは大きく変化します.実施する治療内容やその一般的な効果を丁寧に説明し,クライアントに十分な理解が得られれば,プラセボ効果というのは大きなものとなるわけです.説明内容に限らず,説明の際の声の抑揚・表情・態度などがプラセボ効果の大きさを変化させますし,場合によってはノセボ効果のようなマイナス効果を生み出すことにもつながります.もちろんプラセボ効果を大きくすることが目的であっても嘘はいけません.あくまでも科学的な観点でこういった効果が報告されていますといった情報提供をしてあげることがわれわれの役割となります.

山口光國の「肩関節障害に対する理学療法」〜疼痛と可動域制限の評価と対応〜[理学療法 ME96-S 全3巻]

今回はプラセボ効果についてご紹介いたしました.プラセボ効果の力は絶大です.治療に活かさない手はありません.プラセボ効果を大きくするためにも,クライアントとの信頼関係,クライアントに対する説明が重要になるでしょう.

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