つまづきによる転倒を予防するためには体幹動揺に着目せよ

介護予防
スポンサーリンク
スポンサーリンク

目次

つまづきによる転倒を予防するためには体幹動揺に着目せよ

つまづきというとクリアランスが一つのカギになりますが,われわれ理学療法士・作業療法士が耳にすることが多いのは,フットクリアランスという用語よりもトークリアランスといった用語かもしれません.

つまづきによる転倒との関連を考える場合には,このフットクリアランス・トークリアランスが重要になるわけですが,つまづきによる転倒にはつま先が床面にひっかかる以外にも足部のその他の部位が接触して,転倒に至るといったケースも少なくないため,最近ではトークリアランスという用語よりもフットクリアランスという用語が多く用いられるようになってきております.

今回はフットクリアランスについて考えてみたいと思います.

 

高齢者介護予防のための多角的アプローチ〜要介護リスクを減少させる「フレイル・サルコペニア・転倒」への介入〜[理学療法 ME176-S 全3巻]

 

 

 

 

 

 

 

高齢者のフットクリアランスは小さいのか?

クリアランスというのは床面と足部との鉛直方向の距離を指します.

フットクリアランスというのは足部の最も低い部位から床面までの距離を,トークリアランスとは足趾と床面との距離を指します.

転倒の原因に関する調査では,「つまづく」・「すべる」・「ふらつく」といった転倒する際に多い受傷機転の中でも,「つまづき」による転倒が最も多いことが明らかにされており,歩行中につまずかないようにするためにはフットクリアランスを確保する必要があります.

通常,フットクリアランスは遊脚中期に最も小さくなりますが,一般的には10~20mm程度です.高齢者になると,このフットクリアランスが若年者よりも小さくなるような印象がありますが,実は歩行中のクリアランスを調査した報告によると,若年者と高齢者でフットクリアランスに有意な差は無いといった報告もあります.

一方で若年者よりも高齢者で,あるいは高齢者の中でも非転倒例よりも転倒例で,それぞれフットクリアランスの変動が大きくなることが明らかにされております.

すなわち転倒する高齢者は常にクリアランスが小さいということではなくて,クリアランスのばらつきが大きく,クリアランスが著しく小さくなった際につまづいて転倒するのではないかというのが最近の研究から考えられることです.

 

 

 

 

 

 

転倒とクリアランスとの関係

本邦の転倒の発生率は約20%であり,前述したように転倒の発生状況を調査した報告では,歩行中のつまずきによるものが圧倒的に多いわけです.

若年群と高齢群における快適歩行と最大歩行時のクリアランスを調査した報告によると,20歳代と50~70歳代のクリアランスを比較した結果,クリアランスには加齢の影響を認めないことが明らかにされております.

また足関節の角度に焦点をあてた報告では,65~70 歳代と比較すると70~74歳代では有意に足背屈角度が増加していることから,高齢になればなるほど意図的に足関節を背屈していることが示唆されております.

このようにクリアランス時の足関節の背屈角度についても,高齢者において低下しているわけではないことが明らかにされております.

では高齢者ではなぜ,つまずきによる転倒が多いのかという疑問が生じると思います.

この大きな原因はクリアランスのばらつきによるものだと考えられますが,このクリアランスのバラツキは遊脚期の足関節角度と膝関節角度のばらつきと正の相関があることが明らかにされております.

したがってつまずきやすい高齢者は,クリアランスが常に低下しているわけではなく,クリアランスが高い歩行周期と低い歩行周期があり,クリアランスが低い歩行周期に偶発的につまずきによる転倒を起こしていると考えられます.

さらに転倒を経験している被検者では体幹動揺のばらつきが大きいことも報告されております.

3軸加速度計を使用して歩行時の動揺と転倒との関連を調査した報告でも,歩行時の動揺と不規則性(歩行のバラツキ)が転倒と有意に関連していたとの報告が多く,体幹動揺のばらつきが遊脚期の足関節角度および膝関節角度のばらつきを生じさせ,結果としてクリアランスが低い歩行周期が起こり,つまづいて転倒してしまうと考えられます.

 

 

 

 

 

 

つまづきによる転倒を予防するためには

前述したつまづきの原因から考えると,つまづきによる転倒を予防するためには,足関節背屈可動域や下肢の挙上高に着目して理学療法を行うよりも,体幹の動揺性に着目して理学療法を行うことが重要になると考えられます.下肢を効果的に使用するための安定した体幹を作ることが,つまづきによる転倒予防につながるものと考えられます.

 

エピソードで学ぶ転倒予防78 医療・介護・在宅でのコモンプロブレムへの介入 [ 山田実 ]

 

 

 

 

 

参考文献
1)Barrett RS, et al : Asystematic review of the effect of aging and falls history on minimum foot clearance characteristics during level walkmg. GaitPosture32: 429-435,2010.
2)Mills PM, Barrett RS: Swing phase mechanics of healthy young elderly men. Human Movement science 20: 427- 446, 2001.
3)相馬正之,吉村茂和,寺沢泉:歩行時における最小拇趾・床間距離の加齢の影響について.臨床リハ11(10):955‐960, 2001.
4)Kaneko M, Morimoto Y, Kimura M, et al.: A Kinematic analysis of walking and physical fitness testing in elderly women. Can J Spt Sci 16(3): 223-228, 1991.
5)Chiba H, Ebihara S, Tomita N, et al:Differential gait kinematics between fallers and non fallers in community dwelling elderly people. Geriatrics & Gerontology International 5(2): 127-134, 2005

コメント

タイトルとURLをコピーしました